一回Chapter切り替えたほうが綺麗そうなので茉子デートはChapter2-5にします。
<Chapter2-4-7>
「ええと、じゃあまずは卵を割ることから始めてみましょうか~。」
「分かった、お願い。」
「卵を一つ握ってですね。」
ぼぅっと、居間からキッチンの光景を眺める。
普段なら其処に立つのは一人。
けれど今日は自分から望んで二人が其処にいる。
そんな光景を、眺めるのは俺だけでなく。
「……何だか、少し懐かしいね。」
「懐かしい、ですか?」
冷蔵庫から取り出した麦茶を二つ、テーブルの上に置いたまま。
何処か感慨深そうに呟いている安晴さんの姿。
「そうさ。前にも少し言ったかもしれないけど……茉子君が世話をし始めてくれたのは、秋穂が亡くなった後だったからね。」
「ああ、そう言えば……。」
「それ以来、僕達は自然とキッチンに立つ事が無くなってしまったけど……今は、ね。」
多分その目線が追っているのは芳乃ちゃんなんだろう。
普段は立つことはない、けれど今日は自分から希望して。
そして茉子ちゃんも請われるままに自分のやり方を教えている。
「秋穂も、ああして立っていてくれたのを思い出すよ。」
「そう言えば……幼馴染だったんですもんね。」
「面と向かってお礼を言えば、照れて逃げてしまう位だったけど。」
古い、それでも大事な思い出を噛み締めるように。
じっと見ていた視線を少しだけ逸らして、戸棚の上を一瞬だけ見て。
いけないな、と首を振っているのがどうにも印象的だった。
「はい、では割り入れた卵をかき混ぜて下さいね。」
「えっと……こう?」
「やり方は好きでいいですよ~。零したり跳ねるのは気をつけて下さいね、卵ですから。」
少しずつ作る工程に変化が見え始め。
ただそれを眺めているだけ、というのもどうにも合わないように感じ。
――――或いは、それを見てしまうのがどうにも
共に買い物をしてきていて、卵中心のメニューだというのが分かっていたというのもあった。
「あの、安晴さん。先にお風呂頂いてもいいですか?」
「ああ、僕は構わないけど……もう良いのかい、将臣君は。」
多分、それは見ていなくて……という意味を指しているのだろうと理解していたけど。
苦笑を交えながら。
「ああして頑張ってる芳乃ちゃんを見るのは、安晴さんだけでいいと思いますよ。」
頑張りを見てほしいのか。
結果を見てほしいのか。
何方を彼女が望むのか、といえば恐らくは後者。
だから、それを口にするだけで……今は見てあげないほうが良いのだろう。
そんな風に考えたまでのこと。
「そうかな?」
「多分。」
彼女が誰の為に料理を。
そんな事を深堀りすれば、
その場を辞して、廊下を滑るように移動し。
何処か歪な答えだと自覚しながら。
理由付けをした答えを導き出し、一度席を外し俺の部屋として与えられている客間へと向かった先。
「……待っておったぞ、ご主人。」
「ムラサメちゃん?」
明かりも付けない、付けられない夜闇の中。
ひたすらに待っていたように、相棒と呼べる少女が浮いている。
何かあったのか、或いはこれから何かがあるのか。
その目は普段の俺を見る目とは違い、何処か冷徹で。
やるべきことを見据えたものだった。
「すまんが、少しだけ実験に付き合って欲しい。」
「……実験?」
「そうじゃ。それで解消できるのかどうなのか、そんな確認も含めてな。」
一体、何を――――。
けれど、俺の身体はそんな疑問を抱えつつ肯定の返答を返していた。
「それは構わないけど、一体何を?こんな暗い中で?」
「余り明るい場所ではな。それに……気恥ずかしい。」
「?」
一体何をする気なのか。
「出来れば手短にお願いできると助かる。ご飯の前にお風呂貰うつもりだから。」
「うむ、それは安心して良い。ただ。」
「ただ?」
「場合によっては痛む可能性もある。……そういう意味では、風呂前で良かったとも言えるやも知れぬな。」
「あの、何をする気で?」
再度の確認。
『何を』という部分に何の返答もなく。
良く見れば……或いは暗闇に目が慣れてくれば、その頬は何処か紅色に染まっている。
「
「え?……叢雨丸に対してじゃなく?」
「ああ。ご主人に宿して、じゃ。」
……そういえば、この間芳乃ちゃんが言っていたかもしれない。
柏手の件に付いて聞いた時、俺の体内に、なんてこと。
どうやってやるのか、そんなことまでは聞かなかったけど。
叢雨丸に宿す時と同じようにするのか?
「芳乃と茉子には今朝方相談しておる。もし変化が無いのなら、それはそれで厄介なんじゃがな。」
「あの、どういう……?」
「乙女が覚悟を決めたのじゃから暫し何も言うな。言わんでくれ。」
いや、それで一体どうやって――――。
目を瞑り、次の瞬間には覚悟を決めたように俺へと近付いてくる。
距離が狭まる。
ムラサメちゃんが触れられる唯一の物体、俺へと両手を掛ける。
顔と顔の距離が近付いて、そこで漸く何をするのかを察したが――――。
動くには、少しだけ反応が遅すぎた。
唇と唇が軽く触れ。
其処から、濁流のように何かが俺の体内へと流れ込んでくる。
思考、体内、四肢の隅々まで。
光が一周、俺の体内を駆け巡るのが分かった。
「…………どうじゃ?」
恐らく、実際に触れていた時間は一瞬にも満たない長さだったと思う。
だから、自分の中の変化を感じていた時間は錯覚なのだと分かってしまった。
同時に、思考が何処か明瞭になる。
引っ掛かっていた何かが氷解するように。
先程、俺が取った
「……さっきと変わらないようで、全部が変わったみたい、とでも言えば良いのかな。凄い変な感じ。」
「なら、効果はあったみたいじゃな。」
「一体、何を?」
詳しくは二人の手が空いてから話したい、と。
そして、明日は朝早く出ることを知っているから。
「明日の夜、時間を貰うぞ?ご主人。」
暗闇で隠しきれないくらいに。
唇に手を当て、顔中を真っ赤にしながら。
幼く見える彼女は――――そんな事を、呟いた。