恋心、想花の如く。   作:氷桜

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随分とお久し振りです。


<Chapter2-5>
<Chapter2-5-1>


 

 

<Chapter2-5-1>

 

 

ちゅん、ちゅん

 

そんな鳥の鳴き声が聞こえるかどうか。

少しずつ季節が変わり始め、春模様が強くなり。

朝の時間帯が早くなったと言っても、俺自身の目覚める時間帯は変わらない。

……いや、故郷にいた時と比べれば明らかに早いか。

 

(んん……。)

 

枕元の携帯電話で時間を見れば、朝の五時より少し前。

目覚ましとして使用している携帯電話も繰り返しとしての時間を刻み始めている。

普段動き始めるよりも()()()()目覚めてしまったことに気付き、身体を起こし始めた。

 

(寝過ごしちまったかぁ。)

 

半ば寝ぼけ眼で身体を動かしつつ、軽いストレッチ。

朝食前のランニング、もう少しすれば祖父ちゃんからの鍛錬が始まるというのもあるので素振りも再開しようと思いつつ。

それでも尚、今日何故寝過ごしたかと言われれば。

思い返すのは、昨晩の茉子ちゃんとの()()()

 

ぅぁー……。

 

それだけで顔に熱と、青少年だからこその朝特有の衝動が浮かんでしまって首を振る。

多分今、顔を覗かれれば頬辺りが赤く染まっているのに気付かれる。

 

女の子に救われた。

 

それ自体は別に良いが、思い返してしまったのが肌の感触とかそっち方面だったから。

……まあ実際、()()できていないというのも事実だが。

美少女二人と幼女一人、それに義父(仮)と同居しているような状況故に。

何方かと言えばそういった考えは、日々の鍛錬で汗に消えていったような気もする。

 

「ま、考えるだけ無駄だよな。」

 

機会があれば、何処かで発散するとしよう。

実際そんな機会があるかは分からないんだが。

念入りに匂いを消したとしても気付かれると言うし。

 

そんなどうでもいい言葉を口にして、和室の障子を開いて廊下へ。

板張りの廊下を、滑るように移動していく。

目指す場所は先ずは脱衣所。

此処暫くランニングを続けているのもあってか、ランニング中から後で使用するタオルは申し訳ないが洗濯して貰っていたから。

「どうせ洗濯する物ですし、元から結構な量ですからね~」と強引に茉子ちゃんに押し切られた形なわけだが……。

確かに結構な量毎日洗ってるけど何に使ってるんだろう。 神事だけじゃないよな多分。

 

(うわ、そこそこ荷物あるんだな……。)

 

玄関口、紙袋が幾つかと布で厳重に守られた何かの包みが目に入る。

日帰りでも何でも、神事を他所で執り行う以上は色々必要になるものなんだろう。

そんな曖昧な事を思いつつ、歩みを進めれば。

 

「おや、おはよう。」

「……あれ、安晴さん? おはようございます。」

 

宮司姿に身を包み。

居間から顔を覗かせ、玄関の方を確認している安晴さんの姿。

 

「昨日早朝から出るって言ってましたけど……。」

「うん、これからだよ。 今は芳乃を待っているところさ。」

 

ちらり、と目線を芳乃ちゃんの部屋へと向ける。

……まあ、女の子だし時間もかかるものなんだろうか。

着慣れてるとは思うんだけど、まあ男には見せられないもんな。

 

「帰りは恐らく普段の夕食後……大分遅くなってしまうとは思う。 申し訳ないけど、僕達は外で取ってくるから。」

「いえ、此方は気にしないでください。 幾らでも取る手段はありますし。」

 

祖父ちゃんのとこで一食だけ用意して貰う方法もあるし、商店街のどっかで取っても良い。

コンビニまで行ってでも良いし、食材さえあれば全く作れない……訳じゃない……筈。

そんな事を考えているのを見透かしてか、小さく笑う安晴さん。

 

「まあ、将臣君なら心配はいらないと思うけれどね。」

「?」

 

それに気付いていないからか、多分に、余計に笑って。

 

「芳乃も――――。」

 

何かを言いかけ。

 

「お待たせしました、お父さん。」

 

普段よりきちっとした、しっかりと目覚めている声で。

それでいて冷たく、何か釘でも刺すような声色で横から声が掛かる。

 

「おはようございます、将臣さん。」

 

そしてその刃は、俺に対しても向けられる。

少しだけヒヤッとするものを感じつつも。

 

「お、おはよう芳乃ちゃん。」

「朝から元気ですね、お二人共。」

 

返した挨拶に、返ってきた返答はつっけんどんというか。

明らかに不機嫌そう。

朝が苦手っぽい芳乃ちゃんだが、今のは多分昨日以前から続いているもので……。

理由は深く追求しない方が良い、と仕事をしない俺の直感が囁いていた。

 

「ははは……。 芳乃、少しはお手柔らかにしたほうが良いと思うよ。」

「必要がなければ私だって言いません。」

「そいつは一本取られた。」

 

そうして会話する二人は、何処からどう見ても仲がいい親子で。

互いを大事にしているんだろうな、というのは嫌でも伝わってくるものの……。

 

「あの、時間大丈夫ですか? 俺もそろそろランニング出るんですけど。」

「おっと、そうだね。 芳乃、茉子君は?」

「多分もう少しで来ると思います。 鍵とかは……普段通りで良いんですよね?」

「ああ。 将臣君もいることだからね。」

 

ああ、そういえばそうか。

二人がいないなら俺と(来るなら)茉子ちゃんしか残らないもんな。

 

「一日くらいは留守番任せてください。 まあ、半日にも満たないですけど。」

「将臣くんの事は信頼してるよ。」

 

自虐混じりで笑って言えば。

安晴さんも笑って返して。

 

「……むぅ。」

 

頬を膨らませるように、不機嫌そうな芳乃ちゃんが俺達を見つめていた。

 

……結局。

ムラサメちゃんはランニングに出るまでの間姿は見えなかったけど。

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