<Chapter2-7-5>
「あれ、まー坊?」
ブラブラと歩くこと暫し。
そろそろお昼少し前に差し掛かろうかという時間帯。
神社に戻る前に何か買っていこうかな、と顔を出した
そう思う一因も、結局往復まで付き合っていた妹分の影響かもしれない。
「久し振りって程でもないけど顔出しに来た。」
「ただいま、お姉ちゃん。 これ取ってきた分。」
『甘味処……ああ、此処か。』
口々にそんな言葉を発しながら、店の中に顔を出す。
聞こえる声は三つ分。
対応される声は二つ分。
「ありがと。 じゃあ奥に持っていってくれるかな? お父さんが待ってるはずだから。」
はーい、と声を挙げながら奥に消えていく小春の後ろ姿を見送り、店内を見回す。
……時間帯が悪いのもあるんだろうがガラガラだなぁ。
「……何、その目線。」
「口に出すと失礼なので言わないでおく。」
「その時点で失礼なんだけど?」
全く、という口調。
周囲に客がいないからこそ出来る
適当な席……前にも一回案内された、角の辺りの複数人向けに再度案内されて。
見下ろし、見上げ。
「ご注文は?」
「持ち帰りで四つお願いしたいんだけど……何かお勧めある?」
お勧めかぁ、なんて呟きながら挙げられる幾つか。
聞きながらに引っ掛かる一つの品目。
……わらび餅か。 それでいいかな。
「四つね。 少し時間掛かると思うけど大丈夫?」
「其処まで急いでもないから。」
はーい、と声を上げつつ奥に注文を伝えに行く芦花姉。
それを見送って携帯を見れば、丁度正午五分ほど前を指していた。
足をぶらぶらさせている緑髪の相棒を視界内に収めつつ、ちょっとだけ苦笑を浮かべた。
(……まあ、俺だけ待たせなくて済むのは気が楽か。)
朝武の家はどうしても普通のお昼の時間帯からズレたりするからなぁ。
実家は普通の時間帯だったから慣れるまでちょっと戸惑ったけど、志那都荘の手伝いの時も似たようなもんだった。
大体今頃から準備し始めるだろうから……後一時間程。
三時のおやつあたりに食べてもらえば丁度いいかな。
(あ、ついでに聞いとこ。)
念の為茉子ちゃんにメールだけ送付……しつつ、先程連絡し忘れたやつにも合わせてメール。
返信が戻るまでにそこそこ掛かるだろうけど、見ないってことだけはないだろうし。
今外にいるのは俺だけだから、帰り際に別の店寄る必要があるならそっち経由でも然程問題はない。
「何、メール?」
「そんなとこ。」
画面から顔を持ち上げれば、トレイを胸元に持った芦花姉の姿。
エプロンや和服と合わせ、奇妙な程に似合っているその姿に。
変わらないなぁという感情を抱く。
「客対応しなくていいの?」
「見れば分かるでしょ? もう少し経てばちらほら増えてくるけど今の時間帯は……特にこの時期だとどうしてもねー。」
そんな事を言いつつ、目前の……ムラサメちゃんが座る席の前に手を掛けようとして。
一瞬引っ掛かるような動作の後、更にその隣。
つまり俺の前の席に腰掛ける。
「聞いてきたけど、一応十分くらい待って欲しいってさ。」
「いや、結構早いね……。」
「普段だったらそろそろ休憩入ってるんだけどね。」
何か思いついたみたいで作ってた、と溜息を漏らす。
……だからこその取りに行ってた、ってわけでもなさそうなのが救いか。
芦花姉がオーナー、っていうか経営に手を出してなかったらどうなってたんだろうなこの店。
「……一応止めなよ?」
「まあうん、原価が嵩み過ぎたら止めるけど……新商品は開発しなきゃだから。」
思い付きから広がることも結構あるし、と苦笑交じりだからまだしも。
おじさんの腕は間違いないんだけど……凝り性っぽいのがなぁ。
うちの両親みたいな半分適当みたいなのとどっちがマシなのかは悩むところだ。
「客商売は大変だねえ。」
「そりゃそうよ。 まあまー坊も大変だろうけど。」
「俺?」
言われる程大変なことなんかあったっけ?
俺はそんな顔をしていたらしい。
「巫女姫様のことでしょ、玄十郎さんとのことでしょ、それに毎朝走ってるって話じゃない。」
「……どれも其処まで大変でもないんだけどなぁ。」
いや、強いて言うなら芳乃ちゃん絡みは別だけど。
他二つは自分から頼んだってのもあるし、趣味ってのもあるし。
大変っていうよりも習慣だし、少しずつ身に付けるのは嫌いじゃない。
「そう思えてるだけ立派よ。 あーあ、あんなにちっちゃかったのに。」
「その言い方年寄りっぽいから辞めたほうが良いと思うけど。」
「は?」
うわ怖。
急に真顔になって睨んでくるのやめてくれ、素直に怖い。
『ご主人、年齢のことを口にしたら戦争って言葉だってあるじゃろうに。』
言い方を指摘した位でこれかよ。
というか君が言うのかねムラサメちゃん。
こういう面もあるから頭が上がらない部分もあるんだよな、芦花姉には。
「まー坊?」
結局。
その真顔で見つめてくる表情に耐えられずに謝りを入れるまでの間。
針の筵を味わっているような気分になってしまった……そんな失敗の昼。