<Chapter2-6-8>
『成程のぉ……。』
俺の目の前には、腕を組んだ状態で少し浮いたムラサメちゃん。
「どういうことなんだ?」
念の為に少しだけ時間を空けて帰った俺達。
先に戻った俺は、自室として与えられている部屋で……ムラサメちゃんに問い掛けていた。
芳乃ちゃんは安晴さんに相談と普段の儀式――――禍津払い。
茉子ちゃんは一度家に帰り諸々の準備を整えてくるらしい。
『全てにおいて、ではあるが。 吾輩にもハッキリしたことは分からん。』
「ムラサメちゃんにも、か……。」
だが、返ってきた返事はある意味予想していた――――”原因不明”のもので。
少しだけ期待外れではあったものの、そう思うこと自体が傲慢だと自分を戒めた。
『ただ、幾つか思い当たらんでもない事はあるぞ。』
「あるの?」
『可能性の話じゃがな。 何より、お主の前例が少なからず思い当たらん以上。 何を言っても可能性に過ぎんわ。』
……確かに。
相方がその辺りを指摘してくれて本当に助かる。
見た目は小さいのに。
『……何やらイラッとする目線を感じた気がするがまあ良い。』
「で、可能性?」
『ああ、そうじゃな……先ずはご主人の身に起こったことから行こうかの。』
「何で見えるようになったか、か。」
実際見える/感じるというのは利点のほうが大きいものの、欠点も帯びている。
俺はチャンネルが噛み合うと認識しているが、そういった空気やら変化を常に捉えられるようになってしまえば。
向こうから見られる可能性を常に警戒しなければいけなくなるし、それには相応の訓練も必要になる。
或いは……霊力を自分で扱えるようになるか、か。
『恐らくはご主人の言っていた吾輩との繋がり、つまり霊力が大きな切掛だとは思う。』
「
その言葉が示すのは。
大きな踏み台、ボタン。 或いは最後の一歩としての言葉。
『色々と想定は出来るが……一度ご主人には呪いが宿ったことがあったな。』
「ああ……やっぱりそれか?」
『恐らくは。 その差異を肌と魂が感じているせいで過敏になっているのじゃろう。』
このままなのか、一時的なのかは何とも言えないとのこと。
……何となく、ずっとになる気がする。
叢雨丸を握っている期間が未だ分からない――――祓い切れるまでの先が読み切れない今は。
『次。 教室に漂っていた空気、瘴気だったか。』
「ああ。」
『それに関しては……そうじゃな。 欲望、色欲、或いは軽度の嫉妬。 その辺りか?』
「……え? それが瘴気?」
んむぅ、と目線を上に上げて。
少しだけ顔を赤く染めたムラサメちゃんが口にしたのはそんな人の感情。
確かに澱んだ空気になりやすい、引き込みやすいとは見かけるものだけど。
『恐らくはだがな。』
「いやいやいやいや……。」
『転校生。 外部からの刺激。 内部での関係性を壊すもの。 ひと目見ての感情を抑えられるものか?』
表面には出さないとしても、火種は起こるじゃろう?
正の感情でも、負の感情としても。
ただ、ひたすらに言葉を紡ぐ。
『実際、吾輩に無理なんじゃからご主人にも、それこそ唯の学生でも無理だと思うがの。』
そんな軽い言葉には、どこか重い……ベッタリとした感情が隠れている。
そんな事を、不意に思った。
『まあ話を聞く限りではその辺り……ただ、其処まで拡大する理由にはならんがの。』
「やっぱり?」
『恐らく
だからこそ、色々とおかしい。
その部分には共有出来る。
『まあ細かいところは後で二人も交えて話すとしよう。』
「了解。 で、最後の……黒い光に関してなんだけど。」
『……悪いが、それに関しては何も分からぬな。』
そうだよな。
他の内容に関してはある程度の推測が立てられているんだし。
残った一つは謎、という形になってしまうのは最初の宣言通りに納得がいく。
『そもそも、芳乃は直系の……言い換えてしまうのなら穂織に現存する人としては最も祓う力が強い筈なんじゃ。』
「俺は?」
『ご主人は例外じゃ。 吾輩と叢雨丸、それらがあってこそじゃろうが。』
それもそっか。
『その巫女姫の身近で起きた何か――――のう。』
「少なくとも……今までより進んでるのは間違いないよな?」
『うむ。 それは間違いない。』
ただ、謎が増えていく一方じゃがな。
そう言い切って、口を閉じるムラサメちゃん。
……俺が知らないこと。
俺に対して口を閉ざしていること。
俺だけが理解できることなんてあるとは思えないが。
少なくとも、力になることだけは出来る。
そんな折、小さい床の軋む音。
「将臣くん、茉子も戻ってきました。 少し大丈夫ですか?」
扉越しに、芳乃ちゃんの声。
『終わったみたいじゃの。』
「だな。 分かった、今行く。」
腰を持ち上げ。
二人頷き。
障子戸へと、歩いていった。