<Chapter4-2-7>
志那都荘に送り届けてから大回りで神社へ戻る。
住民や観光客が歩き回り始める時間帯。
そんな中で走り回る姿は少しばかり奇妙にも思われがちかと思えるが。
ずっと走り続けている恩恵からか、或いは弊害か。
一風景として捉えられているようで、特に視線も感じない。
(……廉太郎と
正直、身近で且つ全く問題がない相手は他に思いつくのが二人。
小春と芦花姉くらいで、ただそれらに接するのは中々難しい。
バイトと店の経営と。
”将来”の生活に関わることでは有るけれど。
”現在”の生活を疎かにして良いことなど何も有るわけはないので。
(同級生……に話せれば話したいが、条件上な。)
協力を依頼すること自体は簡単だ。
ただ、そうすれば当然『何故』という話になっていく。
最初は誤魔化すことだって出来るだろうが、いつかは目的が漏れる。
その場合の反応が少しだけ恐ろしい。
廉太郎のような、将来家を継ぐ人間でも知らないこととは言え。
俺達が知らないだけで伝えられている可能性は常に否定出来ないのだから。
(……多分、考え過ぎてるとは思う。 思うが。)
失敗を許されないことの恐ろしさを今になって再認識している。
今回はまだ積み重ねるのが許される。
ただ、一度しか機会がないことでその場で対応が必要な時。
俺は上手く動けるのか――――と。
走りながら、酸素が少なくなりつつ有る脳内で考え続ける。
(…………やっぱり分からないな。)
内心で考え込むのは既に癖となっていて。
その上で、自分一人ならまだしも。
そんな答えが導き出されてしまい小さく息を吐く。
途端に汗が吹き出し始め、はぁはぁと荒い呼吸を繰り返す。
気付けば無酸素運動……息を止めて走り込んでいたらしい。
目の前にはいつの間にか神社の境内が広がっている。
考え込みすぎるのも駄目だよなぁ、と。
いつもの答えに行き着いて。
中に戻ろうと手を掛ければ、同じタイミングで扉が開く。
「うお、っと!?」
「あらら。 お帰りなさい、早かったですね?」
危うく衝突しそうになって後ろに引く。
目の前に、両腕に布団を抱えた茉子ちゃん。
色合いからして俺が普段寝ているものではない。
恐らくは客室で使われた何方かだとは思う。
少しだけ立ち位置をずらして、彼女を先に外へと。
「あ、すみません。」
「いやいや……朝から大変だね。」
「逆です。 布団とかの大物の洗濯は休みじゃなきゃ難しいですし。」
「あ~。」
それもそうか。
常に家にいるならともかく、学校とかがある以上逆に平日が難しい。
つまりそういう意味合いでも芳乃ちゃんと同じ。
休日の、それも午前中が忙しくなっていくと。
「ですから休みの日は其処まで休んでもいられない、っていうのも本音です。」
「大変でしょ?」
「いえいえ。 好きでやっている所もありますし……。」
それに、と。
一言だけ付け加える。
「本来はこういうのも
「……自分のものは自分でやる、ってのも基本な気がしないでもないけどね。」
「其処まで気を使って貰えれば十二分でもありますよ。」
彼女に付き従うように、それでいて布団には触れないように。
汗や汚れを付着させないように少しだけ距離を置きながら。
こうして話すだけでも、俺からすれば心が少しだけでも和らいでいく。
「ワタシの話ではないんですが……ご先祖様ですね。
『妻が全部やるのが当然だ』って態度を取る婿入りしてきた人もいたらしいですし。」
「うっわぁ……。」
「当時では珍しかったようですけど、即座に追い出されたみたいですね。
バツ一になっても再婚出来ただけ良かったんでしょうけど。」
くすくす、と笑う顔の半分だけが此方を覗く。
笑い話に昇華できている分だけ、常陸家では語り継がれていることなのだろうが。
「……やっぱりそっちでも女筋の方が権力が強かったりするの?」
「そうですねぇ……。
ばさり、と物干し竿に引っ掛けて。
風で飛ばないように挟み込んだ上で、両手を服で一度擦る。
下に引っ張られて、普段よりも肢体が服に映し出された。
「なんとも?」
「あは~……ちょっとだけ恥ずかしいんですが。」
照れくさいようで、頬を少しだけなぞって。
まだ布団が残っているから、と住居側へ戻っていきながら雑談を続ける。
……本来なら、早く汗を流して手伝ったほうがいいんだろうけど。
お互いにその話を持ち出さなかった。
「ワタシの家って……何というんでしょうか。
こうしたお手伝い的なことが好きな家系に近いんです。」
「……あ~。」
「家族だけ……両親とワタシだけになればまたちょっと違うんですけど。
芳乃様達の手伝いをするのは好きでしていますし。
それに、将臣さんの色々なことは楽しんでやってます。」
付き従うのを楽しんでやれている、ということ……か?
まあ、色々やって貰っていつも有り難いと思ってるんだけど。
「……いつもありがとう。」
「いえ……ああ、でも。 そう言ってくれるんでしたら。」
くすり、と俺が好きな笑顔を浮かべて。
半回転して、顔と顔の距離を近付けて。
「いつか。 ご褒美待ってますね、
小さく囁いて、唇に人差し指を押し当てられ。
その後、ほんの少しの間だけ動けずに。
目の前の彼女も、同じように笑いながら。
どうにも動けない――――そんな様子を見せていた。