恋心、想花の如く。   作:氷桜

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少しだけ気付く、気付いてしまう話。
そして茉子節。


<Chapter2-4-8>

 

<Chapter2-4-8>

 

 

 

ちゃぷん。

ぶくぶく。

 

風呂場に広がる波紋の中。

明らかにはしたない、子供っぽいことだと分かっているのに。

湯に口をつけ、泡を吹き出しながら先程の事を考える。

 

(…………()()()()()()()()()()()、ってことでいいのか?)

 

先程まで考えていたこと。

誰のためになのか。

或いは当然のように考えていた方向性。

()()()()()()に動く人間だったら、そもそもの話――――俺は協力していたか?

恐らく、何処かでそれに気付いてしまえば。

()()()()()()()()()()でも、自分の考えに飲み込まれていたようにも思う。

 

(もしそうなったら、多分思い込んで……か?)

 

実際そうはならなかった、気付いて貰えたからそこで済んでいる、と言うだけの話で。

良くは分からないけれど、ムラサメちゃんが何かに気付いて体内を祓ってくれた、という事だと理解する。

問題は。

何に気付いたのか、何故気付いたのか。

 

(芳乃ちゃんも言及していた事で間違いはないとしても……。)

 

前回から一週間少々で影響が出ている。

それも前回とは何かが違い、落ち込ませる……と言った即効性のあるものではなく。

長期的に影響を与える、気付いたタイミング次第では手遅れにすら成りかねないもの。

一体いつからなのか、

その発端が分からない以上、自分の考えに信頼を置くことが出来ない。

或いは、そうすること自体が目的なのか。

 

(……ただ、口に出さないでよかったな。)

 

内心で考えていることだけで。

行動で察していた可能性もあるけれど、それでも決定的にはなっていない。

それだけは、救いか。

 

――――こん、こん。

 

そんな考え事にずっと浸っていれば。

遠慮がちに、風呂場と脱衣場を遮る戸を叩く音が響いた。

 

「……はい?」

「あの……将臣さん。」

 

湿った空間に、音が乱反射する。

はっきりした声でなく、何処かくぐもった声しか聞こえないけれど。

 

「茉子ちゃん?」

 

それが誰なのかくらいは、はっきりと分かった。

同時に、何故風呂場に来ているのか……なんて疑問も浮かんだけれど。

からり、と少しだけ扉が開き。

先程よりははっきりとした声が聞こえてきた。

 

「はい、茉子ですよ。今大丈夫ですか?」

「別に何か聞かれて困る状態ではないけど……。」

 

頭は流したし、後は身体を温めつつ思考を整理したら上がろうと思っていただけで。

それに、入ってくるというのでないのなら問題ない……と思う。

 

「では……ええと、大丈夫でしたか?」

「何を指してるかが分からないんだけど。」

「先程ムラサメ様が顔を真っ赤にして本殿の方へ去っていきまして。」

 

……何かあったのを察知して確認しに来た、ってことだろうか。

心配をかけてしまって申し訳ないと思うのが半分。

もう半分は――――。

 

「茉子ちゃん、御飯はまだ大丈夫と思っていいの?」

「はい、まだ少し火を通さないといけませんので。」

「そっか……じゃあ、質問に答えないで逆に聞くようなんだけどさ。」

 

多分、ムラサメちゃんが時間を取ったのがこのことなんだろう。

つまり、芳乃ちゃんに茉子ちゃんはこの事実……まではいかないにしても、断片的にでも情報を握っていた事になる。

恐らくは、俺を想っての事なのだとしても。

あの時の発言からして――――そう結びつけるのが、一番納得がいくことだったから。

明日話すと言った彼女ではなく……少しだけ、茉子ちゃんに問い掛ける。

 

「……ムラサメちゃんから、俺に関してなにか聞いてた?」

「……そうですね。予想は。」

 

ごまかしても、俺には分からないことなのに。

彼女の答えは、誠実すぎるほどだった。

ざばぁ、と。

湯が、湯船から溢れて床を湿らせる。

 

「将臣さん。」

「うん、大丈夫。俺がもし皆の立場でも同じ選択をする。」

 

ただ。

――――穢れの恐ろしさを、改めて実感したと言うだけの話だ。

 

「明日になる前に、茉子ちゃんが知ってる範囲でいいから色々聞いてもいいかな。」

「ワタシは構いませんが……将臣さんは、その。大丈夫ですか?」

 

その声色は、心配してくれているものだった。

一個人として、一個人を思う言葉だと俺は受け取った。

ついさっきまでなら……どんな風に捉えていただろうか。

考えることも、難しい。

 

「大丈夫でも、大丈夫じゃなくても。どっちにしろ、今はカッコつけて見栄を張ると思うよ。」

「なんですかそれ。」

 

冗談交じりでそんな言葉を呟けば。

同じく、それを受け取った口調へと変化する。

 

「そりゃあ…………。」

「?」

 

……危うく、余計なことまで口にするところだった。

何度か口にした覚えのある、『誰かのため』に穢れ祓いに参加すること。

冷静に考えれば、それって告白と変わらないんじゃないか?

そんな事に行き当たってしまったから。

今更すぎることではあるんだけど。

 

「いや何でも。それで、いつ聞けばいいかな?」

「そう、ですね…………。」

 

今するには、多分長引いてしまう。

そんな思惑を込めての確認だったけど、正しく捉えてくれただろうか。

 

「御飯の後、家事が済んだ後になりますけど。」

「うん。」

「お部屋、お邪魔してもいいですか。」

「……別に、いいけど。」

 

一瞬、どうしようか迷ってしまったけど。

明日は何方にしても二人で出るんだし。

多分ムラサメちゃんだって戻ってくる。

其処まで緊張する理由も、なにもない。

 

「何もしませんよ、()()()()()()。」

「!?」

「冗談です。余り入りすぎて湯当たりしないで下さいね~あは♪」

 

そんな事を残し、立ち去ったのを音で確認して。

深く、深く溜息をついた。

 

「心臓に悪いから、変な事言わないでほしいな……。」

 

そんな独り言を、湯気の中に吐き出して。

上がるか、と。

少しだけ軽くなった気分の中、立ち上がった。

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