恋心、想花の如く。   作:氷桜

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<Chapter1-1-3>

 

<Chapter1-1-3>

 

 

「遡ること数百年前。 野望を抱く者たちが乱立する戦乱の世に、とある怪しげな女がおりました。」

 

楽しそうだな芦花姉。

 

「そのお女は何と、権力者に擦り寄り、寵愛を得て、男を狂わせて乱を起こす妖怪だったのです。」

「九尾の狐か何かで?」

「妖怪にそそのかされてしまったのが、穂織の隣の大名。 野望のために攻め込んでくるのでした。」

 

無視かよ。

ま~実際、男を狂わせる……傾国の美女、みたいなのはそこそこ聞く話だもんな。

それだけ男が女に弱かったって話なんだろうけど。

 

「妖術を使う相手に大苦戦! 落城寸前で諦めにも似た思いで祈祷を行うと。

不思議なことに妖怪に対抗する刀”叢雨丸”を授かったのです。」

「抜けば玉散る氷の刃?」

「それは村雨。 ……っていうかまー坊よくそんなの知ってたね?」

「いや、ちょっと。」

 

出来れば言いたくない。

ちょっとかっこいい刀の話とか中学の頃調べまくってたとか絶対言いたくない……!

 

「こほん。 まあ、その刀で妖怪を退治すると隣国の兵が敗走して。 穂織に平和が訪れました……って話なんだけどね。」

「操られてたとかなのかなー。」

「どうかな。 ただ、その勝利を祝ったのが春祭りの元。 今でもそれを模した練り歩きとかやってるって訳。」

「事実かどうかは別としても、ずっと続いてるし……伝統も有るってわけだ。」

「何か疑り深ーい。」

「いや、俺こういう話好きだよ? なんていうか、ロマン有るじゃん。」

「ロマン、って言い切っちゃうのもどうかと思うけどね。」

 

苦笑している芦花姉に頬を掻きながら答える。

ただ、言ってしまえば何度も遊びに来ている土地にこういう言い伝え。

子供の時はどうでも良かったけれど、ちょっとそういう調査とかに興味が出てきた俺からすればテンションも上がる。

なんでこんな伝承が生まれたのか、とか想像するだけで歴史に思いを馳せると言うか。

 

「ああ、後。 最後に神社で巫女姫様が舞を奉納するんだよ。」

「巫女姫様?」

「うん。 あー、後追加情報。 確か温泉が生まれた理由も妖怪退治の余波って話~。」

「流石にそれは盛り過ぎだと思うんだけど……こじつけたかったのかな。」

「かもね~。 殆ど信じてる人なんかいないし。」

 

からから、と笑いながらの移動道。

時折芦花姉を見つけて声をかける商店街の人もいれば、それに対して頭を小さく下げている。

そんな、”地元”感ある行動がちょっとだけ羨ましかったりする。

 

「でもね、こういう話は観光客にウケるからね~。 特に外国からのお客さん。」

「あ~、町おこしっていうか村おこしみたいなの?」

「そ。 他にもあちこちに観光地なんてあるし。」

「……やっぱり、この辺の人は来ない感じ?」

「かな。 タクシーもそうだし……路線バスも増えないし。 嫌になっちゃうと思わない?」

 

そんな愚痴混じりの言葉に頷きながら、来る途中の光景を思い返した。

「イヌツキ」。

そんな風に呼び、敬遠する周囲は今でこそまだマシになったとか。

昔はもっと酷かったと聞くのだから恐ろしい。

それもこれも、芦花姉の言う「妖怪」……犬の妖怪の呪いが残っているから、と。

それでも温泉は利用しに来ていたというのだから、言ってることとやってることが違いすぎる。

幾ら、「犬憑き」だからといって周囲に影響を及ぼすモノでも無いはずなのに。

 

「ま、これ以上沈んだ話してても仕方ない。 練り歩き見ていく?」

「んー……いいや、まずは祖父ちゃんに挨拶してくる。」

 

もしかしたら、今日から仕事かもしれないんだし。

……そんな話をしていれば、見え始めたのは大門を構えた武家屋敷のような佇まいの建物。

 

「懐かしいなぁ……この辺全然変わってない。」

「まあ、四年くらいだもんね。 所々修繕したりはしてるみたいだけど。」

「出来ればずっと残って欲しいけどね。」

「玄十郎さんのお宿、人気も有るし御飯も美味しいって評判だし……大丈夫だとは思うけどね。」

「…………。」

 

挨拶、挨拶かぁ。

ちょっと気が重い。

昔から元気一杯を通り越して威圧感に満ち溢れていて、なんと言うか怖かった。

何方かといえば婆ちゃんっ子(だったらしい)の俺は、怖くなっては婆ちゃんの背中に隠れて。

……そんな事も、もう出来ないし。

まあ、考えるだけ時間の無駄か。

 

「こんちわー。」

「はい、ただいま。」

 

あまり聞き覚えのない女性の声。

少し経って、顔を見せた相手は……やはり、見覚えのない人だった。

 

「お待たせいたしました。 ご予約のお客様でしょうか?」

「いえ、祖父……鞍馬玄十郎はいますか?」

「ああ……もしかして、お孫さんで?」

「はい、有地将臣と申します。」

 

最初の挨拶は大事。

祖父ちゃんに叩き込まれた礼儀の一つを思い出しつつ、丁寧に挨拶を返す。

 

「遠い所を態々ありがとうございます。 大旦那様は……今、建実神社におられる筈です。 実行委員ですから。」

「実行委員?」

 

なにかの委員?

 

「あ、そっか。 玄十郎さん、春祭りの実行委員やってるんだ。」

「この時間なら……予定通りなら、練り歩きが神社に到着している頃かと。」

「じゃあ、神社から離れるのも難しいかな。」

「えー……どうしよう。 すいません、なにかお手伝いすることありますか?」

「お気遣いありがとうございます。 今のところは大丈夫ですので……春祭りをお楽しみください。」

 

その顔から伺えるのは、此方への気遣いのみ。

だったら、その言葉に甘えることにしよう。

 

「それで宜しいなら……ありがとうございます。」

「いえ。 お荷物、預かりましょうか?」

「お願いします。」

 

荷物を預け。

芦花姉に予定を聞けばまだ大丈夫とのことだったから。

そのまま二人で、神社の方へ歩き始めた。

 

「ねえ、そういえばまー坊。」

「ん?」

「そのお守りって何?」

「これ? 婆ちゃんから貰ったんだよ。 ここの神社のじゃない?」

「んー……なんか、違う気がする。」

 

そんな、雑談を交わしながら。

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