<Chapter2-4-5>
「妙な夢、ですか?」
一頻り謝罪が済んだ後。
商店街の方向へと歩き出しながら何をしていたのか当然のように問い質された。
急に眠くなって妙な夢を見ていた気がする、と。
正直に答えれば、疑うようなお言葉。
……まあ、俺自身も聞かされれば多分そう反応するから言えることもないんだけど。
「誰かと誰かが話してる、そんな感じの。」
「へえ……それで、その相手は?」
「全く分からない。というか場所も他に誰かいたのかもはっきりしない感じ。」
「……疲れてません?」
「茉子ちゃんにも同じこと聞かれたけど、大丈夫。寧ろ体力が全快した感じ。」
アレが一体何だったのか。
夢は思考を整理するもの、と言うけれど。
あの感じは、自分で見たものとは何かが違うように思えた。
その違いが何なのか。
口に、言葉には出来ないのだけれど。
「逆に此方も聞きたいんだけど、ムラサメちゃんは?」
「少し調べ物があるとかで何処かに。」
「あの状態で調べ物って何するんだ……?」
物に触れるわけでもないのだし、実際出来るのは見たり誰かの会話を聞いたり程度。
……そう考えると、やはり俺にだけ触れられる理由も謎の一つなんだよな。
何だかそれが自然、って感じで流してたけど。
「まあいいや。じゃあもう一つ……時間取ってたけど、何か俺にあるの?」
「ムラサメ様が気にしてるだけだと思うので……まあ何か有りましたら教えます、ということで?」
「そうです。……今日は何しに行くんですか?」
苦笑、仮面の笑み。
冷淡、頬を膨らませ。
二人が二人らしい問い掛けをしてきて。
「買い物の付き合いです、はい。」
それに逆らうような理由も、言葉もなく。
両手を心の中で上げながら、大元の――――出掛ける理由を口にする。
「だったら、他の事考えないで下さい。」
「なーんて、芳乃様楽しみにしてました?」
「別に。新しいものを見られる、って事だけは気になってたけど。」
「またまた~。」
楽しそう……というよりは会話の方向性を変えようとしているようで。
茉子ちゃんは多分、本音半分大袈裟半分位の感覚で話していると思う。
勿論、自分が楽しみにしていないと言えば嘘になるんだろうけど。
「で、結局電気屋行った後どうするんだ?」
目の前の光景を眺めつつ、たっぷり一分位が経った後。
雑談8割、移動2割位のペースなので全然先に進まず。
やっと家がぽつりぽつりと散見し始めるくらいになってから聞いてみた。
女の子二人ではしゃいでる状態に突入する勇気がなかったとも言う。
「細かくは決めてませんけど……色々見ようかな、とは。」
「将臣さんが用事があるのでしたらそちらに出向いても構いませんよ?」
「用事…………。」
具体的に何か思い当たるわけでもないが――――と。
先程話していたアレに関して、お願いするのも有りかも知れない。
「さっきムラサメちゃんと話してた事なんだけど。」
「ほうほう。」
「そんな興味津々になるような内容じゃないんだけど。穂織で一着上下一揃え買おうかな、と。」
あー、なんて声が二つ。
そんな言われるような事なんだろうか。
「確かに、一着は揃えておいたほうが良いかも知れませんね~。」
「そうね。私達くらいならともかく、ご老人達の中には、ね……。」
「……え、どういうこと?」
分かりません?なんて聞かれても分からない、と返すしかなく。
「普段は鋭いのに、何でかこういう所抜けてますよね~将臣さんって。」
「罵倒されてる?」
「半々って言ったら怒ります?」
「……どうだろ。」
「冗談ですよ。」
冗談に聞こえない言葉を選ばないでほしいんだけど。
じろり、と見れば。
小さく笑いながら、茉子ちゃんは口を開いた。
「今の将臣さんみたいな服を着てる人って見かけた覚えあります?」
「ええ、っと……。」
子供……或いは外国人、観光客はまあ当然として。
穂織の人間で和装をしてない人間……。
「殆どいない……な。」
「勿論文化的な意味もありますし、過ごしやすいってのもあるんですけど……。」
「……ひょっとして、そういう事?」
言葉にしにくいというか、口に出したくないと言うか。
明らかにそんな違和感のある話し方で、何となく察する事ができた。
元々の穂織の土地柄から考えても身内で固まっていたのは間違いない。
であれば、特に年寄りは……という芳乃ちゃんの発言からして。
「多分将臣君の考えで間違いないと思う。」
「今は見逃されてると言うか、気にしてないんでしょうけど。」
「うわぁ……。」
俺が何かしようとすれば。
もう少し言い換えれば、今の俺の立場が公開されれば。
そんな所を突付いてなにか言ってくる可能性も否定できない、ということで。
「面倒くさい……って言っちゃ駄目だよね。」
「あはは……。」
口に出してしまえば、肯定も否定もしない返事。
まあその表情で何を言いたいのかは一目瞭然だったけど。
「まあそんな訳ですけど……揃えておきます?」
まあ、年寄に何を言われようが余り気にはしないけど。
二人と並んで立った時、違和感があると言えばあるかもしれない。
逆に俺がそういう格好をしている事に違和感があるなら、今みたいな格好すればいいし。
「……二人はどう思う?似合うと思う?」
「そうですね……。」
「そう、ですねぇ。」
考える時間は一瞬。
「……見てみたいと思わないか、といえば嘘になります。」
「……そうですねえ。将臣さん自身は興味あるんですもんね。」
「うん、まあ。」
「でしたら、今日は衣服店も行きましょうか。芳乃様。」
うん、と小さく頷いて。
二人に付き合って買い物、という今日の予定がまた一つ埋まった。
それが俺の希望で、というのは……まあ、二人が楽しそうだから良いか。
そんな風に、思っていた。
先程見ていた夢を。
すっかり、記憶の片隅に寄せてしまっていた。