<Chapter2-4-9>
食事を済ませた後。
何をするでもなく携帯を弄りながら無意味な時間を過ごす。
こういう時に限ってムラサメちゃんは戻ってこずに。
無駄に緊張しながら、時間を浪費する。
(普段ならそろそろ自由時間に入るくらい……か?)
手元の時間を目にして。
何となく把握してしまっている家事に費やす時間を考えて。
其処から計算して――――。
小さく、障子戸を叩く音がする。
「……ワタシです。」
「どうぞ。」
「では少しだけ、失礼しますね。」
それが誰か、なんて考える必要性すら無かったから。
声に合わせ、反応したつもりでも裏返っていなかったかが不安になってしまった。
そんなレベルで、今の俺は安定してないと。
自分自身を、そう評価する。
「まあ、余りお邪魔しても失礼でしょうから。手短に。」
「その辺は任せます。」
「……っていうのも冗談ですけどね~。余り思いつめないで下さいよ?」
勉強する時や何か物を読む時などに使っている、小さな卓袱台の反対側へ座る彼女。
二人の何方を見ても、座り方が綺麗だよなぁ、と。
当たり前過ぎるほどに今更な感想を思いながら。
「そんな風に見えるの?」
「ワタシには? なんと言えばいいんでしょうねえ……同類を見るような?」
「同類って。」
それは、常に思いつめてるって言ってるようなものなんだが。
……まあ、流石にそれは冗談としても。
似たような感情を抱いているのは予想に難くなかった。
「……茉子ちゃんも心配だけど、多分今何言っても駄目だよね。」
「どうして……そう思うんですか?」
「勘。」
何故か、と言われれば。
はっきりした理由があるわけでもないのだし、こう答えるしか無いわけで。
珍しく口を小さく開いて理解できない、という表情を浮かべている。
それが急所を貫いていたからか、的外れだったからなのかはさておいて。
「話を戻していい?」
「あ、はい。では改めて……ムラサメ様から聞いていたこと、でしたよね。」
「うん。」
「はっきりと聞いたわけではなかったのですが……あ、これは芳乃様も一緒ですよ。」
茉子ちゃんの話を自分の中で噛み砕く。
ムラサメちゃんは、あの妙な反応をした際に
以前に芳乃ちゃんと同行していたときと同じような異常が出るかも知れない。
或いは、でなければその方が不味いかも知れない。
だから念の為に発言や態度に気を配っていてくれ、と。
そんな事を説明し、協力を依頼したのだ、と。
…………そこで、一つ疑問が浮かぶ。
「なんでムラサメちゃんは俺に言わなかったんだ……と言うよりも、自分で見ることを選ばなかった?」
「ああ、そこですか。」
「分かるの?」
「ニンジャですから。推測ですけどねー。」
そんな返答を交え、たった一言。
「恐らくはですが、
「……穢れに、気付かれる?」
意思でもあるのか……いや、あるな。
恨みの方向性、祟り神。
そういった幾つもの、マイナスの方向性を束ね合わせた意思は間違いなくある。
「でも、気付かれるって……。」
「何言ってるんです? 明らかに将臣さんに対する攻撃じゃないですか。」
「いや、そこまでは俺も重々承知してるよ。 でも、ムラサメちゃんに気付かれるからって避けるか?」
祟り神のイメージが強すぎるせいなのかも知れないけれど。
もう少し物理的というか直情的、強引に押し切ってくるイメージが有る。
隠れる、身を潜めるイメージが余りに薄いし……それに、そういうことをするなら長期的に効果を出すということ。
決定的な断裂を齎すかもしれなかった、というのは自分でも想像はしたけれど……どれだけの時間を掛ける気だったんだ?
「……ああ、其処の認識がズレてるんですね。成程成程。」
「?」
今の発言で何かに気付いた?
俺と彼女達の認識で、ズレが有る?
「多分、叢雨丸の担い手だからなんでしょうけど。将臣さん?」
「は、はい。」
「
「――――え?」
祓う手段が殆どない?
いや、それは……どういうことだ?
「芳乃ちゃんが奉納したりで穢れを祓ってて、それでも祓いきれないのが祟り神として出てくる……って形じゃないの?」
「通常ならそうです。ただ、今回の場合は違いますよね?」
「……と、言うと?」
「祟り神を祓いましたけど、実際にはいつから将臣さんに張り付いていたかは分かりません。実際問題、芳乃様が祓ったとも聞きました。」
柏手の時のことか。
当然に、その辺りは共有していてくれるらしい。
「つまり――――。」
「……祟り神として実体化する以前から付いていたなら。
「そう考えるのが一番しっくり来ませんか?」
そう言われて。
背中の内側に、氷柱が突き立ったような寒気を感じた。
今一番狙われているのが、俺?
そんな認識を、全くしていなかったから。
甘かったと言えば……それは、間違いない。
「……でも、大丈夫ですよ。」
「……何で、そんな事が言えるの?」
明らかに固まった、硬直した俺を見て。
その表情が何を意味するのかなんて、全く考えつかなかったけど。
けれど、何かしらの意味のある――――そんな、見たことのない微笑を浮かべて。
「ワタシがいますし、芳乃様も、ムラサメ様もいます。」
そう呟いて。
目の前から、一瞬消えて。
背中から、人肌ほどの暖かさを感じた。
「ワタシ達を助けてくれるのなら……ワタシ達も、将臣さんを助けます。」
それでこそ、と。
耳元で、彼女は何かを呟いた。
…………ほんの少しの間。
動くことも出来ずに。
彼女の、体温で……気分を、安らげてしまった。
何故か、落ち着けた。
……少しだけ、恥ずかしい。