<Chapter2-5-3>
光り輝くご飯粒に納豆、後は卵焼きに味噌汁と和え物。
一汁三菜と呼ぶんだったか。
この辺りを毎日用意する彼女は、しかし当たり前の手際でそれを行う。
「?」
首を傾げる彼女――――茉子ちゃんに。
何でも無い、と小さく告げて。
「いただきます。」
「はい、どうぞ。」
そんな食事の前の礼をして、口を付ける。
暫しの静寂。
普段であれば四人で取る食事、けれど今朝は二人きり。
ムラサメちゃんがいれば良かったけれど、今は何処にいるのかさっぱり不明。
緊張、というのは無くなりつつあるけれど。
何しろ――――。
「……どうかしました?」
「あー、いや。 何でも無いよ。」
同じ行動の繰り返し。
同じ言葉の繰り返し。
腕が鈍る、指先が迷う。
一度意識してしまえば、『二人きり』だから、昨日のことがあるから。
これが初めて会う、これから仲良くなっていけば良いと割り切れる相手ではないから余計にそう思ってしまう。
相手の心が分かれば良いだなんて、そんな贅沢は絶対に口に出来ないけれど。
「それでさ、茉子ちゃん。」
「はい?」
不思議がる彼女の思考の向きを変えるように、言葉を掛ける。
察しが良いと言うか、内心を読み取られたりすれば恥ずかしくて逃げ出したくなってしまうし。
「今日二時には志那都荘前合流だから、それに間に合うようにしたいんだけど。」
「ああ、でしたら少し昼食は早めたほうが良いでしょうかね~?」
「外でもいいけど?」
「ああ、それもいいですね。 場所があるのなら、ですけど。」
……あるんじゃないかな?
まあ二人は知らないだろうし、廉太郎や芦花姉辺りに連絡して聞くのも良いかも。
うちで食べてけ、とまで言わないだろ多分。
「後、安晴さんから聞いてる? 二人の今日の予定とか。」
「ああ……今日の帰宅時間とかですか?」
「そうそう。 夕食食べてくるとか。」
「聞いてはいますよ。 それがどうかしましたか?」
当然のような返答。
手先が止まるというか、食事が冷めることを嫌うように口に含み飲み込んで。
そもそも食べながらの会話なんて……ってのは、今更だ。
「それで……茉子ちゃんはどうする予定なのかなぁって気になってさ。」
「はぁ、というと?」
……え、ちゃんと言わないと駄目?
うちの母親なら多分喜々として追い払う気がするけど。
「いや、朝武の人達の面倒……面倒? というか家事を引き受けてるわけだし。 今日は休んでも良いんじゃないかなー、とか。」
「好きでやってるんですし、休みなんてとても。」
当たり前のような顔で、そんな事を言う。
苦労しているとか、そういった様子は欠片もなく。
いや、欠片も見えないままに。
「それに、もしワタシが作らないのでしたらどうするつもりだったんです?」
「え、ほら。 出来合いだけでも買うなり、どっかで食べてこようかな、とか。」
小遣いはまだあるし。
昼、夜と外で食べることだって前だったら普通にやってた範疇。
特に
親父さんが何処かに出ているときなんかは特に。
それに、たまにはコンビニとかで新しいカップ麺とかを物色するのだって……。
「そんなことだと思いましたけどね~。」
はぁ、と溜息が漏れる。
其処まで言われるようなことなのか。
呆れられ具合が凄まじくも思える。
「健康を考えればワタシが作ったほうが絶対いいでしょう?」
「って言ってもさ、普段から色々やって貰ってるのに俺だけのためにってのも。」
やって貰って嬉しい、という気持ちがあるのは間違いない。
ただ、それ以上に申し訳ない、という感情も重なっているだけのこと。
「じゃあ、言い方を変えます。」
「?」
「
――――。
目元を伏せながら、そんな言葉を呟く。
分かっていてやっている。
それでも、頬の赤みは間違いなく本物で。
「そう言われると、流石に断れないな……。」
「そうです、最初からそういえばいいんですよー。」
目線を合わせる、上げたままにするのもなんだか恥ずかしくて。
食事側、下に視線を向けて苦し紛れに言葉を紡ぐ。
返ってきた返事も、それに合わせた反撃の言葉で。
何も言い返せずに、手に取った味噌汁を啜る。
「…………。」
「…………。」
奇妙な沈黙。
何も言えない、言い返せない。
そんな時間が少しだけ。
結局、そんな状態が解消されたのは。
いつもよりも大分遅くなった食事の終わりを不思議がった、ムラサメちゃんがやってくるまで続き。
「何をやっとるんじゃ」
と。
呆れた言葉に、二人共何も返せなかった。