恋心、想花の如く。   作:氷桜

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推測から真実を見出し始めている気がしないでもない。
知識さえあれば推測は出来るんですよね、千恋の呪いの話。


<Chapter4-2-15>

 

<Chapter4-2-15>

 

「まだ起きてらっしゃいますか?」

 

そんな声と共に障子戸が開き。

黒髪を僅かに覗かせながら、湯から上がった時特有の香りと湯気を棚引かせる少女。

 

「あー、うん。 まだ一応」

「良かったです」

 

パソコンから顔をそちらに向き直せば、それなりの回数見たことのある湯着に身を包んだ茉子ちゃんの姿。

首筋や僅かに見える胸元の肌に目が吸われそうになり、理性でどうにか引き剥がしつつ。

顔へと視線を向け、上から下へと……つまりは座り込む彼女の動作を追い掛ける。

 

「どうかしたの?」

「いえ……特になにか理由がある、というわけでもないんですけどね」

 

昨晩も、その前も。

自宅に帰る回数が減りつつあるのは問題にならないのだろうか。

 

迂闊に踏み込めばそれこそ泥沼に踏み込むことになってしまうのだけど。

彼女の、彼女の家としての立ち位置上許される範疇……なのかなぁ。

一度は(資料を調べに、という名目と親への挨拶、という二つの理由から)顔を出しに行きたいけれど。

()()()()彼女が嫌がりそうな気がしないでもない。

 

そんなことを思いながらも、話を促すように小さく頷き。

部屋に似つかわしくない電化製品であるパソコンの画面を覗き込むように直ぐ近くへと擦り寄ってくる。

音がせず、代わりに例えにくい香りが鼻へと漂い。

少しだけ身動ぎしてしまったが……気付かれてないわけも、多分無いよなぁ。

 

「それは?」

「調べ物。 どうしても俺は前提知識とかが足りてないから」

 

勉強、と言い換えても良いのだろうけれど。

学校の勉強に本腰を入れず、どうしても身近な物に力を入れてしまう俺自身がいる。

勿論赤点なんて取ったら爺ちゃんに只で済まされるとは思ってないから、当たり前に勉強はするけれど。

それでも平均点からちょっと上ぐらいをずっと漂い続けてるのは、地頭の問題なんだろうか。

 

「真神……です、か」

「狼の擬神化、といえば良いのかな。 似たようなのは色々いるみたい」

 

自然現象を神としたもの。

存在した人やモノを神としたもの。

この神社の御神体と呼ばれるものを見たことがあるわけではないけれど……。

ある意味では、既に相棒と呼んでも良い叢雨丸本体もそう呼ばれる資格だってあると思う。

 

「狼……」

「どうかした?」

 

顎に手を当て考え込む姿勢。

普段余り見ない格好で、視線に対して無防備で。

見えてしまいかねない幾つもの部位から目を逸らしつつ、画面上とノートへと行ったり来たりを繰り返す。

 

「ああ、いえ……何と言えば良いんですかねー……」

 

少しだけ口籠ったように言葉を濁した後。

周囲をきょろきょろと見回し、二人しかいないのを確認するような行動。

そんな動きに、更に疑問を抱きながらも吐き出された言葉。

 

「芳乃様の生えてしまう……現れてしまう獣耳ですけど。

 あれって、犬なんですかね?狼なんですかね?と」

「え?」

 

……そう言われると、どうなんだろう。

 

生えてしまう原因は嘗ての呪いが主因、というのは家系に伝わっている想定的な意味でも良いとして。

『イヌツキ』と呼ばれていた過去から考えれば犬……と言い切ってしまいたくもなるのだが。

山犬や犬としての始まり、或いは狼と人の繋がりから考えた場合。

何方なのか、と俺達だけで言い切れる材料が殆ど無いことに気付かされる。

 

「気にしたこと無かったり……?」

「そう……ですね。 ()()()()()()、という考え方のほうが強かったですし」

 

それに何より、『イヌツキ』じゃないですか。

そんな言葉を漏らしながら、思考の海へと彼女も飛び込んだように思える。

 

「前に少し話したの聞いてたとは思うけど、名前だけで言うなら『犬神憑き』って捉えるのが単純だと思う。

 だから、その名前から引っ張るんだったら犬……の呪いなんだとは思うけど」

「けど?」

「もし、の話をするけど」

 

ありえない、とは思いながらも。

彼女にも見せるようにパソコンでその単語を入力し、分かりやすいページを開きながらに口走る。

 

「犬じゃなくて狼……或いは何か祀られるだけの存在だったとするのなら。

 朝武家に呪いが引き継がれ続ける理由にも繋がっちゃいかねないんだよね」

 

七代先まで祟る、なんて言葉がある。

末代まで祟る、と呼ばれる言葉に近しい言葉の一つ。

猫を殺すと七代、坊主を殺すと七代。

結局は『血が薄れるまで』、或いは本当の意味で『血が絶えるまで』呪い続ける呪い。

 

少し前にこれを考えた時、ずっと続いているのは周囲からの怨念が主因なんだと思っていた。

犬神に家が祟られるとしても、()()()()()()()()()()()いつかは恨みは消え失せる。

家系自体が正しく霊的なモノを引き継いでいる、という部分も大きい――――そう思っていたが。

 

「ええっと…………つまり?」

「多分、って前提だよ?」

「はい、それは勿論」

 

どう口にしていいものか。

恐らく、或いは俺の推定がどれだけ引っ掛かっているのか次第になってしまうけれど。

 

「芳乃ちゃんの家系に宿った呪いは幾つかの原因が混ざってる、って話はしたと思う」

「……はい。 ワタシの祖もそれに関わるんですから」

「獣耳の持ち主の怨念。 兄弟での殺し合いを切っ掛けにする怨念。

 周りから妬まれ、噂される怨念。 そして、それが山で熟成されてしまった怨念」

 

多分。

この想定が正しいのだとすれば。

 

「俺は、正直に言うなら二番目の……ムラサメちゃんにも関わる部分が一番大きいと思ってた」

 

当時の村人、巻き込まれた人々の恨みつらみ。

それを取り込んだ上で肥大した結果、犬という分かりやすい形で浮かび上がったのだと思っていたけれど。

 

「でも、もしかすれば――――最初の。 獣の、神格化されたそれの念が大きかったのかもしれない」

 

()()()()()()()()()

僅かずつでも浄化を始めることが出来た呪い。

俺の婆ちゃんにも、レナにも……知り合いの殆どを巻き込んでいるこれは。

まだ、欠片しか姿を見せていないのかもしれない。

 

そんなことを……何処まで漏らして良いものか。

不安そうな表情を浮かべた少女の前で。

僅かに、悩むことになった。

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