<Chapter3-1-2>
「……良し。」
その日の午後早く。
ぶうん、という機械音が部屋の中に響く。
随分久々に起動することになった自前のパソコンだが、特に異常は無さそうで良かった。
お年玉なんかを崩して手に入れた、文字通りの
『ふぅむ、これが……その、ぱそこん?』
「そうだね。 正式な名前はもう少し長いけど皆呼ばないし。」
ちょこん、と隣に並んで画面を見つめるムラサメちゃん。
充電配線のみが壁沿いのマルチタップに繋がるノートパソコン。
壁紙は……何処で拾ったんだか忘れたけど、今は海の画像になっていた。
『で、これで何するんじゃったっけ?』
「調べ物とか纏め……かなぁ。 実際休みの日くらいしか弄ってる時間無さそうだしさ。」
地元の友人は友人で大学受験の勉強をし始めたとか言ってたっけ。
……ただ、「何をちゃんと学びたいかが見えない」とか愚痴ってたが。
それでも受け入れて好きな大学に行かせてくれる辺りお父さんの懐が広いというか。
「ああ、後こういうのも出来るかな。」
パソコンの画面上のショートカットを開く。
幾つかに纏められたファイルの中の一枚の画像を開けば、映るのは若干ブレながら撮られた何枚かの写真。
祖父ちゃんと婆ちゃんが映る、もう何枚かしか残っていない過去のモノ。
『……おお。 玄十郎達が写っておる。』
「写真は分かるよね? それをこれに取り込んで……まあ取った写真を保管してる、ってだけ。」
万が一壊れた時用に幾つかにコピーもしてある。
無くすのはちょっとどころじゃなくて勘弁。
『で、これがどうかしたのか?』
「携帯でも撮れるし、先ずは穂織の気になるところを色々撮ってみようかなって思うんだよね。」
『此処を……か?』
撮り方の問題とか色々と出てくるとは思うが。
此処の住人と、俺みたいな外部から来た人間とが合わせて客観的に
そんな事をムラサメちゃんに説明すれば、成程と一言。
『じゃが、そのような程度で変わるものかの?』
「変わる……っていうよりは切掛かなぁ。」
『切掛?』
「うん。 種探し、ネタ探しと言っても良いかも。」
少なからず努力をして、変化を受け入れる覚悟をしても現状があるというのなら。
お遊びの要素を含みはするが――――色々と撮って、頭を突き合わせて相談する。
その際の何かになるように、気になったら撮ってみようという思い付き。
特に負担があるわけでもないし、割といい考えなんじゃないかな。
「まあ、大人に訴えかける前に知り合いにも声掛けてになるけど……。」
『先ずは、祟り神の事に目処をつけてからじゃぞ?』
「分かってる。 けど、今の時期から撮れる物は撮っておきたい。」
何しろ次の機会は一年後。
それも同じ景色がまた来るとは限らないのだから、一期一会とはよく言ったものだ。
『それ自体は否定せぬよ。 吾輩だってもっと発展して欲しいというのは本心じゃ。』
「そう言って貰えて良かった。」
一応一人でも同じ考えを共有して貰えた。
……思い付きで突っ走ると大概酷いことになるしな。
『ただ、なぁ……。』
「?」
『穂織の発展、という事象を祟り神がどう捉えるかが未知数なんじゃよ。』
朝武の家系に対して、ではなく……穂織の発展に?
……いや、そういやそうか。
代表のような立ち位置である以上、発展の成否はそのまま朝武家にも影響を与える。
であるから、あまり大きいこと……周囲への相談も出来る限り小さい範囲で抑えないと何があるか分からないのか。
「でも今まではどうだったんだ? 温泉街や観光地として売り出す時も似たようなこと起こってたんじゃないのか?」
『当時は余り吾輩も動けておらぬかったからなぁ。 何かしら記録には残していると思うぞ。』
記録。 本。 文書。
……そういや、昼食時に茉子ちゃんに声掛けられたな。
”古文書についてとか、色々話したいことがありまして。 夕方辺り、時間を頂けますか?”って、真剣な表情で。
場所は……詳しく聞かなかったけど。
「記録…………じゃあ、今度見られたら見てみるか。」
『やることがてんこ盛りじゃな?』
「早く片付けたいけどなー。」
根本的な対策、呪物の発見に至っていないのが大きい気がする。
呪われた物体。
恐らく、
あれだけ顕れるのだからそれなり以上に数が保てるもの。
……山にあって違和感がないもの、ってのも追加かな。
流石に分かり易すぎれば誰かが気付いていただろうし。
「叢雨丸じゃなきゃ分からなかった、とかじゃなければ……。」
『? ご主人?』
「あ、悪い。 独り言。」
今思いつく理由で一番有力なのがそれなんだよな。
呪いの当事者だからこそ散らす事は出来ていたとして。
祓うことは出来ていなかった、と考えれば納得してしまいそうになる。
「まー……今は少し調べ物とかしてみるか。 ムラサメちゃん、何か気になることある?」
『気になること、のう。 そうじゃなー……。』
後数時間後に待つ、茉子ちゃんからの要請。
その内容を深く考えることもなく。
俺は、唯の休日を過ごしていた。