恋心、想花の如く。   作:氷桜

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初退治。
後は男の子の意地。


<Chapter1-3-7>

 

<Chapter1-3-7>

 

 

がさり、がさりと葉が擦れる音がする。

 

「なあ、ムラサメちゃん。」

「なんだ、ご主人。」

 

抜身の刀を持ち歩くわけには行かなかったから、適当な布と手頃な鞘に包んでの行軍。

きちんとした鞘もあるらしいが、少し整備をしたいと安晴さんは言っていた。

夜道だから……暗視というか、闇の中を見やすくする訓練も必要かもなぁと思いつつ。

声を掛け合いながら、二人で進む。

 

「安晴さん……やっぱり期待してる部分はあるよな。」

「それは……そうだろうな。 親というものは、そういうものだ。」

「ムラサメちゃんもそうだったのか?」

 

叢雨丸の管理者で、人柱になった。

俺は、何もかもを知らないし――――何もかもが足りていない。

 

「吾輩は、自分の意志で叢雨丸の管理者になった。 だから……親不孝と言えば、親不孝かも知れぬな。」

「それは……理由、聞いても大丈夫なのか。」

「とうに両親も眠っておるしな。 ……当時、吾輩は流行病に掛かっておった。」

「流行り病?」

 

言葉では知っている、実際風邪が流行っている時に熱を出したことだって一回くらいはある。

それでも、『治せる』今と『治せない』昔では。

その重みが、明らかに違う。

 

「同じ病で何人も倒れた。 だから――――そんな、半分は諦めの気持ちもあったのだがな。」

「……そっか。」

 

その時に死ぬ。

管理者として、一人で存在し続ける。

何方が辛いのか、なんて……当人にしか分からない。

 

「今は、そういう意味では幸せだと思う。 触れられるご主人だっているのだから。」

「まあ……うん、そうかもな。」

 

ただ。

そう、ただ。

 

「…………ずっと震えてるのは、大丈夫なのか?」

「だだだ誰が震えておるのじゃ。」

「ムラサメちゃん。」

 

震えたまま話す内容ではないよなぁ、と思うんだ。

 

「ほほほほら何か話をせんかご主人!」

「えー……なんだろう、いい感じに緊張は解れたけど。」

「いいい良いから!」

 

はぁ、と小さく溜息を吐いて震えたままの手を取る。

片腕は叢雨丸、もう片方はムラサメちゃんの手。

山道を登る格好ではないけれど、せめて震えが収まるまではこのままで。

 

「……なら、このまま進めば良いのか?」

 

話と言っても他に思い当たらずに。

真面目な話を振っておく。

 

「うむ。 このまま進めば良い。」

「そっか。」

「ご主人も……緊張しておるのか?」

「自分では理解してないけど、多分。」

 

自分一人なら別にいい。

ただ、あの二人に恥ずかしいところは見せたくない。

……既に大分見せてはいるけど。 所詮見栄だ。

 

「余り緊張しすぎるな。 少しはしておいたほうが良いとは言うがな。」

「あー……武者震いとかはそういう感じなんだっけ。」

「ああ。 男子とはいえ初陣なのだ、まずは無事であることを優先すれば良い。」

「随分褒め称えてくれるなぁ。」

 

自分のことは自分で、余り信用できないのだけど。

 

「叢雨丸に選ばれたのだ、それくらいは問題ない。」

「いやぁ……折っただけだし。」

「千や2千では効かない人数が挑戦した試練を超えたと言うのにか……。」

「そんなに挑戦してたのか、アレ。」

「まあ……担い手を選ぶだけでなく、吾輩の力を維持するためにも必要だったからな。」

 

……ムラサメちゃんの力を維持するために?

 

「……と言うと?」

「なんと言えばいいか……精神力、感情の力と言えば良いのか? それが吾輩の力になる。」

「ああ……何となく分かる。 生きようとする力というか、そういうものか。」

「そうだの。 しかしご主人、よく分かったな。」

 

聞き覚えがあった、とは言わないで誤魔化す。

精神性、活力が根幹とかはよく聞く話だからな。創作で。

 

「まあ……極端な話、担い手は選ぶ必要はなかったからな。」

「え。」

「選ばれるのは偶然ではなく必然、という話だ。 催事としては必要だったのだから問題なかろう。」

 

そうか、と言葉を漏らした。

そして。

少し離れた所で……()()()、と何かを弾くような音がした。

 

「それとご主人、聞こえたか?」

「……ああ。」

「もう始まっているようだ。 下手に入り込んだら互いに危険な以上、此処で準備しながら進むとしよう。」

 

準備?と声を掛けた。

左手の先、先程までムラサメちゃんと繋いでいた手から感覚が消えた。

俺に向かい、真っ直ぐに見つめている。

 

「ご主人。 叢雨丸を抜いてくれ。」

「ああ。」

 

やっぱり、こう……時代劇のように腰なり背中なりに背負えるようにしたほうが楽そうだ。

毎回移動する時に鞘が邪魔になって投げ捨てるようだと、最悪のケースの時に投げ捨ててそのまま帰ることになってしまうし。

そんな事を思いながら、剣道の竹刀と同じように両手で叢雨丸を握る。

月明かりの光を反射し、本来の刃よりも更に怪しく濡れる刃。

 

……思ったよりも重いし、竹刀とは違う感じはするけれど。

扱えないわけではなさそうだ。

 

「そのままだ。」

 

目を瞑りながら、叢雨丸に一度触れた。

光が、爆発する。

 

『――――!?』

 

それと同時、先の方で声と音が幾つか。

……何が起こったのか、迷惑を掛けていなければ良いのだけど……無理かなぁ。

 

『良し。 行くぞ、ご主人。』

「ああ……!」

 

刃の中から、声が聞こえて。

今は宿っている状態なのだと理解して。

刀を持って、多少小走りで山道を進む。

 

かきん、かきんと音がして。

 

「茉子、抑えて!」

「分かってますけど……なんだか、暴れてるんです!」

 

そんな物音、叫び声。

俺たちに対して背を向けた二人の姿と。

がさり、とその付近の影から――――見覚えのある、泥の塊の姿が見えた。

 

「朝武さん!」

「! ……有地さん!?」

 

声を飛ばす――――でも、目の前のもう一体がいるのにそちらに気を向けるのも難しい。

だから。

後のことを考えず、ただ。

横から飛び出そうとする、祟り神へ突きかかった。

護ると約束した、少女達を襲う敵に対して。

 

「――――チェアアアアアアアアアアアアアア!」

 

良く分からない、声が出ていた。

 

突く。

祓う。

護る。

 

俺の脳内を埋めていたのは、たったその三言だけ。

次に落ち着いて周囲を見た時は、祟り神が叢雨丸によって祓われている時。

そして、もう一体の祟り神に鉾鈴……朝武さんが持っている武器が突き立てられている時。

そのまま、走り抜けて……動きが鈍ったそれを、真っ二つに切り裂いた。

ほんの少しの静寂。

 

「何で、来たんですか!」

 

そんな風に叫ぶ、少女。

 

「昔、約束したから。」

「一体、何の――――。」

 

覚えているかどうかは、別として。

 

「助けてやるって、言っただろ。 ()()()()()()。」

 

ただ、カッコつけたかった。

そんな意地くらいは、張りたかったんだ。

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