恋心、想花の如く。   作:氷桜

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芳野様召喚の儀式(第一段階)。

*誤字報告ありがとうございました、素で気付いてなかったわ……。


<Chapter1-1-9>

<Chapter1-1-9>

 

「騒がしいな。 何を一人で騒いでいるのだ。」

 

我に返ったのはそんな声が聞こえてから。

気付けば祖父ちゃんが戻ってきていた。

後ろに……後二人程いるのは分かった。

 

「じ、祖父ちゃん!」

「……? 他に誰かがいるわけではないのか? お前一人か?」

「……。」

 

祖父ちゃんが真面目な顔で問い掛けてくる。

本当に、見えないんだな。

今俺と祖父ちゃんの間に立って(?)いるのに。

 

「ほれ、吾輩の言った通りであろう? にもかかわらず、ご主人は……。」

 

何かを考え込むように、少し横に移動して目線を伏せた。

祖父ちゃんがドッキリみたいなことに付き合うとは思えないから……やはり事実。

となれば、俺が触れたのは本当にイレギュラー。

担い手だから、という言葉だけで片付けられない異常……。

 

「将臣?」

「あ……うん、ごめんなさい。 何でも無いです。」

 

訝しげな表情を浮かべ、更に問い掛けられる。

見えていないし、先程までの事態を把握していないならこうもなるだろう。

改めて機会があったら説明させてもらおう。

 

「それで、あの。 俺が折ってしまった刀に関してなんですけど……。」

「ああ、その事か。 その前に……む?」

 

祖父ちゃんが目を見開いたのは()()()()()()()()刀。

先程まで中程までが刺さっていたのを知っているし、当然のように驚くだろう。

実際見ていても若干半信半疑なのだし。

多分飲み込めていないだけとは言っても。

 

「これは、どうした?」

「ああ……何と説明していいかな。 刀の精霊が元に戻してくれた……んだけど。」

 

完全なる事実。

その精霊が胸をぺたぺたと触っていることからは目を逸らす。

 

「それはムラサメ様のことか?」

「知ってるの?」

「当然だ。 見える方から話だけは聞いておるが……儂には見えん。」

 

見えなくてよかった、と思ってしまったのは反省しないと。

そうしたらさっきの奇行に関しても説明する必要があるから、説教は確実だっただろうし。

 

「でも、本当にいるんだ……見える人。」

「例外はあると説明したであろうに。」

「今の時代にいるかなんて聞いてなかったから。」

 

時代に一人だけとか、存在しないとか。

或いは血筋によっては、とか色々考えられるけど。

 

「ムラサメ様と話しているのか?」

「ああ、そうです。 今は其処に。」

 

場所を指差せば、小さく首肯した。

分かっていたことを再度理解するように。

 

「成程な。 それでだ、将臣。」

「はい。」

「叢雨丸の事だが……担い手になった以上、お前には責任を取って貰うこととなった。」

「責、任……。」

 

分かっていたことだが、言葉の圧力が凄い。

俺の一生これで終わりか……。

 

「お前をウチで預かることは出来なくなった。 手伝い、という話も一旦白紙にさせて貰う。」

「……はい。」

「刑罰的な責任ではないから其処は安心しておけ。」

 

微かな震えなどで察したのか、祖父ちゃんの声は何処か優しかった。

 

「で、だ。 お前に紹介したい方がいる。」

「紹介? 責任の話で?」

「そうだ。」

 

背後、やや影になっているところから現れたのは神主姿をした男性。

名前を言われる前に何をしている人なのかは察しが付いた。

 

「初めまして、有地将臣君。 僕は朝武安晴(ともたけやすはる)、建実神社の神主をしています。」

「有地将臣です。 この度はご迷惑をお掛けして……。」

「ああいや、それは構わない。 謝られるようなことじゃないし、ある意味では待ち望んでいた事だからね。」

「?」

 

待ち望んでいた?

担い手を、か?

