恋心、想花の如く。   作:氷桜

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芳乃様視点。


<Chapter2-1-8-Y>

 

<Chapter2-1-8-Y>

 

 

ちゃぷん、と水面が音を立てた。

 

「はぁ……。」

「ふぅ……。」

 

何方が先に声を上げたのか。

そんな事を考える気力も起きないままに、お湯に溶けるように浸かっていた。

 

(……今日は、失敗してしまいましたね。)

 

湯船に沈みながら、肉体の疲労と穢れを湯へと流し込みながら。

思い返していたのは、先程までの神祓い。

いつもどおりとは決して言わない、けれど。

普段よりは間違いなく負担が少なかった。

その理由は。

 

「…………。」

 

出来れば考えたくもないし、考えてしまう自分を()()()()

同時に……少しだけ、顔が赤くなるのも分かってしまう。

それをお風呂特有の熱気のせいだと言うのは簡単でも。

多分茉子はそんな物を容易く見通してくるし……そんな風にごまかす必要も無い。

 

(それにしても。)

 

叢雨丸の担い手として選ばれて。

日々振る練習をしていたのは知っているけど……彼処まで変わるものだろうか。

普段の彼と、先程の彼。

外見は同じでも、何かが違うような――――。

 

気付いているのは、私だけなのか。

茉子にも聞いてみようか、なんて。

熱気に当てられたような事を考えながら、彼女を見れば。

何か、視線を伏せたような……考え込んでいるような、表情で。

 

「……茉子?」

「はい?」

「何か悩みでもあるの?」

「いえいえ何も。そう見えますか?」

「気の所為かも知れないけど……疲れてる?」

 

普段から負担ばかりを掛けて。

特に今日は咄嗟の動きをさせてしまった。

……まあ、あれは将臣くんが悪いんだけど。

ただ、強くも言えない曖昧な立場で。

 

「どうでしょうかね~……普段よりはだいぶん楽でしたよね?」

「それは、うん。ただ、私も邪魔はしてしまったし……。」

「いえ、アレは仕方なかったと思いますよ?」

 

そんな風に慰められるほどに、少し辛くなる。

早く、少しでも早く。

こんな呪いから――――私は兎も角。

茉子だけでも、開放したいのに。

その先が、一向に見えてこない。

 

「それで、芳乃様?」

「うん?」

「転んでられましたけど、お怪我は大丈夫だったですか?」

「巫女服が少し解れちゃったくらい。心配してくれるのは嬉しいけど、大丈夫。」

「そうですか~。」

 

じ、っと。

或いはジトっと、か。

茉子の視線が妙に妖しくて、咄嗟に水面下の肌を腕で隠した。

……何でだろう? 自分でも良く分かってないけれど。

 

「もう、茉子。いくら同性でも見られるのは……。」

「自分では気付いてない怪我してられるかもしれませんので。」

「……大丈夫ですよ?」

「変な口聞かないで下さい。お身体大事なんですから、ほら見せて見せて。」

 

そんな、他愛もない風呂場での戯れ。

そんな事をしながら浮かんだ、次の瞬間には消えてしまいそうな考え。

 

――――そう言えば。

将臣くんが転んだのは大丈夫だっただろうか。

ちゃんと見れたわけではなかったから。

 

…………。

お風呂から上がったら、一応確認しておこう。

茉子と一緒に。

そう考えたら……少しだけ、気が楽になった気がした。

何かが、お湯に流されるように。

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