恋心、想花の如く。   作:氷桜

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「何をする」か。


<Chapter4-2-4>

 

<Chapter4-2-4>

 

がたり、と少しだけ障子を持ち上げる音。

するするとその後は引っ掛かる様子もない扉を開ける。

既に何百にも重なる数だけ開いてきたから、癖にも慣れる。

 

「あ、おはようござい…………茉子?」

『おう、ご主人。』

 

部屋の片隅に折り畳まれた布団。

既に二つ並んでいるのは、今後もやってくるという象徴か。

今更だな、と思いながら手を引いたまま――――いや。

手を握ったままの茉子ちゃんと共に部屋の中へ入り込む。

 

目覚まし代わりか、白湯のようなものが入った湯呑が一つ。

急須に入れているのか、中身がない湯呑も幾つか。

そして、手を付けられないまま捧げられたものが一つ。

深く追求する気もないけれど、隠す気もないなぁ、と。

今更になって少しだけ呆れる。

 

「おはよう、二人共。」

「あ、あの……。」

 

ただ、こうした少しずつの積み重ねでの要望。

現在の仮の身分を知るものなら、或いは苦笑を浮かべるのだろうか。

所詮は学生の間だけなのだから、と。

 

「……何してるんです?」

「いや……なんだろう、こうしたくて。」

 

先程の話は伏せながら。

朝方の話の一部だけでも相談したい。

後一時間もすれば廉太郎とレナさんも目覚めるだろう。

だから、それまでの間を少しでも貰えればと思いつつ。

 

「将臣くんが?」

「そう。」

 

子供のような考えだとは思いつつ。

少しでも触れていたい、と今更になって思って。

夜の間、寄り添いながら眠っていたというのに。

手を離すのが何故だか酷くもどかしい。

 

「…………茉子?」

 

()()()、と軋むような首の動き。

その隣で小さく笑うムラサメちゃん。

焦りの表情を増しながら、更に少しだけ。

腕に抱き着くような形になって、芳乃ちゃんの声に更に軋みが増す。

 

『ご主人、分かっておるじゃろ?』

「あー…………そうだな。

 芳乃ちゃん、隣に座っても大丈夫?」

 

このまま見ているのも面白いが、という童子特有の感情が見えているが。

それでも俺に振ってきたのはその辺りを全部飲み込んだ上でだろう。

”早く対処しないと厄介だぞ”と、長い付き合い故に助言してくれているのだと理解した。

 

「へ……は、はい。 勿論構いませんが……?」

「うん。 茉子ちゃんも。」

「将臣さん、ひょっとして怒ってたりしませんよねぇ……?」

 

腕を組んだまま(()()()手放そうとはしなかった)座り込み。

二人の距離を均等に保つ。

そのついでとばかりに笑みを浮かべていたムラサメちゃんへも手招き。

 

『吾輩もか?』

「ああ。 まだ朝も早いし大声を出したくもない……っていうのも有るんだが。

 ちょっと今朝方の話で出てきたことについて相談しておきたくて。」

「今朝……一体誰と?」

 

唯一ある程度の話を聞いていた茉子ちゃんは顔を俺から逸らしている。

残る二人は少しだけ考え込み、ほぼ同時にその名前に思い当たったらしい。

……普段なら即浮かぶ名前だろうが、今日は他の選択肢もあったから。

 

『「お父さん(やすはる)?」か?』

 

小さく頷く。

 

「詳しくは話さないけど、俺の意地があって。 ちょっと宣言してきた。」

「……()()、ですか。」

『珍しく男子(おのこ)らしく踏み出した、ということかの?』

 

珍しくとはなんだ、と思いはしたが。

今は関係ないので抑え込んで。

 

「その上で相談なんだけど……。」

 

一度全員に目を配った。

想いを重ねた二人。

そして、また違った意味で存在を重ねた一人。

相談するなら、他に無いのを改めて理解しながら。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()って何が有ると思う?」

 

そう、問い掛けた。

 

「……え?」

『すまぬ、ご主人。 意地は分かるが、言える範囲で良いから教えてくれぬか?』

 

疑問が二つ。

ぷるぷる震える黒髪が一人。

段々と細い目を向けられ始めているが良いのだろうか。

 

「そうだよな、そうなるよなぁ……。」

 

……色々と申し訳ないが、今気をそちらに向けられない。

後でフォローしよう。

 

「まあ一言で言うと、安晴さんに()()()()()を伝えてきた。」

「ふぇ?」

 

あ、今の言葉ちょっと可愛かった。

気の抜けた声って余り聞かないから新鮮だ。

じゃない、続き続き。

 

「で、そこで色々と話してきたんだけど……。」

「ちょ、ちょっと待ってください。 私達の現状、ですか?」

 

そんなに恐る恐る聞き返さなくても良いと思うんだが。

……いや、アレか?

これは俺が完全に覚悟決めて割り切ってるから言えることなのか?

 

「そう。 安晴さん、大体のことは分かった上で見逃してくれてたみたい。」

「~~~~~~~~~~!?」

 

あー、大分混乱してる。

まあ()()()()()()()()()()()()()()この程度じゃ済まなかったのは間違いない。

そういう意味合いでも、おおらか過ぎるあの人の性格に助けられてるとも言える。

……うん。 俺の今の保護者扱いの祖父ちゃんにバレたら唯じゃ済まない。

 

「で、その上で求められたのが成果。

 多分、それが無くても生きては行ける。 ただ。」

 

俺達の理想(ゆめ)は叶わない。

恐らくは何方かがまた、家のために人生を費やす事になりかねない。

若い内だからこそ言える/出来ることであると分かっていて。

失敗してしまえば、下手をすれば穂織は終わってしまうと。

そんな奇妙な直感が背中を擽っていた。

 

「だから、何らかの成果を求めて……準備なりをしたい。」

 

手伝ってくれ、と。

普段とは逆の立場で、協力を希った。

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