<Chapter2-1-4>
「んー……基本は当てれば良いんだよな?」
「そうじゃの。神力が宿っておる以上、『祓う』事に関しては間違いない。」
「そうなると、刀に振り回されない力と……技術?」
うむ、と頷く
建実神社の裏手側、観光客や住人は立ち入らない方面で叢雨丸を握る。
(恐らく)鋼の塊だからこそ、持ち上げること自体は容易でも何度も繰り返すのは慣れなければ難しい。
そんな思いもあって、祖父ちゃんに頼む前にまずは筋トレを兼ねた『慣れ』の時間。
「剣道だと基本は『面』『胴』『小手』辺りが基本なんだけど……。」
「まあ、相手は基本獣型じゃしなぁ。 何方かと言えば剣術に近いと考えたほうが良いと思うぞ?」
「やっぱり独学じゃ無理だな、振っても腕が疲れないように出来る限りしていこう。」
何故当たり前のように獣の形をしているのか。
その辺り、突き詰めれば何かが引っかかってるこの考えの疑問点も晴れるのだろうか。
ぶぉん、と空気を切りながら振るう。
「ほれ、太刀筋が震えてきておるぞ?」
「いきなりそんな事言われても、慣れるまではそうなるって……!」
一先ず30回を1セットとして、3セットやってみた。
(やっぱり、大分鈍ってるわ……。)
次第に握力が抜け始める。
鈍っていた筋力が悲鳴を上げる。
昔、まだ幼かった頃に感じた痛みと同じもの。
ただ、今使っているものは紛れもなく危険な刃物。
「あっつ……。」
「汗を何とかする準備も必要じゃのう、ご主人。」
「朝着替えたばっかりなんだけどなぁ。」
背中に汗がびっしりと湧いている。
近くに腰を降ろし、ほんの少しの休憩を挟む。
「やっぱさ、先に振ることに慣れたほうが良いんじゃないか?」
「それもそうだがの。ご主人の場合は一人ではなく常に複数で動くわけじゃろ?」
「それも間違ってないどころか、正しいからなぁ……。」
刀に集中し続けながら、ムラサメちゃんと会話し続けているのも理由がある。
昔の祖父ちゃんに言えば、ほぼ確実に怒鳴られると思うけれど。
今やっている祟り神を祓う活動は、俺一人ではなく芳乃ちゃんと茉子ちゃんの三人で……ということになる。
勿論俺一人で出来るならそれに越したことはないが、集中すると言うよりも互いに声を掛け合う事も大事だと。
そんな風に提案してきたのがムラサメちゃん。
まあ、結局。
「……それで。」
「?」
もう3セットやるか、と立ち上がろうとした際。
何処か、具体的には角の方へ視線を向けたのを感じて。
同じようにそちらを向いた。
…………。
「……芳乃ちゃん?」
「!?」
「服、隠れ切ってない。」
なんと言うか
見覚えのある私服の端が、角から見えている。
半分カマかけを含んで声に出してみれば、何か二三事呟いた後で顔を見せた。
「……うう。」
手元にあるのは…………ああ。
「ありがと、確かに用意してなかったな。」
ペットボトルに入った水。
必要になったら、と思っていたから用意まではせずにいた。
確かに乾いていると言えば乾いている。
本来は乾きに気づく前に少しでも摂取したほうが良いらしいけど。
「いえ。私も丁度舞の練習が終わったところだったので。」
「そっか。」
「丁度見えたのでお邪魔してしまいましたが……その。」
「大丈夫、少し休んでたところだし。」
本来ならもっと集中してやるべきなんだろうけど。
下手に身体に染み込ませすぎて祖父ちゃんから叩き直されるのも困る。
今の俺単独での目標は、叢雨丸を振るっても疲れずに暫く立ち回れることだから。
「そうです、か?」
「態々吾輩に確認せずとも良かろうに。」
「まあ、気になるのは分からないでもないし。」
溜息を吐くムラサメちゃんに、気になるのだろう芳乃ちゃん。
まあ俺でも、舞の練習をしていて邪魔してしまったのなら、と。
立場を入れ替えれば、心配する理由は分かるし。
「それから……ごめんなさい。」
「……え、何が?」
「本来なら、しなくても良いことをさせてしまって。」
ぽつり、と。
そんな言葉を、言った。
多分、それを気にしていたんだろう一言。
「……昨日も言ったけど。」
「……はい。」
「約束は、出来るだけ護りたいんだよ。忘れてた口で言えることじゃないけどさ。」
だから、昨日と同じことを繰り返した。
女の子だから、とか。
昔馴染みだから、とか。
言い訳をつけようと思えば幾らでも言えるけど。
「助けられるのが嫌……ってのは、多分あるよね。」
「…………。」
だから。
「せめて、協力させて。見送り出すだけは――――俺も、嫌だから。」
無言。
休憩も、そろそろ終わりでいいだろうし。
ペットボトルの水を煽って、立ち上がった。
「ムラサメちゃん。後3セット。」
「やる気に満ちるのは良いことだが、無理はせんようにな?」
「多少はするよ、鍛えてるんだし。」
「そういう意味ではなくてだなぁ。」
一回、二回。
縦だけでなく横や斜め、突きなんかを含んだ繰り返し。
流れるように動く――――昔なら出来ていただろうことが、今はできない。
それが年月の積み重ねで付いた錆だろう、と何となくにでも感じるから。
「シッ!」
「腕で身体が振られておるぞ~。」
「身体毎行かないと危ない、なっ!」
だから。
じっと、芳乃ちゃんが見つめ続けていても。
その視線に、様々な感情が宿っていたとしても。
俺は俺の出来ることをするだけ。
――――二人が、これ以上苦しまなくて良いように。
絶対に、そんな事は言わないけれど。
察していなければいいな、と。
そんな事を、思った。
汗が、一滴。
空を飛んだ。