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<Chapter1-3-4>
あれは――――確か、妙に暑さが続いていた夏休みだったと思う。
前日に山に登ることを知らない二人に止められて。
だからこそ、帰宅する前日に街中を探索していたんだったか。
廉太郎と小春は……宿題放り出してたから、それで足止めされてて。
たった一人、あっちこっちを走り回っていて。
「あれ、きのうの。」
そんな声を掛けられたのが、確かこの場所。
麦わら帽子を被った少女と、動きやすい格好をした少女。
その二人に見覚えがあって。
「おー、きのうの!」
「きのうぶり!」
「きのーぶり~!」
そんな、良く分からない挨拶をした。
その後はまあ、子供らしいと言えば子供らしい。
なにかすることがあるわけでもないのに走り回って。
疲れたら色んな事を話しして。
そして、当然のように日が暮れて。
「またあえる?」
そんな問い掛けをしてきたのは何方だったか。
名前も、顔も忘却していた今となっては覚えていない。
「おれ、あしたにはかえらなきゃいけないんだよなー。」
ただ、その質問の意図を理解していなかったと。
何となくは分かってしまった。
「……そっか。」
「でも、またくるから。」
たった二人でいつも遊んでいた理由。
それに気付けずに、俺が混じれた理由。
特異な目で見ない相手で。
ただの”友達”として扱ってくれる相手だったから。
「ぜったいだよ!?」
「わかったよ、やくそくだ。」
名前も知らない相手と結んだ約束。
仮に、それを覚えていたとしたら。
「なら、なまえおしえて!」
そんな、誰も知らない相手から。
名前を知る相手に変わる儀式。
小指を結んで小さく決める、子供騙しのような約束。
「わたし、*し*です。」
「おれは、ま**み。」
「
跡切れ跡切れのその名前。
だったはずなのに――――名前を、思い出せた。
「わたしたち、もうすこししたらやらなきゃいけないことがあるの。」
「べんきょうとか?」
「ううん、もっとだいじなことなんだって。」
「そっか。」
問われて、思い出せた。
何かに封じられていたように、紐解けた。
その意味は……分かるはずもないけれど。
「だったら、なにかあったらよべよ!」
「……いいの?」
「ともだちなんだろ? だったら、
そんな、忘れていたことを思い出した。
――――忘れてはいけないことを、思い出した。
*****
「……有地さん?」
気付けば、元の場所にいた。
目の前にいたのは心配そうに見つめる常陸さん……あの時、
「……ああ、大丈夫。」
「本当に大丈夫ですか? 頭を抱えて蹲ってましたけど。」
「なんだろう……忘れてたことを思い出させられた感じ?」
「?」
自分でも良く分からない感覚。
ただ、そう形容するしか無いと言うだけ。
「で、さっきの質問だけど……俺からも聞いていいかな。」
「ええ、勿論。」
「麦わら帽子とか被ってた? その時。」
「! ……はい。芳乃様は、ですけど。」
その後も幾つか質問をする。
その時にした話。
いつくらいだったのか。
名前を教えあったこと。
「……じゃあやっぱり、アレは。」
「はい。 ワタシと、芳乃様で間違いないかと。」
「……そっかぁ。」
何で忘れていたんだろう。
大雑把なことは覚えてるのに、ピンポイントで顔と名前と約束を。
……婆ちゃんに関してもこんな感じなんだよな。
「じゃあ……随分久々に会った訳だ。」
「ですね。 何年前でしょうか?」
「ん~……十年は経ってるかも。」
小学校に上る前かそのくらいだった筈。
まだ婆ちゃんが生きていて、休みの度に顔を見せていた頃だったから。
「そんなにですか。 でも、それくらいは経ってますよね。」
「今まで……ってのはまあ、聞くだけ無駄だよな。 教えて貰ってたし。」
「あは、どうでしょう?」
顔の仮面は剥がれ落ちていた。
自分の意志で笑っているように、話しているように見えた。
「……あー、常陸さん。 朝武さんはどうなんだ?」
「余り話すことも無い……というのが正解でしょうか。 覚えてるかは、ワタシには何とも。」
「そっか。」
少なくとも、俺は。
そうしている彼女のほうが魅力的に見えていた。
まだ2日……いや、昔を数えても4日しか顔を合わせていないけれど。
「ああ、スッキリしました。 喉に何かが引っかかってる感じがずっとしてたんです。」
「しかし、よく覚えてたな。」
「ああ……昨日の晩、有地さんが自分で呟いてましたよ?」
「マジでか?」
「マジ、です。」
昨日って言うと気絶していた時。
そんな時に呟くほどだったのか俺。
「それと。」
「?」
ニヤリ、と笑っていた。
からかいが多分に混じった表情で、日を背に呟いた。
「昔、名前教えた通り。 二人きりなら、”茉子”でも構いませんよ?
「…………浮気になる、とか言ってたの誰だよ。」
「さぁ?」
少なくとも、今の話で心の霧は晴れた気がする。
……そっちがそういう手に出るのなら。
「なら戻るか、
同じ手で返して。
「! …………そうですね。 戻りましょうか。」
微妙な距離感を保ったまま、神社へと戻る道へ足を進めた。
さっきまでより。
少しだけ、近くを歩きながら。