そして、アンケート結果。
<Chapter1-3-3>
「と、言ってもなぁ……。」
部屋で荷物の整理をしながら。
先程の話……朝武家と妖怪に関しての話を考える。
(まず、妖怪を祓う手段は
此処にお世話になることになった理由。
過去に本体を討ち果たしたという叢雨丸の担い手。
……俺自身が扱えるかどうか、という問題は置いておいて、手段自体はある。
(次、祟り神の発生の確認は……多分、出来るんだろうな。)
朝武さんの獣耳の出てくる条件からして、距離はそこまで関係ない。
血筋自体を呪っている、というのならどれだけ離れていても出てしまうものなのだろう。
……そう考えると、彼女が外に出るのは殆ど無いということか。
(後は…………。)
打ち祓うのは決して簡単ではない。
それに……『任せた』なんて、口が裂けても言いたくはない。
不意に、肩の痛みが増した気がした。
「……有地様、此方にいますか?」
「あ、はい……その声は、常陸さん?」
「はい、少し大丈夫ですか?」
「あ、どうぞどうぞ。」
広げていた服なんかを棚に片付けてしまう。
……そう言えば昨日着ていた服はどうしたんだろうか。
気に入ってた服だったし、破れたりしてなければ良いんだけど。
そんな動きが止まったのを確認して、常陸さんが部屋の中へ入ってきた。
「あら。 ムラサメ様は何方に?」
「考え事するなら一人のほうが良いだろう、と。 『山に入るな』って口酸っぱく言われたよ。」
「そうですか……。」
「ムラサメちゃんに用事?」
「あっ、いえ。 有地様に。」
俺自身に用事?
一体なんだろう、と思う前に……ちょっと気になっていたことを。
「その前に……一つお願いがあって。」
「お願い、ですか?」
「その、様付けをやめて貰えないかな?」
俺は決してそんな呼ばれ方をしていい人間じゃない。
ただ、担い手になれただけの人間でしかないんだから。
「ですが……芳乃様の、
その目は、何処か寂しさを交え。
「朝武さんからは『正式に認めたわけじゃない』って言われてるし。」
「ああ……芳乃様は、そういう事言いますからねぇ。」
「それに……常陸さんは兎も角、『婚約者』ってことを知ってる人間はそう多くないはずなんだ。」
この家にいる四人にムラサメちゃん、後は祖父ちゃんくらいか?
もしかすると芦花姉とか廉太郎、小春も知ってるかもしれないけど……最大でもそれだけのはず。
「それが広まれば……俺は別にいいけど、朝武さんに負担になると思う。 だから。」
「……わかりました。 では取り敢えず、有地さん、と。」
「お願いします。」
同年代に様付けは流石に。
それに――――どうしても、初対面に見えない相手なのに。
そんな持ち上げられるのは、純粋に嫌だった。
「それで……常陸さんは一体何?」
「ああ、そうでした。 それがあって来たんでした。」
「?」
「少し……気分転換にデートしませんか?」
……?
デート?
「
そう、耳元で囁いて。
*****
「おっ、茉子ちゃん。 夕食の買い物?」
「はい。 お勧めありますか?」
「ウチは何でもおすすめだって知ってるだろ? でも、そうだなぁ……豚肉とかどうだい?」
昼間、と言うにはやや遅く。
夕方、と言うにはやや早い時間帯。
常陸さんが称する”デート”としてやってきたのは商店街。
都会ではもう余り見ない、専門店通りのような場所。
「豚肉ですかー……良いかもしれませんね。 では、ロースを頂けますか?」
「あいよ! いつもの量で良いのかい?」
「いえ、今日は一人分多めで。」
ちらちら視線を向けられてはいるが、疎外感と言うか……邪魔者扱いするような感じはしない。
単純に気になっているだけなんだろう、多分。
普段は常陸さんも一人で買い物するそうだし。
「じゃあこれ、おまけだ。」
そんな言葉と共に渡された揚げ物……コロッケだろうか。
別の袋に入れ、それらを腕に掛けながら見て回る。
「デートっていうか……買い物?」
「どうでしょうね~?」
「まあ、部屋で考え込んでるよりは良いかなぁ。」
何より、女の子との買い物なんてほぼ経験ないし。
こうして歩くだけでも、気分転換になるのは確か。
……デートって言うから、ドキドキしたけど。
「でも……婚約者がいる身でありながら、気軽にデートするなんて。 いけない人ですね。」
「誘ったの常陸さんでしょ……?」
「それはそれ、これはこれです。」
「ズルいなぁ。 ……でもなあ、浮気したとしても『お好きにどうぞ』とか言われそうだけど。」
「そうでもないですよ?」
え?
