恋心、想花の如く。   作:氷桜

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後半部分開始?


<Chapter2-6-11>

 

<Chapter2-6-11>

 

数日の時間が過ぎた。

祓った教室の空気はそれ以上澱むことも消えることもなく、その量を一定に保ち。

見えているからこそ不安になる、という事実を俺達へずっと突きつけていた。

――――そんな放課後のことだ。

 

「……みづはさん、漸く時間が作れたって?」

「はい。 色々と書類をひっくり返したりもあったようで。」

 

普段の鍛錬――――剣の修業をまた一日休みつつ。

後で模擬刀でも振らないとな、と思いながらも()()で向かうは診療所。

既に時間帯は夕方から夜へと移り変わり始めていて。

人目を気にしながらの歩みは、普段よりも少しばかり重い。

 

特に、表面上向かう理由を”俺の訓練中の怪我”としているだけに。

それを重く見た二人が態々気を使って案内している、という理由付けを一応している。

……それだけ、本来なら『巫女姫様が男と歩いている、親しげにしている』というのは考えにくいわけだ。

田宮と大平(ふたり)から聞く限りじゃ、本来は学生結婚だってしてもおかしくはない立場らしいし。

()()()()、という言葉に。 少しだけ、心が揺れたような気がしたのを覚えている。

 

「急な話でしたからね~……。」

「今までと違う事柄だしね。」

「……私も、もう少し古文書とかに目を通そうかな。」

 

そういえば診療所自体に、正確には中に入るのは初めてだ。

住居部分と一体化しているというのは耳にはしていたが。

()()()、と名乗っていたのだしそういう関係の文書とかあるんだろうか。

少しだけどんな物なのか気になってしまう。

……読めるかは分からないけど。

 

「え、神社にもあるの?」

「ありますよ。 と言っても普段は入らない古倉庫……神社の裏の建物があるじゃないですか。」

 

神社の裏側。

……住宅側、って意味じゃないとするならあの日陰になってる辺りのかな。

 

「あの中?」

「ですね。 年に一度、掃除に入るくらいでしょうか?」

「やっぱり長く続いてる家系には色々あるんだね……。」

『それだけ長く穂織が存続している、という証じゃからのう。』

 

そういう場所に当然のように入り、手伝っている茉子ちゃん。

忍者、従者というよりは家族――――に近い立場にいるのは間違いない。

一番近い存在、と言い換えても良いのかも。

 

「御神体なんて、私も……いえ、ご先祖様も見たこと無い筈ですからね。」

「神社の?」

「はい。 そういう……謂わば”聖域”みたいな場所も幾つかあるんです。」

 

神社本殿側は殆ど立ち入ったこともないから知らなかった。

いや、意識も向かなかった……か?

実際何が御神体で、何を祀っているのか。

深く興味でもなければ流し見てそれで終わり……なんてのも当たり前だもんな。

 

「確かに入ろうと思って入る場所でもないしなぁ。」

「結界……祟り神から身を守る防壁の()()とだけは聞いてるみたいなんですが。」

 

ただ、下手に触れればそれが解けてしまう恐れもある。

故にこの長い間祈りを捧げている意味もある、と。

 

『そうじゃなぁ。 吾輩が知る限りでは芳乃は良くやっていると思うぞ。』

「それはうん。 間違いないね。」

「そうでしょうか……?」

 

首を傾げる当人が一番気付いていない、と言うのはままあることかもしれない。

自分のことは自分が一番分かっていない、なんてのは良くあることだし。

多分俺自身にも言えることだから。

 

「そういえば、常陸さんの家にはないの?」

「何がですか?」

「いや、ほら。 なんていうか……今言ったような古文書みたいなの。」

 

ああ、と口から漏れた気がしたのは気の所為だったのか。

一瞬だけ影が差したような、そうでもないような。

 

「どうでしょう。 余り広い家でもないですし……少なくともワタシは見たことないですね。」

「そっか。」

『ご主人の家はどうなんじゃ?』

 

……そういえば、茉子ちゃんの家ってどの辺りなんだ?

そう問い掛けようとして、ムラサメちゃんの言葉で質問が途切れる。

 

「実家って意味ならまず無い。 祖父ちゃん絡みなら……どうかな、婆ちゃんが生きてた頃なら管理してたかも。」

 

今でこそ優しさを感じられる祖父ちゃんだけれど。

幼い頃は厳しい面だけを強く感じていて、婆ちゃんに良く頼っていたことを思い出す。

……あの御守も、婆ちゃんがずっと大事にしていたもので。

形見分けとして貰ったのも――――そんな優しさを忘れないように、と思っていた部分もあって。

確か、祖父ちゃんとの出会いと関係してるモノを大事にしてきたとか言ってたか。

 

『そういうものか。』

「そういうもんだよ。 場所がないから捨てて問題になる、なんてよくニュースでやってることだろ?」

『世知辛いのう。』

 

街灯越しに、診療所の辺りが見えてきて。

不思議と全員が押し黙っていた。

緊張、というのとはまた違うナニカ。

()()()()()()()()というのが正しいのかもしれない。

 

こん、こん、と。

入口の戸を、一歩進んで叩く芳乃ちゃん。

 

はい、どうぞ。

そんなくぐもった声が扉の中から聞こえたのは、少しだけ遅れてだった。

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