恋心、想花の如く。   作:氷桜

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原作の鮎のサイズは一口大(より少し大きめくらい?)っぽいですがもうちょっと大きくしてみました。
原作よりも行動が大人しいのは既に意識しちゃってるからです。


<Chapter2-5-6>

 

<Chapter2-5-6>

 

赤い布――――触り心地からして麻ではない。

もっと滑るような感じからして絹とか、そういった高価なモノなのかもしれない。

観光客、購入者……立ち食い客が腰を据えて休める店前の長椅子。

そんなものが掛けられた場所に手を付けて座れば、最初に浮かんだのはそんな事。

 

(座り心地良いなぁ……。)

 

そんなことを考えつつ、もう一度滑らせていれば。

 

「お客さん。」

「あ、はい。」

 

ぱちぱちと。

炭の音を弾けさせて焼いていたおばさんからそんな声が掛けられる。

 

「はいこれ、常陸さんとこの分ね。」

「はい、有難うございます。」

 

立ったまま待っていた茉子ちゃんの小さな笑い声が耳に届きつつ。

先払いしていた代金と引換の、簡単な軽食。

串に刺さった丸々一匹の川魚に、白い使い捨てのトレイを一つ受け取る。

 

「一応配るようにしてるんだよ、慣れてないと零したりもするからね。」

「ああ。」

 

慣れていても食べ始める場所に寄っては身が崩れてしまう可能性だってあるのだし。

これくらい気を使って当然なんだろうな、と。

当たり前のことを当たり前のように受け取って、改めて先程の席に腰掛けた。

彼女(まこちゃん)と並び、日が当たるお陰で寒さよりも温さを感じながら。

何処か時代錯誤のような、穂織の町並みを眺めて食べる。

 

「お。」

 

ほろり、と崩れる身が舌の上に落ちる。

焼き立てということも有り、口の中に残る熱と皮に掛けられた塩。

そして何より『甘い』とすら思うような味が口いっぱいに広がって、そんな言葉を漏らす。

 

「美味しいって評判なんですよ、此処。」

「ああ……人気になるよ。」

 

はむ、と齧り付き飲み込み。

どうですか、とばかりに自慢気に口にする。

 

(それだけの味だよな、こりゃ。)

 

口の中に入っていた残りを飲み込んでから、そんな言葉で返しつつ。

味も勿論だが、隣に座る彼女の百面相にも例えられる表情の変化。

そちらにこそ目を向けてしまって、胸の中の何かが強く刺激されるような。

そんな違和感さえ感じてしまう。

 

「あ、手に付いちゃった……。」

 

指先が皮に触れてしまったのか、微かに光る指を舌先で舐め取る。

そんな当たり前の……うん、当たり前の行動にさえも引っ張られる()()()()()()を自分の中で叱咤。

 

「?」

 

上目遣いで、皮の油なのか唾液なのか分からないそれを光らせながら。

俺を見て首を傾げる姿から意識して目を逸らす。

もう一口、とばかりに背中側から口に含んだ味は先程と少しだけ違い、ほろ苦さを交え。

塩っ気によって引き立てられる味に舌鼓を打つ。

 

「……でも、なんで鮎? この辺の名産だったり?」

()()()()()()、って話もありますけどねー。 一年中売ってますし、拘り抜いた養殖じゃないかと。」

 

昔は。

今は取れなくなった、という意味か。

その理由は――――なんて、どうでもいいことに意識が向いてしまうのは悪い癖。

 

「一年中なんだ。」

「はい。 外国人観光客にも受けが良いですし、安定した収入源みたいですねぇ。」

「確かに『和』って感じ。」

「お饅頭や温泉卵みたいに手軽に手に入らないからこそ、ってところありますからねー。」

「味も研究したからだと思うけどね。」

「それはまあ。」

 

誰だってそうでしょう?と。

口元を少しだけ緩め、当然の言葉を口にする。

 

「……失言でした。」

「まあ、そういうところが将臣さんらしいんでしょうけども……と、ちょっとそのままで。」

「え?」

 

手が俺の顔へと伸びてくる。

唐突なことで動き出すのが遅れ、そして彼女の言葉に身動きを封じられて固まって。

口元、右頬に程近い場所へと指先が触れて離れていく。

 

「食べ滓が付いてましたよ。」

 

極自然にそんな行動を取り。

胸の中の鼓動が気恥ずかしさ混じりで激しくなる。

顔が赤くなるのが自分でも分かり、見せないようにと顔を伏せて更に一口齧る。

再度広がる、複雑な旨味。

 

「~♪」

 

楽しそうな茉子ちゃんの雰囲気に呑まれないよう、味に集中して時間を過ごす。

けれど、結局。

口の中の味に集中することは、出来なかった。

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