<Chapter4-2-12>
あれも足りず、これも足りず。
結局のところ。
俺達は、対症療法的に今まで対応してきた事による負債を受けている。
こう言ってしまうのもアレだが、何も知らずに――――現れたら倒す、と。
ある種のお決まりの対応に成り下がってしまっていた、とはっきりしただけ。
「もう少し考えておけば良かったんでしょうか……?」
「いえ……そんな余裕も有りませんでしたから」
『本来は駒川の家がやることを、吾輩達が深掘りしているだけじゃからの』
現れる頻度、時間、影響、数。
それらを少しでも記録に残していれば別だったのかもしれないが。
例の倉庫の火事で過去の記録も焼け、そして朝武の家の背負う役割を考えると。
捻出できる時間の少なさが明らかに少ない、というのも頷ける話だ。
ボソリ、と独り言のように漏らす芳乃ちゃんの一言。
二人がフォローする中で、俺は何故か声さえも掛けずにその状況を俯瞰していた。
(……多分、
ただ、完全にってわけじゃなく……自然発生的に漏れ出してるのも間違いない。)
俺が気にし出したのは、
少なくとも人一人から始まったはずの呪い。
けれど今でもそれは続いており、悪意自体も少しずつ更新され続けているのだとすれば。
(
それはふと浮かんだ考え方。
可能性を否定しない、という話の最中だからこそ浮かんだような気がする。
対処方法として、或いは大元への対策として。
それ自体への動き方をし続けていたのとはまた別のアプローチ。
少しだけ、本気で掘り下げてみる。
(今の意識……負の感情の大元は朝武家の長男の意思。
それに追加した住民達の感情と……周囲に住む偏見なんかの悪感情。
後は多分他にも何かが混ざってるとして四つか。)
実際に検査機器や道具で調査が行えるわけではない。
だからこそ、辿れるのは感覚による調査と過去の書物に寄る記録。
後は散々に創作物なんかで語られてきた『集合知識』の合併物か。
最後のは実際にあるかどうかは別として、『ある』モノとして。
この辺を基底にし、考え得るモノを辿る。
(人として生きていく以上、完全に負の感情を消すことは出来ない。
特に穂織の場合は……『イヌツキ』って評価もあるから周囲からはそう見られる。)
最初の一つに関しては今すぐに対応が出来るものじゃない。
今後、四人で片付けるものとして最初から思考の外へと向ける。
そして次に考え込んだのは、周囲の偏見を含んだ悪感情への対応。
ただ、これ自体は何かへの目的意識が傾いているようなものではない。
言ってしまうなら……土地全て、あの場所に住まう全てに対する思い込みか。
だからこそ誘導は出来ないし、恐らくはこの辺りが溜まり切ることで獣耳が発現していた。
毎日のように奉納の舞をしているにも関わらず、浄化しきれないのは。
恐らく、という前提が付くにしろ『変わる』という事への意識が向いていない事もある。
(つまり、この意識自体は減らすことは出来たとしても消し切るのは無理だ。
仮に偏見を消せたとしても、ほんの些細なことで浮かび上がるのは止められない。)
これへの対応……或いは対策として浮かぶのはやはり今の活動の延長上。
つまりは籠もってしまう、貯まる大元である欠片の浄化。
或いは更に一歩推し進め、利用しようとする悪意の主の浄化が正攻法だと思う。
(そして……多分、俺だから出来るのは残り一つの方だな。)
住民のふと浮かんでしまう感情を一つに纏める。
それが出来るかどうかはさておいて、実際に行った場合の影響を考える。
そして、それを為すために必要な行動を。
(負の感情を持たれるように行動する……ってのじゃ駄目だ。
一時的には効果があっても、もう一つの目標を達成できなくなる。)
時折飛んでくる、狙いが俺の方向へ切り替わる悪意の大半の頻度を増す。
つまり、祟り神の主導権を
朝武家へのモノと、別のモノ。
そうして最初に浮かんでしまったのは、俺と二人の関係性の発表。
ただ、この手は大々的には決して使えない。
安晴さんとの約束の事もあるし、同時に下手に噂になれば……。
(つまりは時間稼ぎの作戦、ってことだが……どうなんだ?)
将来的に関係性を発表した場合、それらが統合される恐れは十二分に考えられるが。
それまでに呪物……媒介を浄化できているならば今よりはマシになっている筈。
欠片の総数を調べ、最低でも半分以上が片付いているならマシにはなるとは思うが。
逆に言うなら、それまでの間は何があろうとも感づかれてはいけない。
そんな都合のいい方法が思いつくなら実行も出来るんだろうが。
(方向性の差し替え、ってのは良い案だと思ったんだがなぁ。)
俺の色々と不足している脳ではこれ以上思い付かず。
溜め息を漏らし――――そうして、ようやっと気付くことが一つ。
(……ん?)
ちらり、と三人を見れば押し黙ってしまった俺への視線。
視線が物理的作用を齎すのだったら、多分突き刺さりすぎて穴が空いてる。
苦笑いで誤魔化そうとして――――小さく笑みが浮かび上がった後。
『茉子』
「はい、ムラサメ様」
「ちょっと待て、物理的なのはやめろ!?」
何を考えていたのか吐け、とばかりに。
ムラサメちゃんの指示に従い、背後から羽交い締めに掛かる茉子ちゃんと。
目が全く以て笑っていない芳乃ちゃんの視線に、晒されることになった。