 

「気軽に安晴と呼んでくれていいよ。 代わりに将臣君、と呼ばせて貰うけどいいかな?」

「それは……はい、勿論。」

「さて。 これから将臣君には迷惑を掛けてしまうと思う。 先に謝らせて貰うよ。」

 

そこで頭を下げる神主さん……安晴さんを慌てて止める。

迷惑を掛けたのは明らかに此方だという負い目があったから。

 

「それで、俺は一体何をすれば……?」

「それなんだけどね、将臣君。」

「はい。」

「芳乃、此方に。」

 

そう声を掛けたのは、光の加減で唯一見えなかった一人。

 

「あ……。」

 

昼間、舞を舞っていた巫女姫様。

薄ぼんやりとした明かりの下だからこそ、その髪色はよく映えるようにも見える。

既視感が、更に増した――――彼女と出会ったのも。

夕暮れ時の事、故に。

 

「初めまして、朝武芳乃(ともたけよしの)です。」

 

ただ、その冷えた声は何処か違うようで。

ただ、聞き覚えがあるようで。

そんな有り得ない2つの事象が俺の脳内を同時に巡っていた。

 

「初めまして、有地将臣です。」

 

何しろ、あの子は……あの時、確かに笑っていたはずなのだ。

何かを抱えながらも、それを超える……そんな風に言っていた筈なのだから。

 

「あの……失礼ですが。 叢雨丸を抜いたというのは本当ですか?」

「あ、うん。 抜いた……でいいのかなぁ。 折ったんだけど。」

「折った……? え、神刀である叢雨丸を?」

「それをムラサメちゃんに直してもらって、其処にある状態。」

 

指で指したのは、鞘がないから抜身で置いておくしか無かった叢雨丸。

何かあったら危険だから、とムラサメちゃんが移動していた。

 

「ちゃん……。」

 

その呼び名に目をパチクリしていたが、咳を一つ。

あらぬ方向を向いて。

 

「……本当なんですか、ムラサメ様。」

 

ただ、それは他の人にしてみれば。

俺からすればムラサメちゃんがいる方を見て問い掛けている、とはっきり分かる光景。

 

「ん、ああ本当だ。 其処のが吾輩のご主人だな。」

「其処の。」

「……朝武さんも、ムラサメちゃんが見えるの? 話聞こえてるみたいだし。」

「ああ、芳乃も先程の例外の一人だ。 叢雨丸に選ばれたわけではないがの。」

 

成程、だからこそ極自然に対応するわけだ。

 

「それって、巫女さんだから? 安晴さんも、ひょっとして――――。」

「いや、僕には見えないよ。 入婿だから……直系なら別なんだけどね。」

「お父さん!」

「……芳乃。」

()()()()()()()()()()()()。 余計なことは言わなくていいんです!」

 

その言葉から感じたのは、強迫観念とでも言えば良いのか。

そうしなければいけない、というような焦りにも似た感情。

 

「……我が娘ながら強情だね。」

「育て方を間違えたのかの?」

「ムラサメ様!」

 

ムラサメちゃんも肩を竦めている。

……ところで。

 

「一体何の話ですか?」

「有地さんには関係のない話ですから気にしないでください。」

 

一刀両断。

 

「で、改めて。 此方が僕の娘の朝武芳乃。 此方が叢雨丸を抜いた有地将臣君。」

「宜しくお願いします。」

「此方こそ宜しくお願いします。」

 

さて、互いに紹介された挨拶を交わし。

祖父ちゃんが紹介したい人というのは、この二人だろうか。

 

「で、ここからが本題。 叢雨丸を抜いてしまった以上、将臣君をこのまま帰すわけには行かないんだ。」

「……。」

「芳乃も、それは理解しているね。」

「はい。」

 

何か言いたげな朝武さん。

だが横から口を挟むのもタイミングが悪い。

 

「将臣君も、責任は取ってくれるんだよね?」

「俺に出来ることでしたら。」

「うん、理解が得られて嬉しい。 では、その責任として――――。」

 

一拍。

 

()()()()()()()。」

 

…………。

 

「誰とですか?」

「僕の娘と。」

 

…………。

安晴さんの娘?

 

「お父さんの、娘?」

「そう。」

 

…………。

今の紹介を考えて。

安晴さんの娘、つまり――――。

目があった、彼女と。

異口同音に、言葉を発した。

 

「「けっこんんんんんんんんんんん!?」」

 

そんな声が、夕暮れを超えた夜闇の神社に響いた。

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