<Chapter1-1-6>
「うわ。」
「こんなもんじゃね?」
「ここまで並ぶもんなんだな……。」
目に入ったのは、列を成すほどの観光客の群れ。
抽選で選ばれた相手だけが、とされていてこの数なのだから全員入れていたらパンクしてただろう。
目測で……30、40人くらいだろうか。
大多数が男性だが、所々に女性が混じっている。
「実際もう終わってる人もいるはずだしねえ。 小春ちゃん、どれくらいいたか分かる?」
「んー……確か今年は50人だっけ?」
「え、舞しながらも対応してたってことか?」
「違う違う。 流石に舞終わって……五分くらいしてからかな? ここまで直ぐだし。」
……まあ、確かにそこの時間被らせるのはおかしいもんな。
列の殆どは観光客……その先には、
「話では聞いてたが、本当に刺さってるんだな……。」
「何だ、疑ってたのか?」
「話半分とは言わないが、岩に刀刺さってるってのは半信半疑だった。」
室内の数段高くなったところ、祀られる対象としての台の上には巨大な岩が鎮座している。
その中心に刺さっているのが日本刀。
一見すると物凄い違和感だが――――見える刀身は妖しい程に鈍く銀色の光を放ち、見るものを引き込んでいた。
妖刀、或いは神刀。
魔力を持った刀というものはこんなものなのか、と実感を感じるほどに。
この某物語を再現したかのような刀こそ、この神社の御神刀。
そして……。
「今年もどうせ出ないだろうけどな。」
「どうなるかなぁ。 お兄ちゃんはどう思う?」
「どーだろ……寧ろどう刺したんだよ、って方が気になってる。」
今行われているイベントこそ、『この刀を引き抜ける者はいるか!?』というもの。
まんま某伝説の剣と同じだが、実際あの刀を抜いた相手はいないらしい。
固定化されていると言うわけでもないのなら……まるで、相手を選ぶかのように。
「まー坊、神社に来るのは初めてだっけ?」
「いや……お参りとかで来たことは有るよ。 中は初めてだけど。」
お参り
どうにもタクシーで見た夢の事が脳裏に残り続けている。
恐らく、似た髪色の少女……巫女姫様を見たから、というのもあるのだろうけれど。
あの当時から考えれば――――俺と同い年位になる筈ではあるが。
せめて名前くらいは覚えていれば、判別も出来たというのに。
「そっか。 あれが御神刀『叢雨丸』。 さっき話した伝承にある刀ね。」
「数百年経ってるのにあの輝きかぁ……。 実際のところ抜けないもんなの?」
「無理無理、俺も小春もやってみたけどうんともすんとも言わねーでやんの。」
「1ミリも動かないんだよねあれ。 ほら見てお兄ちゃん。」
小春が指差したのは今挑戦してる人。
滅茶苦茶ムキムキな外国人が顔を真っ赤にしながら引き抜こうとしてるが微動だにしない。
単純な力じゃどうしようもないってのは傍目でも分かる。
「あんまり腹立ったから横に引っ張ったりしたけど駄目だったしなー。」
「折ろうとするなよ……。」
「いや、その程度で折れるならとっくに折れてるわ絶対。 俺だけじゃないだろうしな、やろうとしたの。」
まあ、トンチみたいに頭を回転させて……なんてことを考えるのが廉太郎だけとは思えないしな。
それもそうか。
「今こそ人数制限だけど……昔は無制限だったって話だもんね。」
「なんとしてでも抜いて~なんて、考えなかったとは思えないよね~。」
ねー、なんて顔を合わせてるが良いんだろうかそこの疑似姉妹は。
「まあ……お前の気持ちもわかる。 だが目の前のアレがイカサマに見えるか?」
「だよなぁ……どうなってんだか。」
「それにお祖父ちゃん、イカサマなんてしたら本気で怒ると思うな。」
考えたくもないことを言わないで欲しい。
例え真実を黙る形で黙認するとしても、積極的にそんな形で協力することはないだろう。
そんな確信を持つくらいに、俺の知る祖父は一本気な性格をしていた。
だとすれば……本当に、何らかの力があって――――?
