いやまあ多分安晴さんが全部シャットアウトして部屋にいるか舞の練習してた気がしますが。
<Chapter2-3-5>
詳しくは後で、と言い残して去っていく芳乃ちゃん。
その背に声を掛けようとするけれど、残り時間と曲がり角だったということが悪く働き。
元いた場所――――教室へ戻っていくのを止められず。
(いや、何で?)
祖父ちゃんに用事があるだけなら個別でも良いし、今日俺と一緒に動く理由にはならない。
浮かぶのは俺のことくらいだけど、何か報告する/されるようなことをした覚えもないし。
頭に浮かぶのは無数のクエスチョンマーク。
そのままトイレを済ませ、首を傾げ続けながら教室に戻れば先程と同じような喧騒の中。
彼女は既にクラスメイトの輪に溶け込んでいた。
「時間掛かったな?」
「いや……ちょっとな。」
そんな
チャイムが鳴って――――放課後。
「じゃあまた明日ー。」
「今日帰りウチ寄ってかない?」
「あ、ちょっと注文してるの取り行きたい!」
各々が放課後を過ごすために挨拶をしながら帰っていく。
田宮はなんか虚無顔になりながら帰ってたし、大平はそんな奴を引きずるようにして帰宅。
廉太郎も手伝いがあるから、と言い残して去っていき。
教室を出ながら放課後と言ってもどうすれば良いんだろう、と思っていれば携帯が数度振動。
内容を見ようとした所で。
「あ、有地さん。」
「……あれ、常陸さん?」
「良かった、まだ残ってたんですね。」
手に荷物を持った常陸さん――――茉子ちゃんが此方に声を掛けていた。
チャックのところには、以前渡してそのままになっていた俺の御守。
多分俺よりも彼女のほうが色々な意味で危なさそうだから、と返そうとするのを押し留めて。
暫く預かる、という形でなんとか納得させたものが二度三度と揺れている。
「なんか、朝武さん……いや、誰もいないなら大丈夫かな?」
「ええ、部活動もないですから皆直ぐ帰りますからね。」
「ならいいか……芳乃ちゃんが俺に付いてくるって言ってたんだけど、何か知ってる?」
「大凡は。あまり無い事ですし、ワタシは家事もあるので先に戻りますので……声だけは掛けておこうと思ったんです。」
……芳乃ちゃんだけに関係して、時間を潰さないといけないこと?
そうでもないならすぐに戻って練習か勉強あたりをしているだろうし。
そういうところは凄い優等生という態度を崩さないもんな。
「……え、それ俺が聞いてもいいこと?」
「でなければ芳乃様も声掛けませんってば。」
「それもそうか……それで、何で?」
「お見合い相手の写真を持ち込まれてる方がいるんですよ、神社に。」
大きく溜息を吐き出す茉子ちゃん。
誰の? ……芳乃ちゃんの?
まあ、俺の情報は公開できないから仕方ないとは言え。
……珍しく、
「ああ、それでか……。」
「今は安晴様が対応してくれていますけどね。流石に直接出会ってしまうと厄介になるので、先んじて連絡してくれたんですよ。」
「大変だな、巫女姫ってのも。」
「多分合流先は連絡してると思いますから、行ってあげて下さい。」
「オッケー。 茉子ちゃんも気をつけて。」
「それは将臣さんの方だと思いますけどね~。……心配してくれて、ありがとうございます。」
多分、最後に漏らした言葉は本当の言葉と言うか「彼女」自身の言葉何だと思った。
そこで互いに手を振り合って別れ、スマホを確認すれば。
『校舎裏で待っています』と端的な、彼女らしい短い文章が明示され。
そちらに向け小走りで移動。
下駄箱から大回りをして校舎の裏側に出れば、山に面している部分は影が伸び始めていて。
「……いた。」
一本の木に凭れ掛かるようにして、銀の髪が揺れていた。
「遅い、ですよ?」
「ごめん、ちょっと話聞いててね。」
「話を?」
「えーと……茉子ちゃんから、何で急に依頼したのかをさ。」
「茉子ったら……気を使わなくても私から説明したのに。」
いや、だったら先に言ってほしかったというのが事実。
朝の段階で分かっていなかったということはノーアポ……事前に話もせずに持ってきたってことだろうし。
安晴さんがそんな相手のものを受け取るとは思えないけど、それでも面倒に成り得る種は潰しておくに限る。
「昼休みの時点で言ってほしかったなぁ。」
「もし言ったら連れて行ってくれました?」
それは……何だろう。
念の為の確認、に過ぎないんだろうけど。
少しばかり傷つく言葉だなぁ。
「するに決まってるだろ。しないと思ってた?」
「あ、いえ……ごめんなさい。そんな意味ではなくて。」
「なら……何?」
「婚約者、という立ち位置ではありますが……私は、こういう性格ですし。嫌ではない、ですか?と。」
は?と。
多分口に出してしまっていたと思う。
頑固で、真っ直ぐで、何事も一人で背負う女の子の内心を少しだけ知れた気がしたから。
そして湧き上がってきたのは、妙な笑い。
そんな風に思われていたのか、というよりは。
――――少しでも、内心が見えた気がしたから。
「あのさ、芳乃ちゃん。はっきり言ったか分からないから、この機会に言っておくね。」
「は、はい。」
「……
なんと言うか。
二人が遠縁でも血縁関係なんだなぁ、と思った。
似ていないようで似ている。
似ているようで似ていない。
ほんの少し違った世界なら、逆のようになっていてもおかしくない。
そんな風に、感じた。
「え、あの…………!?」
「じゃ、祖父ちゃんの所行こうか。」
「お願いですから、話、聞いて……!」
絶対に止まらずに。
何とか止めようと小走りで先に回って。
そんな、子供の有利を取り合う遊びのように。
人前に出るまで、互いに動きあっていた。
夕日に包まれていて――――顔色は、何方も分からなかったけど。