その中、隠す気あるんですか?という話。
誰にでもにこやかに対するのに一人だけ「普通の女の子」みたいに相手するやつがいたらどう見られるかっていうね。
<Chapter2-3-3>
「……それで?」
「え?」
「なにか私達に言おうとしていましたよね?」
食事を済ませ、茉子ちゃん手製のお弁当を受け取り。
若干ふわふわした気分で制服姿で
少し歩いたくらいで、そんな言葉を問うてきた。
「言おうと?」
「鞍馬君からの忠告……でしたか?」
「ああ、それかぁ……。」
「お?何かあったのか?」
そんなに興味を惹かれたように出てこなくても良いんですよムラサメちゃん。
最近……とは言っても付き合いがあるのは春休みからだけど、此処暫くは良くあちこちに移動してる。
行き先の大抵は二人の何方かの場所っぽいし、見える数が少ない
……まあ、俺がムラサメちゃんを見ることが出来て触れられる理由もはっきりしてないしなぁ。
「そこまで大したこと無い、というかさっき話したほうが本題だよ?」
「良いですから、早く。」
「まあ良いけど……怒らないでね?」
何となくだが半分くらいの確率で怒る気がする。
考えることを意図して行ってない芳乃ちゃんは、そんな話題にされるのを好きとは思えないから。
……多分婚約者とかがワラワラ寄ってきたのも理由のひとつなんだろうけど。
「二人に対して忠告されたんだけどね。……まあ、今更いう理由あんまりないことなんだけどさ。」
「そ、れ、で?」
「だから近いって。 ……二人と俺の距離が近いから注意しておいてくれ、って話だよ。」
一歩毎に近付いてきて、最後には吐息すら感じるくらいの距離にいた。
ただ、其処にあるのは良く漫画とかである甘いものを全く含まない絶対零度の目。
何かを隠すことを否定する――――というよりは、何だろう。
もっと幼稚……?というか、何かまた別の理由が瞳に映し出されているような気がするんだけど。
「近い?」
「今だって近いだろ?」
一歩近付いてきたから一歩下がった。
まあそういう物理的な意味じゃないんだけど。
「芳乃様、分かっているとは思いますけど。」
「ええ。要するに……周りからの目に気をつけろ、ってことで間違いないですか?」
一度大きく呼吸をし。
『巫女姫』のように、一瞬で何かを纏った芳乃ちゃん。
……女ってすげえ。
「深く気にしたことなかったけど、そういうのって基本技能なの……?」
「ワタシや芳乃様は自然と身についた感じですかね~。どうしても必要でしたから。」
ううむ、人間ってすごい……じゃない。
「話を戻すけど……廉太郎もそういう意味合いで言ってたと思う。」
「ふぅむ。良く分からぬが……そこまで気にすることか?」
「今の芳乃ちゃんの場合だと、ね。」
俺がもう少しはっきりと言える立場ならまた別なんだろうけど。
今の俺は良く分からない一転校生。
叢雨丸に関することをあの場にいた人間だけに留めている以上、それを前に出せるわけもないし出すつもりもない。
それが仮に唐突に「婚約者になった」と言ったと考えれば…………想像なのに震えてきた。
「ご主人……何故急に震えておるのじゃ……?」
「いや、ちょっと嫌な想像して……。」
「あはは……まあ基本的には朝方の説明で大丈夫だとは思いますよ?」
まあ、世話になってることは事実だしなぁ。
昼食の中身を少しずつ変えてくれたらしいし、そこから気にされることはないと思うけど。
まあ、誰かに譲ろうなんて気持ちは全く起きないと言い切っていい。
……あれ、世話になると言えば。
「そういや、俺って今何処に住んでる扱いになってんだろ……。」
「将臣くんなら……お父さんが言ってたけど、一応志那都荘に住所が置かれてる事になってるらしいですよ。」
「祖父ちゃんのとこ?」
「はい。 ただ、神社……というよりは安晴様ですね。あの方が将臣さんに用があって頻繁に行く関係上部屋を用意している、という流れらしいです。」
「……まあ、確かに安晴さんに呼ばれたら絶対行くよな。」
「何故」と、並大抵の相手は正面切って問い掛けられない最強の手だと思う。
それが出来る相手は全員事情を握っているから聞かないし。
「しかし凄い権力者……って言い方も悪いな。影響力のある人なのに物腰柔らかい人だよなぁ。」
「そうですね~、皆から慕われてますし。」
「…………。」
「お主等、芳乃が色々複雑じゃからそこまでにしておけ。」
普通に『自慢の父です』でいいと思うんだけどなぁ。
茉子ちゃんと顔を見合わせ、小さく笑った。
「俺は……両親よりも祖父ちゃんだからなぁ、尊敬できる人。」
「そうですね、穂織発展の為に色々手を尽くして下さってますし……普段からお世話になってます。」
「俺からより直接言ったほうが喜ぶと思うよ?」
「ですかねぇ。」
とぼとぼ、てくてく。
同じ制服を着込んだ姿が少しずつ見え始め、同時に俺達を見て何かを呟く人影も見え始める。
昨日は兎も角、今日はそれなり以上に気になるかやっぱり。
と。
そんな影を目に入れて、芳乃ちゃんが一歩前に出る。
「後は教室で話しましょうか、茉子……
そんな言葉を、背中越しに俺達に伝えながら。
「ああ、そうしようか……
そんな、余りに薄っぺらな皮を被り直し。
呼び名、という呼び慣れてしまった名前で呼ばないように気をつけようと考えつつも。
『巫女姫様』と成り切った、彼女の背中を追う。
「……やはり、芳乃も大変じゃのう。」
「もう少し関係性を公開できれば、変わるとは思うから……やるしかないな。」
小声で、相棒となった少女に話しかけながら。