<Chapter2-6-4>
「初めまして、レナ・リヒテナウアーです。 子供の頃から日本に憧れていて、来れるのを楽しみにしていました。」
金髪の制服の少女が教壇の前で挨拶をする。
教室内がざわめくのを何処か他人事のように感じつつ。
ほんの少し前に自分が経験した、自己紹介という一種の儀式を眺めている。
「いたらぬところも多々ありましょうが、宜しくお願い致します!」
パチパチと、以前のものよりは強めに叩かれ響く拍手の音。
……露骨過ぎないか?と思わないでもない、特に多い男性陣側の音。
まあ気持ちは分かるけど。
明らかに布が張って見える制服の一部分、外部からやってきた留学生。
素直な感情で言ってしまうなら、可愛らしい転校生だし。
「……。」
そんな周囲を見て何を思ってるのかは知らんが。
後ろから見ていて不機嫌そうに机を指で叩いている奴に声を掛ける。
拍手に紛れ、聞こえるかどうかは曖昧だったが。
「……廉太郎、おい。」
「……ん、ああ。」
上の空のような生返事。
だからこそ、もう一度強めに言っておく。
「何考えてるか詳しくは分からんが、後ろから見て分かるレベルだからな?」
「……悪い。」
「まあ、気持ちは分からんでもないが……。」
所々で飛び交う質問。
それに対して全て休憩時間にして下さい、の一言でぶった切る中条先生。
周囲に顔を振り、そして俺や茉子ちゃん……廉太郎を見つけて、少しだけ笑みが強くなった気がする。
誰も知らない筈の空間で。
見知った相手を見つけたからか。
(……ただ、なぁ。)
目の前の奴のことを考えるとなんとも言えない。
小さく手を振って返事とし。
思考に少しだけ埋没する寸前に。
(――――?)
ふと。
教室を見回す。
(……あれ?)
何となく、此処最近ムラサメちゃんからの霊力を受け取っている時に察する。
そんな嫌な空気を教室中から感じる。
言ってしまえば
或いは呪いの元凶。
以前俺自身にも宿った事もある、そんな漂う悪意。
「昨日まではこんなん感じ無かったぞ……。」
昨日までどころか、今朝方……通学した頃には感じなかった事実。
ボソリ、と呟く言葉は席の関係もあって聞こえなかったと思いたい。
廉太郎も、目前の彼女に気を取られ続けている様子で気もそぞろで。
芳乃ちゃんへ目線を向ければ、顔を若干顰めつつ。
けれども頭部に生えない犬耳から、
(実際、今までの経験……というよりは口伝やら対処から成立したのが今の対応だろ?)
普段は巫女姫、神社が祟りを祓う儀式を行うことで根本の量を減らし。
生物のように形が出来上がってしまった、祓い切れなかった祟り神を直接散らすことで被害を減らす。
恐らくそれをずっと繰り返すことで、『一定の担保』は保たれているはずだ。
ただ、根本的には対応しきれていないのは俺がずっと経験して。
そして見てきたものからはっきりしている。
……それに、安晴さんの吐露した感情からもそれは明白。
(つまり、叢雨丸の担い手……つまり俺が出てからが明らかに
それは、明確なほどの変化なのだろう。
相手が焦っているのか。
それとも、押し潰してしまえば片が付くと思っているのか。
何にしても、俺自身に被害を与えるという行動と。
そして、彼女――――レナさんがこうして顔を出した途端に起こった変化。
二つの類似点を結びつけるなというのも無理だと思うんだが。
(
同じ言葉を、別の意味で繰り返す。
それ自体が何かの罠のような――――そんな違和感が頭の片隅に残っている。
芳乃ちゃんの反応からして、周囲に漂っているのは間違いないようなんだけど。
「欲しい時に欲しい物が手に入る訳ねえんだからなぁ……。」
「あん? なんか言ったか?」
「何でもねえ、独り言。」
今の一言は聞こえていたようでごまかしながら。
後で二人に相談しよう、と心に決めた。
熱気のような、湿気のような。
今までになかったような空気が、教室内を満たしていた。
そんな空気に、顔を顰めたのは。
後で知ったことだが、五人程だったらしい。