トレーナーの指示通りのレース展開は出来るが、レース状況に応じてリアルタイムに作戦を練ったり実行したりは出来ない。正確なスタミナ配分は不可能で掛かった場合は容赦なくスタミナが削られる
程度です。
普段はG1はおろかG2さえ開催されず、他の主要レース場と比較すると閑散としている福島レース場だが
「「「ワァァァァァァ!!!」」」
この日はスタンドを埋めつくし、入りきらない観客が通路まで溢れる大盛況だった。それ故今だかつて無い大歓声が響いている。何故ならば
「さあぶっちぎりの一番人気は8枠16番、超快速の飛ばし屋、ツインターボ!」
あのサイレンススズカに匹敵する大逃げウマ娘、ツインターボが出走するからだ。このレースの為だけに日本全国津々浦々からファンが押し寄せ、普段は空席が目立つ福島レース場のスタンドは観客で溢れていた。トレーナーである翔は最前列に陣取ることに成功したものの
「なんちゅう歓声だ。ここまで人気になってたんだな、ターボは」
その歓声に圧倒されていた。二番人気に大差を着けての一番人気となったツインターボ。本馬場入場で体操服姿でもそのド派手な姿が現れると一際歓声が大きくなる。その歓声はG1レースにも引けを取らないレベルだった。
「さあ今だかつて無い大歓声の中G3競走、七夕賞いよいよ出走です。三番人気はアイルトンシンボリ、二番人気はダイワジェームス、そして言わずと知れた一番人気はツインターボ!さあ各ウマ娘ゲートに入って態勢完了」
ガッチャン!
「スタートしました。各ウマ娘好スタートを切りました。さあまず見所は五人の先行ウマ娘。これがどういった位置取りになるかです。大きな歓声に迎えられるようにしてさあ来ました。まずやはりツインターボが行きます。その内にマイネルヨース、外の方からはユーワビーム、しかしまだ位置は決まっておりません。ツインターボが僅かに先手を切っております。さあ1コーナーから2コーナーに差し掛かるところで塊が縦長になります。ここで順番が決まって参ります。まず先手を取ったのはやはりツインターボです。ターボエンジンを、全開で逃げまくります。このツインターボが先頭です。その後ろに三人固まって、前半の1000mは57秒から8秒、8秒切ったかもしれません。やはりかなり速いペースと言っていいでしょう。その後ろにスタミナ自慢のアイルトンシンボリと続きます。そろそろ3、4コーナーにツインターボが差し掛かりますがかなり飛ばしております。ターボエンジン全開でその差は7、8バ身。このまま逃げきるのか!残り400mを切ってもツインターボは垂れません!外からアイルトンシンボリが上がってくる!懸命に粘るツインターボ!200を切った!しかし!アイルトンシンボリなかなか詰められない!ツインターボは加速こそしていませんが全く垂れません!むしろ!ツインターボ以外のウマ娘が垂れていきます!どんどん差が開いていきす!吠えろツインターボ!全開だターボエンジン逃げきった!危なげない大逃げで、ツインターボが勝ちました。これぞ横綱相撲!」
一応2500mを見据えてスタミナを鍛えているツインターボにとって2000mという距離は垂れることなくそのトップスピードのまま走りきることができる距離だった。サイレンススズカがおらず、逃げはいても大逃げはツインターボだけであり、一際目立つその走りと強さに押し掛けた観客は魅了された。G3らしからぬファン数を獲得したそのレースは、福島レース場の最多入場動員数を軽々と更新し、その後破られぬ記録となった。
★★★
トレセン学園
「危なげなく七夕賞は勝利したが、どうだった?見事なレース展開、正直言って満点だったよ」
「スッゴい楽しかった!サイレンススズカ………スズカがいなかったしずっと先頭だったけどやっぱり気持ちいいね!」
「そいつはよかった。さて、まだまだレースは続くぞ?分かってるとは思うけど過密にならないギリギリのラインでレース予定を組んでる。次は中山の中距離、芝2200m、オールカマーだ。こいつはG3ではあるんだが天秋の優先出走権がかかっていてな、G1ウマ娘も例年数多く参加してる。いわばG3の皮を被ったG1みたいなもんだ。ほれ」
翔が差し出した出走表には
「ふうん、スズカはいないんだ。でも七夕賞と違って結構強いのが出るんだね」
そこにはライスシャワー、イクノディクタスといった名だたる強豪が名を連ねていた。
「そこでだ。最近やってないしあれをやろうと思う。今のターボならもうちょい質の高いやつをな」
「あれ?」
「日本ダービーのやつさ。あれ以降ターボはサイレンススズカのせいで霞んじゃあいるが大逃げしかやってないだろ?ここらであれをやれば他の連中は「そういえばツインターボはこういう走りも出来るんだった」と疑心暗鬼のまま天秋に出走することになる。面白くなるぞぉ。まあ十中八九サイレンススズカが出走するだろうし、この恩恵はサイレンススズカが出走しないレースに限られるけどな」
「ハナを取った後に徐々にペースを落とすやつね。あの時は訳も分からなかったけど今なら出来るぞ!手をグーにしなくてもな!」
「ターボの成長が実感できるよ。大逃げはインパクトが強いから効果的だろうな。実際に夏合宿でも大逃げを警戒しての並走だっただろうし」
「でもターボは正確にラップタイムは刻めないよ?どうする?下手したらペースを落としすぎるかも………」
「そこは走り込んで慣れるしかないな。目標は1000mを59秒台で通過する速さだ。これ以上落とすと露骨すぎてバレると思う。今のスタミナなら最終コーナー手前で仕掛けても大丈夫だろう。早速やるとするか。1000m通過タイムが大事だから1000mをひたすら走るぞ。仕掛けるポイントはハロン棒を参考にすればいいし。最初の直線はいつも通りの全力でな」
「分かった!じゃあ行ってくるね!」
ひたすらに1000mを走り、タイムを計測したらペースの改善。ついでに
「尻尾垂れてるぞ!」
「結構難しい!」
スピードが落ちればそれだけ尻尾のたなびきも下向きになる。最悪尻尾の角度でスローペースがバレかねない。意図的に尻尾の角度を上げて誤魔化す。スローペースだとバレそうな要素をやり過ぎなレベルで潰していく。
「高レベルなスローペースが作れれば疑心暗鬼はより一層高まる。サイレンススズカには通じないけどもこれからのレース、全部にサイレンススズカが出るとは限らないしやっておいて損はない。しかも」
「うーん、ここはこうできるかな?」
ツインターボ自身も走りに改良を加えて普段の全力疾走とほとんど変わらないスタイルで走れるようになっていく。そしてついに
「うん、俺から見てもストップウォッチが無いと分からないなこれは。ペースの落とし方も自然だし、合格だ!」
「やったー!すんごい疲れたけどもこれでオールカマーはもっと面白くなりそうだね!」
「ああ、ついていくべきか、ついていかざるべきか。疑心暗鬼はターボをより一層有利にしてくれるだろう。こっちは何も考えなくてもあっちが深読みして疲弊してくれる。これぞ普通の逃げにはない、大逃げの特権だ。あ、オールカマーまでは忘れないようにこのトレーニング続けるからな。OK?」
「OK!」
こうしてダービーの時よりもレベルアップしたスロー走法を引っ提げてオールカマーへ向かうツインターボだった。