恋心、想花の如く。   作:氷桜

95 / 171
茉子パートが若干少ない気がしないでもない。
もう少し増やそうかな……?


<Chapter2-7-8-Y>

 

<Chapter2-7-8-Y>

 

ぺたりぺたりと畳を歩く音。

戸を開け、閉めて。

たった一人の、自分の部屋で。

そこで漸く、息を大きく吐き切れたような気がします。

 

「…………。」

 

深い深い深呼吸。

既に外は真っ暗で、お風呂に入って残るは寝るだけ。

にも関わらず、妙に眠くはなくて。

今日の幾つかを想起して、二つの意味で息を吐く。

 

(……本当に。)

 

将臣さんが散歩に出掛けて数十分経って。

お父さんに急に呼ばれて、部屋の前まで向かった時に聞こえたのは。

奇妙な言い方になるけれど、以前にも聞いた()()()()()

 

表向きは何処かの地主の家系とか何とか。

母方が神社の血を継いでいて、その縁もあって私を求めたとか何とか。

表面上は、”大人”のように落ち着くような低い声色で。

けれど、その内面を察してしまった時に感じたのは忌避感というか嫌悪感。

 

(……出来れば、もう会いたくもないですね。)

 

自分の息子を紹介する顔。

自分の家系と結ばれることでの()()()()

そういった物を推し出すだけの話を、部屋の片隅で聞きながらも。

内側の、ドロドロとした悪感情が見えてしまって――――顔に出さないようにするのが手一杯。

 

『秋穂の時よりも酷くなっているようだね。』

 

お帰り頂いた後で、お父さんがポツリと呟いた言葉。

お母さんの名前を出すことも珍しく、それについて聞いてみれば。

昔も似たようなことが持ち上がって、けれどそれは直ぐに立ち消えになったのだとか。

 

『将臣くんの事はある程度匂わせているはずなんだがね。 ……僕の力が足りないせいかなぁ。』

 

本殿の中でぽつん、と立つお父さんが小さく見えて。

……その場にいたくなくて、断りを入れて先に離れました。

きっと。 それ以上そこにいれば私は――――。

そんな感情を必死に打ち消しながら。

 

()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()

……結局それは、私の”巫女姫という名前(かたがき)”を求めてやってくる人たちで。

誰一人、私自身を見てくれない――――何ていうのは、子供っぽい愚痴なのでしょうか。

 

そんな気分を抱えながら、廊下を歩いていた時。

 

ぶおん。

 

空気を斬る音が聞こえて。

何かの機械越しに流れるような音が聞こえて。

足元に置かれた携帯電話と、庭に立つ将臣さんを()()()()()()()()

 

『――――。』

 

此方の動きに気付かずに。

身体の流れに乗るように刀を振り、元に戻す姿。

どれだけの長さ振っていたのか。

身体中は汗だくで、身に纏っている服も透けて下の身体を映し出し。

はぁ、と吐き出した言葉に合わせて。

手を叩いて(はくしゅして)しまう程に、綺麗に見えました。

 

(……………………もう何度か、見ているのに。)

 

より深く『見惚れる』ように。

気付けば、彼を見てしまう。

私に、何かをするような権利もないのに。

役割に準じて、呪いから解放されるまで。

 

『もし、呪いから解放されたら?』

 

内側から浮かぶ言葉に首を振る。

幾十年、幾百年続いてきた私の家系に掛かった呪い。

いえ、()()の家系が引き継いできた祟り。

”巫女姫”である私が、終わらせる。

他には、何も――――。

 

「…………。」

 

電気を消して。

布団に潜り。

目を瞑って……普段はしない、そんな事に手を付ける。

 

「…………ん、っ。」

 

久しぶりの。

久しぶりに。

幾度も感情を上塗りした、感情から逃げ出した代償行為。

浮かぶのは、自分に対する嫌悪感で――――。

 

小さな小さな物音が漏れる。

吐き出すことも出来ない、小さな後悔と。

嫉妬感とが入り混じる。

何も為さない、唯の自己満足のその行為。

 

吐き出せなかった言葉と共に、眠れるまで続けてしまった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。