<Chapter1-1-7>
……さて。
問題は、といえば。
「なにか作法とかあるの? 見てた限り好きにしてたみたいだけど。」
「そうだな……。 仕来り等があるわけではないが。 神に対する礼儀位は弁えておけ。」
神から授かったもの、なのだからその神に対する礼儀を捧げると。
まあ納得して、小さく頷いた。
上に上る前に一度軽く礼。
何だっけ、本来は二拝二拍手一拝だっけ?
そこまでする必要性があるかは分からないが、念の為にやってから岩へ手を伸ばす。
飛び出た柄へ手を触れ、しっかり握ると――――。
指先から全身を駆け巡るような、静電気のような何かが走った。
「!?」
ぱっと手を離しそうになったが、なんだか張り付くようにして動かなかった。
今のは……静電気、にしては色々とおかしい。
日本刀で、柄と手が触れただけで発生するようなものでもないのに。
「どうかしたか?」
「ああ……うん、何でも無い。」
俺の動きが気になったのか、祖父ちゃんからの問い掛け。
原因も何も分かっていないから、心配させる事もないと黙っておくことにした。
改めて、両手の中の刀へと意識を向ける。
……実際握るのも初めてな訳だが、こういう感触なのか。
思ったよりも硬い。
「そんじゃまあ……っと。」
小さく自分に言い聞かせるように呟いた。
どうせイベントと言うか恒例行事、通過儀礼に過ぎないのだし。
柄の……溝、といえば良いのか。
滑り止めのように巻き付けられた糸からは、多数に握られたとは思えないしっかりとした触感が返ってくる。
手を抜くつもりもないが、抜けるとも思えないし。
よ、っと力を込めて上へ引いた。
「……へ?」
「「わっ」」
あれ、おかしいな感触がない。
「……マジでか。」
「…………?」
未だに飲み込めないのだが。
何故こんな感触が軽いんだろう?
いやいやまさか、俺が抜いたか何かした、なんて事ある筈が…………。
視界の先にあるのは岩、に刺さった切っ先。
手の中にあるのは柄、と中程までの刀。
…………。
……………………。
「は?」
一応、折れた先に当ててみる。
うん硬い感触はある、それだけ。
「は、は、は、は、はははははは…………。」
変な声が口から漏れる。
あれ、これ不味くないか?
そう理解したからこそ、変な汗も出てくる。
「わー、笑えるー。 なにこれー、こんな風になるんだすげー。」
誰か、誰かに押し付けることは出来ないか……視界に映ったお前でいいや……!
「ほら廉太郎、お前も持ってみろよー。 すげーぞこんな細工してあるんだもんな!」
「お前俺に押し付けようとしてんだろ!? 此方来んなお前がやったんだろ!? 俺は関係ねえ!」
こういう時だけは勘の鋭いヤツ……でも逃しておけない……!
「いやお前が言ったんじゃねーか固くて横に動かそうが大丈夫だって! それを信じたんだぞ!?」
「確かに言ったわ! でもマジで折るか!? 実際にやるやつがいるか!?」
「それこそ知らねーよなんとかしろよ!」
「やったのお前だろうが!」
「やったも何も力込めてねえよ横に! 普通に上に引っ張っただけだぞ!?」
「言い分も理由も知らんが、その手にあるのが現実だ。 諦めろ。」
他人事みたいな顔しやがって……!
手の中にある明らかに軽いそれは、否が応にも事実を訴えかけてくる。
なんとしてでも此奴を巻き込んで責任を等分してやる……!
「あー……そういやそろそろ晩飯の時間かー。 だよなー、小春ー。」
「あ、そうだねー。 早く帰らないと迷惑かけちゃうもんねー。」
「私もそろそろ戻らなきゃー。 お仕事の途中だったし……。」
「全員置いていくのやめて!?」
自分は関係ないと言うか、巻き込まれたくないと言うか。
そんな意識全開で遠ざかっていく三人に声を飛ばすけれど。
「……ふむ。」
「ひぃっ!?」
祖父ちゃんが明らかに真顔で詰め寄ってくる姿に怯えて。
その隙に、と逃げられてしまった。
「少しそこで待っていろ。 良いな。」
「は、はいっ!」
そんな言葉だけを残して、祖父ちゃんも何処かへ去っていき。
「…………どうすりゃいいんだよ。」
ぽつり、と俺一人残されてしまった。