<Chapter2-4-3>
「ああ、だから独り言みたいなのが聞こえてた訳ですかぁ。」
居間に大急ぎで向かえば、既に三人は待機済み。
当然のように俺の分の御飯を盛ってくれる茉子ちゃんに頭を下げつつ、三人にももう一度謝って。
食事を始めつつ、先程の事情を説明すれば――――まあ、出てきたのはそんな言葉だった。
「申し訳ないです、お待たせして。」
「いえ、そういう事なら仕方無いと思いますよ。」
「そうだね。……という事らしいし、機嫌を戻したらどうかな芳乃。」
「別に気にしてないですよ!?」
『事前に言ってないのであれば、最悪でも朝食は一緒に取る。』
無言のルール……というよりはある意味どの家庭でもあることだとは思う。
実家だったら時間が合わなければその時々だったけど。
朝武家では少なくともそう決まっていて、そう運用されていた。
「それで……なんだかムラサメちゃんが言ってたんですけど。」
「ふむ?」
「今日の午後は二人と出ますけど、明日は芳乃ちゃんは難しいとかなんとか聞いたんですが。」
ああ、と呟いた安晴さん。
言おうと思っていて忘れていた……というよりは、予想通り後で伝えるくらいに考えていたのだと思う。
「芳乃、言ってなかったのかい?」
「お父さんが言うと思ってた。」
「あー……そうだね、うん。僕が言うべきだったかも知れないね。」
其処まで確認するようなこと……なのだろうか?
ただ芳乃ちゃんは知ってた様子だし、ひょっとしてそれもあって今機嫌が悪かったりする?
「まあ結論から言ってしまえば……明日は僕と芳乃が早朝から
「大丈夫なんですか……?」
最初に浮かんだのはそんな疑問。
基本的に夜外を出歩く人間が少ないのは、祟りの言い伝えの口伝……つまりは「イヌツキ」の話題に起因する。
山が危険、という以外でも近い場所であれば相応に危険があるというのは暗黙の事実。
だから実際の所、茉子ちゃんが夜に帰ること自体も危ないんだけど……当人が危険を承知で動いてるから何も言えない。
言った所で困った顔をするだけ。
それは、彼女の思う「贖罪」が完了していないから。
……この辺りも何とかしたいんだけど、受け入れて貰える土台を彼女自身に作らなきゃ意味がないんだよなぁ。
「まあ深夜までは掛からないはずだからね。だから本来は何処か外で食べてきて貰おうと思っていたんだけど……。」
ちらり、と茉子ちゃんへと視線を向け。
こくり、と頷く謎のアイコンタクト。
いや、何?
「茉子君に任せてしまって問題ないようだし、夕御飯までは外でお願いできるかな。」
「俺は別に構わないんですが……えーと、そもそも何で外出しなきゃいけないかって聞いても?」
「勿論。というか時折これからもあることだろうから、知っておいて貰った方が僕等にとっても嬉しい。」
……定期的に、と言っていい位にあると。
まあ言い方と態度とからして男女関係では無さそうだけど。
「まあ、将臣君が知ってるかは分からないけれど……神社、というよりは神事かな?これを出来る人間が減ってきてるんだ。」
「ああ……ちょっと別の方向で聞いたことはあります。」
主にオカルト方面の派生で。
寺でなければ祓えない、神社でなければ鎮められない。
その差異というのは細かく伝えられることもあるから。
だから、そういう……例えば舞を奉納するみたいな技能持ちが減っている、というのは耳にしたことがあった。
「で、その方向で付き合いがある神社に出向く必要があってね。」
「一日で済むものなんですか、そういうのって……?」
「舞の奉納だからねえ。芳乃の母親も良く呼ばれていたものさ。」
「でも、お父さんはそれについて行ってたんでしょ。」
「跡を継ぐことが決まってたからね。」
……妙なプレッシャーを感じる。
確かに俺の立ち位置微妙だもんな。
今のまま婚約者を続けるならいつかは婿入りコース以外見えないけどさ。
「ま、将臣さんもその内付いていくこともあるかもしれませんし?」
「いや、流石にそれは無いと思うんだけどなぁ……。」
「そうですかねえ?」
俺の考えを知ってか知らずか、そう言われてしまうと濁した返事しかできない。
それを認める≒芳乃ちゃんにそう言ってるのと変わらない、となるので。
流石に親の前で言いたくはないのです、分かって下さい茉子ちゃん。
「まぁ、今までだとその流れで芳乃を嫁に……みたいな話がなかったわけでもないんだけどね。」
「縁繋がりだし断りづらい、と。」
「だけど今は将臣君がいるから。知り合いの子を預かってる、っていう部分を押し出せば相手も無理強いは出来ないし。」
その辺りは政治だなぁ、と思いつつ。
当たり前のようにそういう話が持ち上がる、お姫様だというのを再認識し。
「まあ、そんな訳で二人には迷惑を掛けてしまうんだけど……申し訳ない。」
「いえ、頭を下げられることではないですから!」
「そうです。神事があるならそれを優先して貰って。」
慌てて下げられた頭を上げて貰って。
こういう人だから嫌えないし、周囲にも慕われてるんだろうなぁ、なんて思う訳だが。
「…………。」
妙に機嫌が悪そうな芳乃ちゃんをどうするべきか。
そんな彼女の顔を見て、どうしたものか迷っている様子の茉子ちゃんもいて。
こっそり溜め息を吐きつつも、今日のことを話題に乗せる。
「……今日、携帯買い替えるだけじゃなくて他にも何処か行く?」
そんな話題の転換と言うか。
議題を乗せれば。
「……そうですね。芳乃様、将臣さんもこう言ってるんですし荷物持ちでもしてもらいませんか?」
「サラッと酷いこと言ってない?」
荷物持ち確定、と。
そんな言葉に、もう一度息を吐いた。
その軽口に、気遣う様子を込められていたから。
(今日は……まあ、色々付き合うことになりそうだな。)
そんな意味を載せて。