やっぱり地元だとあんまり出向かないとかあるんでしょうかね?観光客向けで色々考えてたりしますし。
<Chapter2-3-8>
志那都荘から少し歩いた先。
春祭りの時に通った道を逆に遡った先にある、俺の地元なら彼方此方で見かけそうな大きさの店。
こっちに引っ越してきてからは直接顔を出したことが一度しかなく、いつかは……と思っていたけど。
まさかその日が女の子連れになるとは。
「……有地さん?」
「ああ、もう見えてる。あの店。」
「
夕方の、まだ日が出ているとは言え早い場所なら夕食の準備を始めているだろう時間。
詳しい開店時間とかまで聞いた覚えはないけど、穂織という土地の関係上そこまで長く開いていないとは思う。
多分だが頼めば元々考えていたことくらいは何とかなるだろう、と思いつつ。
少しだけ足が重たげな芳乃ちゃんを店の前で少しだけ待たせ、自分だけで中に入る。
「いらっしゃいませー。」
ちりんちりん、と小さな鈴を鳴らしながら戸を開ければ。
聞き覚えのある声と、見覚えのある姿が
…………二つ?
「あれ、まー坊?」
「うそ、お兄ちゃん?」
芦花姉が当然のようにいるのは知っていた。
この店の経営側……言い方は悪いがオーナーとしての責任を丸投げされているとかで考えてるらしいし。
顔を見せた時には『何か意見があったら欲しい』とか言ってた位だ。
だが、もう一人――――小春が従業員らしき姿に身を包んでいるのは予想外。
前は朝方で開店前だったから、店の中まで見た覚えがなかったのも原因なんだろうけど。
「こんばんは……はいいんだけど、小春は何してるんだ?」
「私?アルバイト。」
「……学校が終わってからずっと?」
「基本そうだよ?」
ああ……だから廉太郎が『小春は小春で忙しい』って言ってたわけだ。
アルバイトするなら志那都荘ですればいい、と思わなくもないが。
役割的に客の前に出ることを考えると、互いの折り合いでどうしても難しい部分もあったんだろう。
そう考えると今回呼んだ留学生の人はどうなんだろうな。
結構きつい仕事だと思うんだが、それでも希望してくるんだから根性はありそうだけど。
「……さて、まー坊。後ろの子放っといちゃ駄目でしょ。」
「放っといたわけでもないんだけど……そうだな、ただ騒がないでね?」
「……騒ぐ?」
時間が時間だからか、他の客の姿は見えない。
……喫茶、というよりは甘味処か。
客の姿が見えない、っていうのは結構危険な気がするんだけど。
そんな事を考えながら、同時に都合が良いとも思いつつ。
「芳乃ちゃん、大丈夫そうだしゆっくりしていこう。」
「あの、此処は?」
「甘味処……喫茶店、と言うにはちょっと違うけど。甘いもの食べられる所、かな。」
「甘い物。」
あれ、今一瞬目が輝いたように見えた。
好きなのは知ってたけど、そこまでなのか?
俺の後に続くように中に入れば、その姿を認めた二人は少し目を見開いた後。
妙な目で俺を見た。
「聞きたいことはあるんだろうけど後にして、後に。」
「それもそうね……お客様、どうぞ此方に。」
「有難うございます。」
まあそりゃこんな時間に学生服で二人。
帰り際に寄ったとしても、どういう目で見られるかを考えれば芦花姉と小春が普通なんだが。
生憎、俺と芳乃ちゃんの場合はその「普通」じゃないからなぁ……。
「此方メニューになります。」
「先選んでいいよ。」
「わ、色々ありますね……。」
案内された席の対面側に座り、メニューを先に引き渡す。
楽しそうに選んでいるのを見つつ、芦花姉に確認。
「芦花姉、何でも良いんだけど持ち帰れるような物4個頼める?」
「え?そりゃ持ち帰れるメニューは幾つかあるけど……何でも良いの?」
「まあねー……細かい事情までは言えないんだけど、安晴さん達も気疲れしてるだろうから。」
余り甘いものとかは神社の食事や休憩時には出ない。
出たとしても果物とかそういった水物が殆どで、こういった場所での……ケーキやらプリン、和菓子なんかは今の所見かけず。
たまにはお土産でも良いんじゃないかな、と言った安易な考えだけど。
「へえ……で、なんでまー坊が巫女姫様と一緒なのよ。」
「お客様対応は良いのか芦花姉。」
「他にお客さんもいないし、最近の平日夜はこんなもんだしね。」
「わ、私も気になる!」
いやまあ良いけど、後で何言われても知らないからな?
「今神社に帰れなくてね、祖父ちゃんに用事があるって言ったら一緒に。」
「玄十郎さんに?」
「時間潰しに付き合ってる、っていうのも俺が言えたことじゃないんだろうけど。」
「本当よ、びっくりしたもの。」
「何て言えばいいのかなぁ。巫女姫様と……その、お兄ちゃん仲良いの?」
悪くはない、っていうのが近いんだろうけど。
事情もあるし、二人はあの時一緒にいたしなぁ。
多少は説明しておいたほうが良いか、今後の為にも。
勿論他に漏らさない性格なのを分かった上で、だけど。
「
「「ああ……。」」
目の前でメニューを何往復化して見ていた彼女は、此方には気を配る余裕がなかったらしい。
「あー……決まった?」
「も、もう少し。」
「あんまり遅くなりすぎて夕御飯に影響しないようにね。」
「うっ。」
……今の言い方だと忘れてたな。
「たとえ今日が無理でもまた今度があるし。」
「巫女姫様に来てもらえるなら大歓迎ですよ。」
「そうそう。芳乃先輩に気に入って貰えれば大分違うよね。」
「じゃあ俺はさっき言ったのと……何か飲み物貰える?」
「あんまり飲み物のメニューは無いんだけど――――。」
芳乃ちゃんが悩みつつ、これと頼むまで。
ゆうに数分掛かったのは……まあ、別にいいや。
彼女のまた違う一面を知れた、ということで。