恋心、想花の如く。   作:氷桜

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山の中。他に誰もいないはずの場所。


<Chapter2-6-9>

 

<Chapter2-6-9>

 

さくり、と腐葉土が沈み込む。

速度と、吸い込む深度と声色と。

それぞれが違う三つの呼吸が、木々の間に響いている。

 

「……どうですか?」

 

そんな中で掛けられた声。

 

「……気配、無いな。」

『そうじゃな、少なくともこの近辺には見当たらぬ。』

 

集中しても、相方にも聞こえていた声からも。

普段の――――祟り神の気配は全く感じず、けれど警戒したまま進んでいる。

 

「…………。」

 

そんな中で、最も集中して。

そして普段よりも険しい顔で進んでいるのは芳乃ちゃんだろう。

 

”耳”という分かり易いセンサーが発動せずに、けれど周囲に影響を与えうる瘴気の存在。

今までの経験から変異し始めているそれらに対応しようと、肩に力が入っているのが分かってしまう。

ただ、それに声を掛けて注意しても……今は逆効果なんだろう、とも分かってしまうから指摘することは出来ない。

全員多かれ少なかれ、必要以上に警戒を続けているのは分かっていることだから。

 

「どうします? 芳乃様。」

「……念の為、もう一周見て回りましょう。 それで何もなければ。」

「日常で暫く警戒……とみづはさんへの返答待ち?」

 

コクリ、と小さく頷いた。

どうにも今日は本職の関係……病人が多かったことから此方の質問への満足行く回答は貰えていなかった。

ただ、俺達の知らない視点からの知識を蓄えている人といえば彼女になる。

だからこそ、満足行く答え……或いは方向性が得られれば良いとそう思いつつも。

 

「ただ……疑問なんだけど。 芳乃ちゃん。」

「はい?」

 

普段彼女が見ている……感じている事柄を先に確認しておくことにした。

夜闇の中、ただ歩くのに思ったよりも精神力を削られている事も影響して。

 

「その……耳? 以外で祟り神関係、呪い関係で感じてる事柄ってどんなのがあった?」

「それは……()()()、ということでいいんでしょうか?」

「勿論。」

 

からん。

 

山道沿いに転がる小石を蹴飛ばし。

不定期的に見えてしまう、周囲を覆う霧のような……もっと粘着質な細かい粒子のような浮遊物体。

瘴気のような、けれど教室で見かけたものとは何かが違う様子の物体越しに闇夜を見ながら。

そうですね、と一言切り出して。

 

「少なくとも私が見る場合は神社周辺の裏山、それか夜の時間帯だけでした。」

「今までも……?」

「そう……ですね。 茉子と二人でこうして動き出してからも、街中で昼間に影響を及ぼす事は見たことがありません。」

 

毎日のお祓い、呪いの物理的排除。

根本的対策になっているかは分からなくても、其の場凌ぎにはなり続けていたのだと思うと彼女は言う。

茉子ちゃんに目を向けても、小さく頷いていることからも影響は然程無かったと考えていいと思う。

と、なると……。

 

「やっぱり本格的に何かが起こり始めたのは今年に入って、俺が来てから?」

「そう……ですね。 一年を通して出没する季節に山があったりはしましたが。」

「例えば?」

「長期連休――――もう少し言うなら観光客が増える時期に応じて、ですね。」

 

だからこそ今の状態が余計に異様……でもないのか?

外部からの客足。

()()()

接点の拡大、一人ひとりが持ち込んだ量と一人が起因になって増えた量。

その性質の違い、とか?

 

『答えは恐らく永遠に出ないと思うぞ。 現状なら特にな。』

「……そう、だな。」

『だろう?』

「推測に推測を重ねてるだけで何かが分かるならとっくに解決してる、か。」

『それに、この空気の中じゃ。 祟り神のように密集しているなら兎も角、それ以外となるとな。』

 

首を横に振る。

……周囲の空気は変わらない。

目の前に映る景色も、新たに何かが現れるということもない。

秘匿性――――センサー(みみ)に反応しない存在が現れるなんてこともなく。

 

「……ムラサメ様。 どうですか?」

『……変わらんな。 少なくとも祟り神は現れていないようだ。』

「いないみたい。」

 

ある程度まで行ったところで足を止め。

周囲を確認している芳乃ちゃんの横で声を掛ける茉子ちゃん。

声が聞こえていないのか、首を傾げる彼女に代わりに伝え。

 

「一度昼間に調べても良いのかな……。」

 

夜に調べて駄目だった。

だから代わりに。

単純な思考から生まれたそんな言葉を瘴気(よる)の中に放った。

返る言葉も、無いままに。

 

「――――サヌ。」

「    こそが――――。」

 

ふと。

瘴気の中から。

何かが聞こえたような――――。

そんな、気もしながらに。

 

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