興味は尽きないが、俺自身には直接関係のない話だから考えすぎないようにしておく。
何より、こういうのは離れたところから考えてるのが楽しいものだし。
それよりも。
「……あ、いた。」
いつものように厳しい表情と視線でイベントを眺める祖父の姿。
邪魔にならないようにゆっくりと近付き、小声で声を掛けた。
「お久しぶりです、将臣です。」
その声で、俺にようやく気付いたように目を細め、視線を向けた。
「む。」
「宿の手伝いできました。 迷惑を掛けるかと思いますが、暫くの間宜しくお願いします。」
妙な圧力と言うか、威圧感は変わらないな本当に……。
俺が知る四年前の時点でも剣道と言うか剣術というか、それに関しては毎日続けていたはずだ。
足腰もしっかりしていて、傍目から見て素直に格好良い。
「態々すまんな。 此方こそよろしく頼む。 手伝いは明日からで構わんから、今日はゆっくり休め。」
「はい、お言葉に甘えます。」
「暫く見ていなかったが……元気にしていたか? 体調は崩していないか?」
「はい、大丈夫です。」
どうしても敬語……というよりは、自分の祖父だが目上の人という意識が抜けない。
だけど、何となく。
こういう関係が丁度いいような気もしていた――――子供の頃とは違って。
「剣道はやめたらしいな。」
「……はい。 身体を動かしてはいますが。」
「壮健に暮らしているのなら構わん。 それに……身体を?」
「はい。 定期的に走ったりは。」
「成程な。 自分の意志で続けているなら尚更に構わん。」
一度目を瞑り、何かを考えるように。
やはり、剣道をやめたというのには何か思うところがあるよう。
廉太郎もあの調子なら続けてはいなさそうだし。
「兎も角、宜しく頼む。 体調優先で構わんし、何かあれば遠慮なく言え。」
「ありがとうございます。」
一旦挨拶は済んだし、三人のところに戻っても良かったけれど。
ふと気になって、そのまま話を続けた。
「あの、話は変わるんだけど……アレ、本当に岩に刺さってるだけなの?」
「お前は伝承を知らないのか?」
「芦花姉に聞いた。 その上で聞いてるけど……全く動かないってどうなってるんだろ、って。」
「神から託された刀だからな。 抜くにも資格がいるのだろう。」
「……資格?」
それこそ疑問に思えてくる。
神からの刀を抜く資格……お告げでもあるというのだろうか。
「そういえば……将臣は参加したことはあったか?」
「いや、時期も悪かったし一回もない。」
「そうか。 ならばお前も参加してみると良い。」
え?
「いや、抽選とかで人数決めてるんでしょ?」
「問題ない。 ワシが話をつけてくるから少し待っていろ。」
そう言い残し、神主らしき人物の元へ。
……また急だな。
「あれ、祖父ちゃんなんだって?」
「話付けてくるから参加してみろってさ。」
「あれま。」
「どういうつもりなんだろ……?」
流石に怒るとかは考えなくていいと思うが。
単純に良い機会だから、というだけだろうか。
「まあ深い理由はないと思うけどね~。 心配しすぎだよお兄ちゃん。」
「ま、まー坊も廉太郎も昔は悪ガキだったから無理もないけど。」
「その節はご迷惑をおかけしました。」
「いやいや。 それに廉太郎は今でも悪ガキだし。」
さっき小春が何か言いかけていたことだろうか。
「……何した?」
「どーせ今日もお客さんナンパとかしてたんだよきっと。」
「うっ。」
「うわ図星だ。 で、結果は?」
「全部空振りだよ!」
全部、つまり複数。
「何打数?」
「えーと……13打数?」
「多いわ! しかも全部ダメかよ!」
「これが廉兄の実力ってやつよ。」
「誰視点で言ってるんだポンコツ妹。」
「妹視点。」
じゃれ合いは程々にしろよ、と思いつつ。
……いや、しかし。
「廉太郎がナンパとは……なんか一気に時代に置いていかれた感がすごい。」
「あんまり舐めんなよ!? 打率悪くてもホームランだってあるんだからな!?」
「騒がないの。 何度も玄十郎さんに怒られてるのに懲りないんだから。」
「おっと悪い。 にしたって祖父ちゃんが厳しすぎるのが悪いんだって。 この辺出入りもないから出会いもないしなー。」
…………まあ、出会いがないというのは何となく分かるが。
芦花姉も笑いながらに拒否るだろうし。
しかしなんだ、この遊んでる感。 この敗北感。
「将臣!」
「あ、はい!」
「良いぞ、許可が出た。 お前もやってみろ。」
気付けば列は全員終わっていて、残っているのは俺達と祖父ちゃんに神主さんだけ。
……見られてると緊張するんだが仕方ない。
とっとと終わらせてしまおう。
それで済むはずだし。