もう少し増やそうかな……?
<Chapter2-7-8-Y>
ぺたりぺたりと畳を歩く音。
戸を開け、閉めて。
たった一人の、自分の部屋で。
そこで漸く、息を大きく吐き切れたような気がします。
「…………。」
深い深い深呼吸。
既に外は真っ暗で、お風呂に入って残るは寝るだけ。
にも関わらず、妙に眠くはなくて。
今日の幾つかを想起して、二つの意味で息を吐く。
(……本当に。)
将臣さんが散歩に出掛けて数十分経って。
お父さんに急に呼ばれて、部屋の前まで向かった時に聞こえたのは。
奇妙な言い方になるけれど、以前にも聞いた
表向きは何処かの地主の家系とか何とか。
母方が神社の血を継いでいて、その縁もあって私を求めたとか何とか。
表面上は、”大人”のように落ち着くような低い声色で。
けれど、その内面を察してしまった時に感じたのは忌避感というか嫌悪感。
(……出来れば、もう会いたくもないですね。)
自分の息子を紹介する顔。
自分の家系と結ばれることでの
そういった物を推し出すだけの話を、部屋の片隅で聞きながらも。
内側の、ドロドロとした悪感情が見えてしまって――――顔に出さないようにするのが手一杯。
『秋穂の時よりも酷くなっているようだね。』
お帰り頂いた後で、お父さんがポツリと呟いた言葉。
お母さんの名前を出すことも珍しく、それについて聞いてみれば。
昔も似たようなことが持ち上がって、けれどそれは直ぐに立ち消えになったのだとか。
『将臣くんの事はある程度匂わせているはずなんだがね。 ……僕の力が足りないせいかなぁ。』
本殿の中でぽつん、と立つお父さんが小さく見えて。
……その場にいたくなくて、断りを入れて先に離れました。
きっと。 それ以上そこにいれば私は――――。
そんな感情を必死に打ち消しながら。
……結局それは、私の”
誰一人、私自身を見てくれない――――何ていうのは、子供っぽい愚痴なのでしょうか。
そんな気分を抱えながら、廊下を歩いていた時。
ぶおん。
空気を斬る音が聞こえて。
何かの機械越しに流れるような音が聞こえて。
足元に置かれた携帯電話と、庭に立つ将臣さんを
『――――。』
此方の動きに気付かずに。
身体の流れに乗るように刀を振り、元に戻す姿。
どれだけの長さ振っていたのか。
身体中は汗だくで、身に纏っている服も透けて下の身体を映し出し。
はぁ、と吐き出した言葉に合わせて。
(……………………もう何度か、見ているのに。)
より深く『見惚れる』ように。
気付けば、彼を見てしまう。
私に、何かをするような権利もないのに。
役割に準じて、呪いから解放されるまで。
『もし、呪いから解放されたら?』
内側から浮かぶ言葉に首を振る。
幾十年、幾百年続いてきた私の家系に掛かった呪い。
いえ、
”巫女姫”である私が、終わらせる。
他には、何も――――。
「…………。」
電気を消して。
布団に潜り。
目を瞑って……普段はしない、そんな事に手を付ける。
「…………ん、っ。」
久しぶりの。
久しぶりに。
幾度も感情を上塗りした、感情から逃げ出した代償行為。
浮かぶのは、自分に対する嫌悪感で――――。
小さな小さな物音が漏れる。
吐き出すことも出来ない、小さな後悔と。
嫉妬感とが入り混じる。
何も為さない、唯の自己満足のその行為。
吐き出せなかった言葉と共に、眠れるまで続けてしまった。