<Chapter2-7-4>
「……。」
朝方の雨と、既に太陽を見せて残った水溜りが光を反射する中散歩に出かけた。
ぱしゃり、ぱしゃり。
薄く残った水が、靴に跳ねては周囲に散っていく。
(何やってんだ……というか何言ってんだ俺は。)
ほんの少し前に口にして、互いに奇妙な状態に陥った時を思い出して熱を思い出す。
結局、あの時は茉子ちゃんが芳乃ちゃんを探しに来て。
俺達を見て首を捻りつつ、二人で去っていくのを見送るまでそこで立ち尽くしていて。
『ま~た考え事かの?』
「……うっせ。」
時間があるのかどうなのか、散歩に出ると告げれば付いてくると言ってきたので二人並んで。
「しっかし。」
出来る限り小さく、独り言に聞こえる範囲で呟く。
長期連休以外を今まで見る機会が無かったから、というのは間違いなくあるが。
こうして穂織に住んでみて、廉太郎が言っていた事を実感する。
時期が中途半端だからか、普段よりも観光客は明らかに少ない。
……というよりも、
(稼ぎ時……休みの時期でも人が少なくなってるんだったら結構不味いよなぁ。)
特殊な温泉街、
周囲から半ば孤立していたことから発展した独自文化。
固定客が一定数いるからこそ未だに保たれているのは間違いないんだろうが……。
「って言っても、何も思いつかないんだが。」
『?』
溜息混じりにそんな言葉を口にすれば、当然何も分からないとばかりに首を傾げる。
親しくもない誰かにするには重すぎて。
嘗ての友人相手に問い掛けるにしても、問題なく浮かぶのは精々一人くらい。
……メールだけでもしてみるか。
そう思いながら、道端に寄ってから携帯電話の『た』の行を見ようと――――。
「あれ、お兄ちゃん?」
「ん?」
したところで掛けられたのは聞き覚えのある声。
というよりも日常的に耳にする少女の声。
携帯から目を離し、目線を上に持ち上げれば。
「小春? 何してるんだ?」
「それはこっちの台詞ー、って言って良い?」
時折見る、というか買い物をしたり食べに出たりする田心屋の制服に身を包んだ従姉妹の姿を視界に捉えた。
隣りにいるムラサメちゃんがおおう、とか良く分からない言葉を発している。
「俺は別に……散歩? 朝はランニング出来なかったし、祖父ちゃんも今日は忙しいらしいし。」
「あー、なんだっけ。 駄兄がなんか言ってた気もするけど覚えてないなぁ。」
「相談が上手く行ってれば一日はそれに費やしてた気がするんだがなー。」
せめて思い出してやれよ、と言おうとして無駄だと諦める。
こんなふうに悪ぶっていても意外と仲が良い兄妹なんだし、俺が何か言うことでもないか。
……身体を全く動かさないというのもなんか気分悪いし、帰ったら模擬刀振っておこう。
「相談?」
「此方の話。 それよりお前は?」
「ああ……ちょっと材料切らしちゃって、お姉ちゃんに頼まれて取りに行く所。」
「ふーん。」
成程、現在バイト中と。
だったらそっちに行くべきなんじゃないか、と思わなくもないが当のオーナー様が似たようなこと前やったからな。
否定のしようもないか、とか浮かびつつ。
なんとなしに二人で並んで歩き出す……恐らくこの方向なら八百屋っぽい。
ムラサメちゃんは俺の後ろをふよふよと漂うように付いてくる。
「ねえ、お兄ちゃん。」
「ん?」
「そういえばちょっと聞いてみたかったことあるんだけど……。」
「答えにくい質問以外なら別にいいぞ。」
小春と二人、というのも余り無い機会ではあるんだが。
だからといって話す内容があるわけでもなく、普段の……それこそ学校の登下校で偶然出会った時くらいの感覚が続いている。
別に距離があっても困るような関係性ではないから、でいいのか。
そんな移動中、思い付いた……というか他に聞ける相手がいなさそうな口調での雑談。
「その……お祖父ちゃんのところに新しい見習いさん雇ったって話。」
「あー……レナさん?」
「そう、その人。 直接話す機会があんまりないから聞きたいんだけど。」
「って言ってもなぁ。 んで?」
そんな親しいわけでもなく、距離があるわけでもなく。
クラスメイトよりはちょっと近い、『友人』くらいの距離感だぞ?
そんな風に思いつつ、先を促してみる。
「いやさ、
「ああいい、それ以上は言わなくてもいい。」
「え、伝わるの?」
「ちょっとだけ祖父ちゃんに聞いてる。」
と思えばそういう話かよ。
傍目から、というか家族だからなのかバレバレなのどうなんだ。
深く追求しないでやる優しさはあるけども。
「……実際、どういう人なの?」
「どう、って小春の目からと俺の目からだと見方違うだろうからなー……。」
俺からすれば立派で真面目な、それでいて少しだけズレている子って印象。
ただ、彼奴の場合は
「まあ、悪い子じゃない。 間違いなく良い子だとは思う。」
「へえ……お兄ちゃんがそういうこという人なんだ。」
「お前はどんだけ俺を高く見積もってるんだよ。」
そんな雑談、そんな戯言。
八百屋の前に到着するまで、そんな話は途切れ途切れに続いていった。