目覚めた後の話。
<Chapter1-3-1>
<Chapter1-3-1>
「ん……んん……。」
微かに滲む鈍痛の中、目を覚ました。
見慣れない部屋ではあるけれど、知らない部屋ではない場所。
「……あれ、この部屋。」
俺――――いつ戻ってきた?
確か、山で横から衝撃を受けて……それ以降記憶がない。
もしかして、アレは夢だったりするのだろうか。
右腕を持ち上げようとして。
「~~~~~~~~ッッッ!?」
焼けるような、内側から滲み出すような激痛が走った。
いや、これは腕じゃなくて右肩……肩?
咄嗟にその場所を触れれば、目の奥から星でも飛び出るような痛み。
良く良く見れば、自分の服も昨日のものとは違っている。
そして妙な匂いが全身からする……これ、湿布か?
「…………いや、どうやって?」
取り敢えず肩には出来る限り触れずにおこうと判断。
ただ、それにしてもどうやって戻ってきたのかが分からない。
部屋の中の違和感、といえば…………。
「…………すー……。」
「朝武、さん……?」
何かを行っている途中で寝てしまったのか、きちんとした寝方をしているわけではない。
文字通りに”寝落ち”したかのように掛け布団……俺の布団に倒れるようにして眠っている。
少しでも位置が逸れていれば掛け布団を譲ったのだがそれも難しい。
(んん…………?)
格好は昨日の朝見た寝間着。
ここから考えると……。
「今は寝かしておいてやれ。 徹夜で看病していたのだぞ、ご主人。」
「ムラサメちゃん。」
「我輩や茉子が面倒を見ると言ったのだがな。 頑なに自分が見ると言い張ったのだ。 ……ご主人、何処まで覚えている?」
「山で……あれ、なんか落ちたところまでかな。 今は?」
「翌日の昼、と言ったところだ。」
夜から昼間で寝込み続けていた、か。
本来なら二度と目覚めないことだってあり得たかもしれない以上、その程度で済んで良かったと思うが。
そもそも山に登る切っ掛けに関しては聞かないと。
「ムラサメちゃん、迷子の男の子は?」
「警察が見つけて保護してくれた。 だからもう心配する必要はないぞ。」
「そっか……良かった。」
「何が良かったのじゃ。 …………打ち所が悪ければ、二度と起きなかったかもしれぬと言うのに。」
「運が良かったっていうか……御守に護られたのかもなぁ。」
向けた視線は荷物入れのバッグに結び付いた御守。
アレを貰って以来、大きな怪我をした覚えも確かにないんだよな。
「多少の切り傷擦り傷、打撲裂傷。 意識が戻るようなら問題はないが、運が良かったと医者も言っておった。」
「……ああ、だからこんな湿布臭かったりするわけだ。 一番酷いのが多分この肩っぽいし。」
「そうか。 ……ご主人、すまない。」
「へ? 何が?」
「吾輩がもっとしっかり山の危険を告げていればこんな事にはならなかった。 だから、吾輩の責任だ。」
その顔は、後悔……と呼ぶには深すぎる感情が滲み出ていた。
生きていたから良かった、と。
その程度では自分を納得させられないと言いたげなそれは、自罰的な内面を浮き立たせていた。
「……いや、危険だってのは知ってた。 その上で進んだ自分のせいだから気にしないで欲しい。 だから、俺こそ謝らなきゃいけないんだよな。」
「知っていた?」
「なんで、とかは全然。 ただ危ない、と漠然的に知ってた。」
「何処で……いや、玄十郎か?」
「いや――――。」
そんな折。
声が聞こえたからなのか、失礼しますとひと声掛けて障子が開いた。
その奥にいたのは……。
「……有地様?」
「あ、おはようございます……いや、お昼過ぎてるからそんな時間でもないな。」
「有地様!」
「はい、有地です……ええと、昨日はご迷惑をお掛けしたみたいで……。」
深々と、まだ布団に入ったままではあったけど礼と謝罪。
誰に迷惑を掛けたのかが分かってないけど、少なくともムラサメちゃんを含めた四人には心配も掛けたはずだ。
これくらいしないと、ちょっと心が痛い。
「いえ、お身体の方は?」
「大体は大丈夫。 若干右肩に痛みがあるくらいかな。」
そんな言葉を告げれば、少しだけ顔色が変わった。
なんと言うか、悲しそうな。
けれど、そんな顔は直ぐに別の……真面目な顔色の奥へと隠れて。
「診察はきちんと受けてくださいね。 先生も何かあれば連絡がほしい、と仰っていましたから。」
「勿論……なんて言っても信用してもらえないとは思うけど。 何かあればちゃんと言います。」
「はい。 でも本当に良かったです。 ムラサメ様も一安心できたのでは有りませんか?」
「まあな。 ご主人が意識を失っている姿を見て肝が冷えたぞ。」
……?
