恋心、想花の如く。   作:氷桜

23 / 171
決意。


<Chapter1-3-6>

 

<Chapter1-3-6>

 

 

ぱちん、と何かを止める音が聞こえた。

 

「よし、っと。」

 

そんな音が響くリビングの中で、彼女の姿を見上げていた。

 

「……なあ、常陸さん?」

「どうかしましたか?」

 

格好を見つめて一言。

 

「……どうしたの、その格好。」

「これですか? 忍び装束です。 ワタシの正装なんですよ?」

「正装がそれ……?」

 

確かに額当てとか細々した部分は忍者っぽいけど。

くノ一っぽいけど。

色々と露出が激しすぎると思うんだけど!?

 

「変ですかね? これ、先祖伝来の由緒正しい衣装なんですよ?」

「代々そんな感じなの!?」

「流石に作り直したりはしてますけどね、古くなってきたり着れなくなったりしますし。」

 

その台詞に胸元を見そうになって慌てて目を逸らした。

多分分かってて言ってると思う。

口元がニヤニヤしているように見えたし。

 

「なんというかこう……伝奇的なのだとそういうの儀礼的な意味もあったりするよね。」

「はい。 清められているので霊的な加護もありますよ。 読むんですか?伝奇系とか。」

「割と好きなジャンルだったりする。」

 

ファンタジーも嫌いじゃないけど、オカルト系列は興味があったから。

その興味が生まれた理由も穂織が切っ掛けなんて、まあ口にはしないけど。

 

「茉子、準備できた?」

「はい、此方は大丈夫です。」

 

そんな声を掛けた朝武さんも巫女服。

獣耳が生えたままなのは、祟り神の穢れに反応してなんだろう。

 

「では…………行ってきます。」

「うん、気をつけて。」

 

幾度となく繰り返したんだろうやり取り。

そんな風に頭を下げ、外に出た所で。

ああ、どうせなら――――そんな事を思いつくには、少し遅かったような気もする。

 

「ああ、ちょっと待って常陸さん。」

「はい? まあ多少なら構いませんが。」

 

大急ぎで自室、そこに結び付けられた御守の紐を外す。

『安全祈願』なんて書かれた、何処にでもありそうな御守。

けれど、形見分けで貰った大事なモノだ。

 

それを手に取り、戻って手渡す。

 

「俺には『今』はこれくらいしか出来ないけど、これ持っていって。」

「これは……?」

「御守。 多分効果あると思う。」

 

朝武さんに手渡しても多分何だかんだ言って断られそうだから。

そんな打算を込みで、()()へ手渡す。

 

「良いんですかぁ~?」

「朝武さんが受け取ってくれるならそっちでも良かったけど。」

 

誂う時間があるわけでもないのだし、背中を押して外へと押し出す。

 

「気をつけて。」

「ですよね。 はい、お預かりします。」

 

そんな言葉を残し、二人を送り出して。

ぴしゃり、と閉じられた扉を前に、二人。

 

(……くそ。)

 

昨日、祟り神のことを思い出す。

今、送り出すしか出来ない自分に。

同行を願えば、拒否されるのが分かっていたから。

それでも――――。

 

()()()()、なんて烏滸がましいにも程があるのにな。)

 

だから。

自分の決意とは別に……彼の意志を、たった二人で聞いてみたかった。

聞ける機会など、早々あるわけではないから。

 

「……安晴さん。」

「ああ……何だい?」

「少しだけ、話をさせて貰ってもいいですか。」

「……勿論。」

 

多分、同性(おとこ)であるのと同時に。

入婿らしい彼も……今の俺と同じような苦しみを、味わってきただろうから。

 

「安晴さんも……やっぱり、思うところはあるんですよね。」

「それは…………ね。 本来なら芳乃を見送るんではなく、僕が何とかすべきだと思っているんだ。」

「……。」

「普段の舞は巫女……というより、直系が踊る必要がある。 祟り神は、僕が何とか。 そうしようと思ったこともあった。」

 

ただ、僕には出来なかった。

それは、大人が漏らす後悔だった。

先天的にどうしようもなく、後天的にも対処ができない才能の問題。

 

「その結果が……全治二ヶ月の怪我さ。 その時は、心配を大分掛けてしまった。」

「二ヶ月も……!?」

「ああ、もう完治はしているんだ。 ただ……そこで、理解させられてしまった。」

 

()()()()()()()()()()()()()、と。

 

「……茉子、常陸さんにはあるんですか?」

「芳乃よりは弱いそうだけど……僕よりは、ね。」

 

自分の娘と、仕えてくれる娘を送り出すしか出来ない。

そして嘗ては……恐らく、自分の妻を。

だから……うん、だからこそ。

そんな人ではないと半ば確信しながら、言葉を紡いだ。

 

「安晴さんが、俺を……その。 朝武さんの婚約者にしたのは……。」

「……確かに、そうも取られてしまうか。」

 

一度、頭を下げた。

その意味は……多分、相当に重いものだった。

 

「そういうつもりは全く無い。 勘違いをさせてしまって本当に申し訳ないけれども。」

「なら……?」

「幾つか理由はあるのだけれど……まず、祟り神が穂織以外に現れた場合。 その正体を誰も知らなければ。」

「被害が相当に、広がる?」

 

一度、頷いた。

 

「そして、僕としてはね――――芳乃の為を思って、こうさせて貰ったんだ。 玄十郎さんとも、相談して。」

「祖父ちゃんとも……?」

「見ていて分かると思うけれど、芳乃は……昔からしっかりした子でね。 自分の状況、役割を理解していた。」

 

昔を、思い出す。

確かに、大事なことだと理解していた。

 

「あの子が、年相応に遊んだり……笑ったりしていたのも、幼い頃だけだ。 僕の妻から役割を引き継いでからは、更に。」

 

笑っていた子が、笑顔を失っていく。

 

「そうなる前に、何とかしたかったけれど……僕では、駄目だった。」

「……だと、すると?」

「劇薬かもしれないけれど……あの子に、同年代の友人の触れ合いを作ってあげたかったんだ。」

 

特別視しない。

対等な、友人。

そういう意味合いでは――――常陸さんでは、駄目だったのだろう。

家自体が代々仕えている。 その役割に準じる。

幼いながらに、理解してしまう理性があったから。

 

「だから…………。」

「安晴さん。」

「うん?」

「俺も……ついさっきまで忘れていたんですけど。 彼女たちと、約束をしてたんです。」

 

婚約者という立ち位置で、無理にでも接させようとする。

その位しなければ、朝武さんは拒否……いや、今のように距離を置き続けただろうから。

それを壊せるのは多分、今は――――。

 

「約束?」

「”困っていたら、助けてやる”と。 ずっと、昔に。 ()()()()()()()()()()()()()()()

「!」

 

だから。

 

「……それ以上は言わないで下さい。 俺は、俺の意思で関わります。」

 

安晴さんの意思を聞いて。

二人との、約束を思い出した。

だから。

 

「ですから……これからも、宜しくお願いします。」

「ああ……宜しく、頼むよ。」

 

後はやるべきことを、するだけだ。

したいことを、しに行く。

それだけの話だ。

 

”二人”との約束。

その意味を、深く考えないまま。

その場を去って――――自分の部屋へと、足早に向かった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。