そうなの?
「いやまぁ、基本的にはそうなんですけどね。 とても大事なものになると……認めた人にしか見せなかったりもしますから。」
「ああ……その辺がしっかりしてるって感じなのかな?」
「ですねー。」
ただ、二人で道を歩く。
自然豊かな場所だから、こうしているだけで少し気分が上向いていく。
「おっ、茉子ちゃん。 夕食の買い物? 春キャベツどうだい!」
「あ、いいですねー。 今日トンカツにしようと思ってたところなんです。」
「そりゃあいい! ついでにこれ、おまけだ。 巫女姫様にも差し上げてくれ!」
袋に入った幾つかの塊。
ビニール袋越しに見える色からして……オレンジとか?
「あ、すいません。」
「良いんだよ、来年も楽しみにしてるって伝言頼む。」
「勿論!」
遠巻きに見つめる、というか戻ってくるのを待っている。
段々に増える荷物、少し持とうか聞いてみたが……。
まあ、怪我してるし身体の具合を逆に心配される始末だった。
「気を使ってありがとうございます。 でも、これくらいなら平気なんですよ。」
「忍者だから?」
「あー、ワタシが言おうとしたことを。 そうですよ、忍者ですから。」
からん。
道端の石を蹴飛ばして。
元来た道を戻りながら。
「本職は護衛ですからね、ワタシ。」
「……護衛、か。」
少しだけ、気になっていたことがある。
「その護衛する相手……って、祟り神?」
「今はそうですね。 昔は諜報なんかもやってたみたいですけど。」
「……その、参考までに教えて欲しいんだけど。」
「はい?」
聞いて良いのか、どうなのか。
ただ。
「常陸さんも、朝武さんも……怖くはないの? その、祟り神。」
「……怖い、って言ってほしいんですか?」
違う、と言いかけて。
咄嗟に見た目は……前にも見てしまった。
仮面のような、機械のような目。
「一族の務め。 穂織に暮らす人々、来る人々。 それらへの影響。 それらを考えれば、逃げるなんて考えたことも有りません。」
彼女自身の言葉ではないように聞こえた。
聞くべき時ではない、と感じてしまった。
「……朝武さんは、随分と慕われているようだったけど。」
「前にも言いましたけど、朝武はこの辺りを治めていた御家ですからね。 勿論、安晴様や芳乃様の人柄あってですけど。」
『逃げる』なんて選択肢は存在しないし、存在してはいけない。
人々のことを考えれば。
「慕ってくる相手を護りたい。 芳乃様の心の一端には、間違いなくそれもあると思いますよ。」
「……さて。」
気付けば、大分神社に近い場所まで戻ってきていた。
ただ、真っ直ぐ神社に向かう道ではなく少し逸れた場所。
山に近い、小さな広場……休憩所のように誂えられた場所。
「有地さん、誘った時の言葉覚えてます?」
「え?」
……確か。
「お互いに、聞きたいことがある?」
「はい、覚えててくれたんですね。」
少しだけ、風が吹いた。
常陸さんの髪の毛が、一瞬だけ目を覆った。
「人違いだったら、素直に謝ります。 ただ、何となくそんな気がしたっていうだけなので。」
もし、そうなら。
多分、唇は微かにそう動いた。
「……はい。」
「有地さん。」
そんな、ただ問われた内容なのに。
脳内に――――何かが、
茉子に「過去」について踏み入れさせる部分の分岐。
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買い物デート(Chapter1-3)
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焼き魚もぐもぐ(Chapter2-5)