あれ、今の会話からすると。
「常陸さんも、ムラサメちゃんが見える?」
「そうだな。 ご主人を除けば、見える例外が芳乃と茉子だ。」
「へえ……。」
建実神社の直系だから見える、とか想定してたけどそうでもないのか。
なら、見える基準はなんだろう。
ちょっとだけ気になる。
「所で、ちょっと聞いていい?」
「はい?」
「気付いたら着替えてたみたいなんだけど……これ、どうして?」
「着替えですか? それは、ワタシが。」
「えっ。」
…………え、これ素肌の上に浴衣みたいな寝間着だよな?
下着も無いんだけど……えっ?
「あの…………ズボンは愚か、下まで無いんですけど……。」
「ふふ~。」
「何その怪しい目は!? ひょっとして見たりしました!?」
もし見られていたとなると、大分辛い。
どんな風に思われたのか、考える方向が大体マイナス方向と言うか……。
少なくとも「小さい」とか思われてたら静かに泣くぞ俺。
「安心して下さい。 想像しているようなことはしてませんから。」
「信じていいんだよね!?」
「ご安心を。 見せられた、なんて訴えるつもりは有りませんから。」
「勝手に見ておいてそれは卑怯だろぉ!?」
「あは♪」
いやマジで見られたのか!?
誰か……誰か、朝武さんにでも昨晩のことを確認……ってそれもセクハラだ!
どうしろってんだよ!?
「うぐぐぐ……。」
「……いや、何を自分の股間を見つめて唸っておるのだ?」
「いや……もし見られてたらちょっと泣きたいな、と。 後リベンジの手段を。」
「する意味がなかろう。 阿呆か?」
一刀両断しないで欲しい。
これは男の沽券に関わる内容だから。
「いや……見てほしいなら見ますけれどもね?」
「え、何その言い方。」
「まあ、さっきまでのは冗談ってことです。 玄十郎様におまかせしましたから、他は誰も見てませんよ、有地様。」
「……ああ、良かった。」
今の、常陸さんの発言で何となく理解してしまった。
冗談めかしてはいるけれど。
彼女は、本当に『忍び』として仕えるべき相手に従うことが大前提になっていると。
その範疇に俺が入っているのは……多分叢雨丸の担い手となったから。
そして、朝武さんの暫定婚約者となっているから。
仮に俺が本気で望めば、彼女は内心はどうあれ対応するのだろう。
それが、酷く――――
だから。
「で、ごめん。 朝武さんが起きる前に一つ聞かせて欲しい。」
「はい?」
「何じゃ?」
「……俺、昨日山で奇妙な生物……黒い何かに襲われてる。 それについて、知ってるよな?」
一歩、踏み込んだ。
遠ざけられているモノへ、意識を向けた。
二人は、一度目を合わせて頷きあった。
何かを示し合わせるかのように。
「……芳乃が起きたら、此奴の口から聞くのが確実だろうな。」
「でしょうね。 ワタシも、同席できるのならそうさせて貰います。」
……ならば。
看病してくれていた、彼女の目覚めを待とう。
それまでは、少しだけ。
今は、このままで。
茉子に「過去」について踏み入れさせる部分の分岐。
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買い物デート(Chapter1-3)
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焼き魚もぐもぐ(Chapter2-5)