恋心、想花の如く。   作:氷桜

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夜中に、二人、蔵の中。
倒れて、転んで、二人きり。


<Chapter3-1-4>

 

<Chapter3-1-4>

 

ぎぎぃ、と少しだけ軋む音。

内側に入り、人が殆ど入らない場所特有の少しばかり埃臭い内側を見回す。

少し高い位置には、木製で出来た採光窓のようなものが見え。

同時に内側から塞がれたように板で隠された倉庫は、文字通りの意味で封(・)印(・)でもされているようだった。

 

「……凄いなぁ。」

 

ついつい、そんな言葉が口から漏れる。

かちりかちりと灯る電燈は薄暗く、更にそんな気持ちを増大化させるようで。

 

「そういうモノでしょうか?」

「いや、都会に……っていうよりは大体の人が驚くとは思う。」

 

不思議がる、電燈のスイッチを押した茉子ちゃんにそう返せば。

よく分かりません、と言いたげな表情が影に隠れ。

そしてまた翻る。

 

「それで、えーっと……。」

 

古びた、重苦しい書庫のような。

木々で作られた棚に並べられている幾つかの紐で綴じられた本やノート、段ボールに南京錠付きの箱。

ご(・)ち(・)ゃ(・)ご(・)ち(・)ゃ(・)し(・)て(・)い(・)る(・)、というよりは古いものと新しいものが入り混じった空間。

どれが彼女の言う古文書に当たるのか、と思いつつも周囲を見回し。

 

「一応、其処に並んでる本は歴史書……の写本というか、現代語訳みたいな感じらしいです。」

 

指を差す方向を見れば、最初に目についた棚に並んだ本の辺り。

けれど、今口にした言葉がどうにも気になった。

 

「現(・)代(・)語(・)訳(・)?」

 

何でそんなものが。

そう向き直せば、浮かんでいるのは苦笑い。

 

「みづはさんのお父様……先代の方が訳したそうです。 みづはさん自身もお借りして写したようですけど。」

「それを収めた、ってこと?」

「そのようです。 ワタシ自身はお会いしたことがないんですが……。」

 

……いや、みづはさんの年齢まで詳しく知る訳では無いが。

それでも二十代、高くても三十前半くらいだと思う。

其処から考えると若すぎないだろうか……とも思い。

 

「……どうにも、その。 不(・)運(・)が(・)重(・)な(・)っ(・)た(・)ようで。」

 

口籠る内容から、これに関する事だと察する。

それもあって神社に収めた……いやしかし、そうなるとみづはさんはどうなんだ。

彼女もそれ相応の覚悟を持って望んでいると、そういうことか。

 

(みづはさんが呪物に関して調べ始めた……なら、先代の人は何を?」

「過去の記述。 特に……そうですね。 伝(・)承(・)に(・)関(・)し(・)て(・)を深く調べていたそうです。」

 

頭の中でぐるぐると回る疑問。

長年続いてきて、それが解決していないのだから答えが出ないのもまた当然で。

ふと浮かんだ謎に関しても、気になってしまう中。

 

「あれ、口に出してた?」

「はい。 ……将臣さんも独り言言うんですね。」

「そりゃ言うよ。 俺を何だと思ってるんだ。」

 

くすりと笑う彼女に少しばかり口答え。

それをする意味もなく、それをする意義もなく。

ただとっさに放った言葉に、彼女なりの返答を。

 

「男(・)の(・)子(・)、でしょうか?」

「答えになってないし……。」

 

先程までの部屋の中の会話とは全然違う。

或いは、今の彼女が皮を被っているように感じているのと同じ理由なのか。

部屋の中で見せていたのが、心の奥の一欠片なんじゃ――――なんて。

女の子の心を知るわけでもない俺が見通せるはずもなく。

 

「まあいいや……ええっと、一通り借りて大丈夫?」

 

口にしたのは当然、彼女がさっき指を向けていた方向。

薄ぼんやりとしか見えないが、アレ全てがそうでないなら何処から何処まで借りて良いのかを確認する。

 

「えーっとですね……。」

「……あ。」

 

音を立てずにそちらに移動し。

棚を見ようとした彼女の足元。

普通なら気付いていたであろう、段ボールが一つだけ道側にはみ出している。

 

「あぶな……!」

「えっ――――?」

 

以前にもあったような、繰り返し。

本(・)当(・)に(・)ど(・)こ(・)に(・)で(・)も(・)あ(・)る(・)、(・)小(・)さ(・)な(・)事(・)故(・)。

 

彼女の足が引っかかる。

ふらり、と少しだけ体勢を崩して棚へと頭を突っ込ませる。

向かうのは角……重みを持った、物体の端。

間に合うか――――いや、間に合わせる。

 

自分でも不思議ではあるけれど。

言葉と同時に踏み込んで、彼女の浮いた手を掴んで引き寄せる。

反動で俺が前へ、けれど角度は変わって床へと落ちる。

 

どぉん。

 

身体が床に落ち、微かに揺れた。

上のものに当たらなかったのが幸いしたのか、周囲から何かが降り注ぐなんてこともなく。

先に倒れた左腕がじんじんと痛む程度で。

どうにかこうにか軽症で済んだとホッとする。

 

「……大丈夫?」

「ぁ……は、はい。」

 

腕の内側に彼女を抱えている。

その状況に気付いてから、彼女が起き上がるのを待って立とうとする。

けれど、茉子ちゃんはその場から動こうとはせずに。

 

「茉子ちゃん?」

 

そう問い掛けても、彼女は動かない。

……いや、少しだけ違うか。

震えている様子で、動けない。

 

「…………ごめんなさい。」

 

あと、少しだけ。

そんな事を声にならない声で呟き。

震えたまま、俺の服を掴んだままで動かなかった。

 

――――俺自身も。

彼女に、何もしてやれず。

その場で動かないまま。

じりじりと鳴る灯りの音と、二つの吐息と。

震え越しに伝わる小さな鼓動だけが、聞こえていた気がした。

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