<Chapter2-2-3>
その後妙に長いような時間が経った気もするけど、時計を見れば実際には五分程だった。
「そろそろ行かなくて良いのかい?」
「あ、そ、そうですね。 行ってきます、お父さん。」
「行って参ります。」
「行ってきます。」
異口同音にそんな言葉を呟いて、神社を出る。
なんだか「行ってきます」っていうのが気恥ずかしい気もするけど。
その内に慣れることだろう、多分。
少し先を歩く二人に追い付くように軽く小走りで間に割って入る。
まあ生徒が増えてきたら少し距離を取るかも知れないが、今だけは良いだろう。
学院に直接足を運んだことが何だかんだで一回も無いんだし。
「学院ってまだ歩くんだっけ?」
「もう少し……その先に見える坂を登ってすぐですね。」
指で指されたのは少し先、直進して300m程で坂になっている通りでのこと。
神社からは意外と近いんだけど……おかしいな。
「あれ、他の生徒は?」
「元々学院自体が小さいので……それに、混み合い始める時間よりやや早いですからね、今日は。」
「早いんだ……。」
俺が想定しているのはどうしても元通っていた高校くらいの広さ。
クラスが一学年に4つ程ある、何処にでもある高校。
やはり田舎……と言っては失礼だけど、それなりに違いがあるんだろう。
特に、”穂織”という土地柄はあるんだし。
「将臣さんを案内するのと、担任の先生の所まで連れて行く用事がありますし。」
「ごめん、迷惑掛けてる?」
「いえいえ、全く。 寧ろ少し
「へ?」
楽しい、なんて感想が出てくるんだろうか?
何を持ってしてそう思ったのか、口を開く前に茉子ちゃんが自分から答える。
「出入り……というより、いなくなることの方が多いので。」
「ああ……転校してくるほうが珍しいから?」
「はい、覚悟しておいたほうが良いですよ?」
覚悟ってなんだ。
まあ唐突に転校、それも高校だからそれなりに興味は持たれそうだけど。
祖父ちゃんに呼ばれて、暫くは此方で暮らすことになった……と、まあ嘘は言ってない内容で終わらせるとしても。
二人と親しげなのは……まあ立ち位置的にだろうか。
廉太郎が二人と仲良くしてるか次第でまた分かれそうだが、春祭りの時を見る限りは距離もありそうだったし。
「茉子、あんまり脅さないの。」
「はぁい。」
「ま、まあ少しは覚悟してたから良いけど……。」
坂を、三人並んで歩きながら。
視界に入ってきたのは山……そうなると、どうしても浮かんでしまうのは夜の非定例行事。
「そういえば、結構山に近いみたいだけど……大丈夫なのかな?」
「今までに問題は起きてないから……夜まで残らなければまず大丈夫だと思います。」
「ってことは……放課後は残らないほうが良いんだ?」
「はい。……心配になりますし、何かあって残る際でも私か茉子と一緒にお願いします。」
「それはそれで俺も心配なんだけどな……。」
呟いた声が聞こえたかどうか。
坂を登り切り、目の前に広がったのは――――。
「これが、鵜茅学院……?」
「ですね。 …………どうかしましたか?」
「ああいや……学校っていうか、何かそれに付随する建物みたいだなって。」
そこそこ広い御屋敷か、或いは何かの道場のような趣の建物。
俺が抱いた最初の感想はそんなもの。
「元々は武道館だったからな。剣術道場が使っていたが、門下生が減って……というやつだ。」
「ああ……だからか。」
俺達の話を上で聞いていたムラサメちゃんが会話に混じる。
……今なら良いが、学校の中に入ったら黙っていて貰わないと困るかも知れない。
まあある程度自由に動くだろうから、学校内に残ったままなのかもわからないけど。
「それで、ムラサメちゃん。」
「分かっておる。授業中は適当に彷徨くことにする――――それにご主人、後ろじゃ。」
「?」
後ろを振り向けば。
丁度坂を登り切ろうとする見覚えしか無い二人の姿。
「よう、おはよう!」
「おはよう、お兄ちゃん!」
「おう。朝から元気だなー。」
「そりゃまあいつも通りの習慣熟してるしな。」
「習慣は良いけど朝御飯ギリギリになるの何とかしなよ馬鹿兄。」
俺の従兄妹が顔を出したので、当たり前のように挨拶。
……横にいる二人はいいのだろうか。
「あ、挨拶が遅れました。おはようございます、巫女姫様、常陸先輩。」
「おはようございます。」
「おはようございます。」
「おはよう、二人共。」
異口同音の挨拶、何度目か。
ただ、廉太郎の挨拶だけは少し気安げな感じがして。
「そういやちゃんと聞いてなかったけど、二人共こいつらと知り合い?」
「玄十郎さん繋がりで、ですね。」
「まあ――――他の男子よりは、でしょうか。」
「あー…………。」
芳乃ちゃんはまあ分かる。
巫女姫って立ち位置がある以上、どうしても一段上で扱われるだろうし。
茉子ちゃんは……その従者だから、みたいな感じか?
「実際どうなんだ?」
「後にしろ後に。」
「まあそれもそうか。」
聞こうとすれば、当たり前のように追い払われた。
まあ当人がいる前でする話ではなかった。反省。
「ま、ずーっと子供の頃から顔ぶれが変わらんってとこから察しろ。」
「……下手に彼氏彼女とかも難しそうだな。」
それは答えを言ってるのも同じな気がするが――――まあいいか。
此奴にだけ聞こえるくらいの小ささで呟けば、そうだな……と遠い目をした。
おい何した……っていうか遠巻きにされてる側だったな此奴も。
ってことは何かやらかしたクラスメイトでもいるんだろうか。
「後で聞かせろよ……。」
「男なら知っとくべきことだしな……。」
そんなどうでもいい会話をしていたからか。
三人は並んで首を傾げていた。可愛い。
「……そろそろ職員室に行きませんか?」
「あ、ごめん! 今行く!」
内容を気にしつつも、俺のことを優先してくれた芳乃ちゃんに従い。
入口の方へと進もうとすれば……一人の女性が、此方に向かって歩いてきていた。
「あ、必要なくなりましたね。」
「え?」
「先生ですよ、担任の。」
…………あの人が?
立ったまま眺めていれば――――その人から、呼ぶ声がした。
「あなたが、有地将臣君ですね。」
「あ、はいそうです。」
「良かった、迷ったのかと思いまして。」
一拍開けて。
「改めて、あなたの担任になる
そんな、笑顔での挨拶に。
此方こそ宜しくお願いします、と笑顔で返すことに成功した。
……何故か、背中から視線を幾つか感じたけど。