恋心、想花の如く。   作:氷桜

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そろそろ終わり?


<Chapter2-6-13>

 

<Chapter2-6-13>

 

診療所から外へ出た時には既に星々が煌めく時間帯。

立地が街中というのも相まって、周囲の店は未だに開いてはいるがそろそろ閉める時間帯。

土日でもなければ、或いは酒場でもなければ。

観光客商売である以上、閉店時間は大分早かったと記憶している。

 

「もうこんな時間ですか。」

「思ったより話し込んじゃったものね。」

 

有難うございました、と声を掛けて三人で並ぶ。

周囲へのカバーの為、帰宅するルートは志那都荘を経由した神社行き。

「薬」として受け取った湿布を入れたビニール袋をがさりと揺らし。

空の暗さと店の明かりから、今の大体の時間帯を把握した二人の声が耳に届いた。

 

『何とも言いにくい時間帯じゃなぁ。』

「そう?」

「いつもでしたら夕ご飯の準備をしている時間帯ですからね~。」

「そろそろ終わってる時間じゃない?」

 

雑談をしつつ、殆ど見ないとは言え人々を見ては声を掛け。

溶け込む、というよりは文字通りの”象徴”として歩く姿を後ろから眺めるようにして付いていく。

……時代が違えばお姫様だもんなぁ、芳乃ちゃん。

いや、今でも扱いはそんなものか――――家系の全て(ふるいのろい)を引き継ぐ当主であり姫。

 

『ご主人?』

「ん、ああ……。」

 

余計なことを考えてしまうようになってしまったのも此処にやってきてから、そんな気がする。

ムラサメちゃんからの言葉に意識を浮上させ、前の二人を改めて視界に捉えると同時。

 

「…………んっ。」

 

聞き慣れた声で、聞き慣れない声色。

少し震えるような言葉が目の前の少女……芳乃ちゃんから漏れ聞こえた気がする。

 

「……え?」

『……芳乃も苦労する。』

 

その言葉が聞こえるとほぼ同時。

彼女の肩を抱えるようにして裏路地の方へと駆けていく茉子ちゃん。

慌てて付いていく俺と、細い目で見つめつつも同速度で付いてくるムラサメちゃん。

そんな四人で走りつつも、良く見れば。

彼女の全身が小さく揺れ、口元を片手で抑えていた。

 

「え、茉子ちゃん?」

「しっ……人は居ませんね。 なら、下手に動くよりは此処で待ったほうが良いですか。」

「……そう、ね。 茉子、に将臣くん、も。 ごめん、なさ、い……。」

 

問い掛けを黙らせるようにして、周囲に誰も居ないのを改めて確認している。

そして少しだけ此処に留まることを選択し、それを了承する芳乃ちゃん。

ごめんなさい、と呟きながら。

何かを耐えるように、震えながらも漏れる声は何処か甲高く。

夜道に聞こえていい内容ではないことは明白で。

 

その反応に遅れて、俺と茉子ちゃんが何かを話しているような立ち位置で芳乃ちゃんを周囲の目から隠し。

 

『ご主人。 ()()()()()()()()()()()()()じゃよ。』

「……ひょっとして、そういう事?」

 

見て気付け、と言わんばかりの口調で伝えられた内容。

……其処から浮かんだのは、彼女の系譜に引き継がれた呪詛の影響。

 

はっ、は、ん、~~~~っ!

 

内部から湧き出るものを抑えるように。

両腕で身体全体を抱き締めるようにしながら、口から言葉を漏らし。

一度大きく震えて、頭部に幾度か見た獣の――――人に存在しない耳が二つ顕れる。

 

「大丈、夫?」

「……っ、はい。 もう、慣れました、から。」

 

身体の震えを継続しながら。

伸ばした手を掴まれて、立ち上がりつつも何処かふらついている彼女を慌てて支える。

男の身とは違う柔らかさと小ささと、その両肩に背負う重みの明らかな違和感。

 

「……これが毎回?」

「……です、ね。」

『じゃから茉子が必要、という側面はあるの。 だが……。』

 

今までもこれが繰り返されていたとすれば。

落ち着くまでにどれだけの時間がかかり、どれだけの負担を負ってきたのか。

幼い頃から――――いや、引き継いでからずっと。

 

だが、と口を噤んだ内容の確認を後にして。

温もりを若干惜しいと思いつつも、荒い息を繰り返す彼女を茉子ちゃんに任せる。

 

「耳が出た……ってことはそういうことだよな?」

『じゃの。 若干作為的ですらある。』

「タイミングが、な……。」

 

呪詛の話をした帰りの祟り神の出現。

昼間、学校で起こっている瘴気の存在。

それらを合わせて考えると、意思の存在……もう少し踏み込んで言うなら、精神的に摩耗させようとでもするかのような行動。

バカバカしい、と一笑に付すには諸々が噛み合いすぎている。

 

(何にしろ、今日いきなり討伐に出るってのは無理だ。)

 

体調、状況、そして準備。

それら全てが成立しておらず、出られるとして俺くらいか。

そして、それを彼女達は認めようとはしないだろう。

だからこそが、もどかしい。

 

『……ご主人。 芳乃に霊力を少し受け渡せば恐らく楽になるはずだ。 言う通りにしてくれるか?』

「ああ、分かった。」

 

未だ、何も出来ない自分が。

彼女達のために何も出来ない自分が、何とも――――ちっぽけに感じていた。

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