「ウマ娘達が追い求める一帖の盾、鍛えた脚を武器に往く栄光への道!天皇賞(秋)。東京芝2000mG1。3番人気はこの娘、テイエムオペラオー。そしてやはりここにいた、2番人気はツインターボ。そして堂々の1番人気は言うまでもありません。1枠1番サイレンススズカ!同じく1枠のツインターボとの一騎討ちに注目しましょう。各ウマ娘ゲートに入って態勢完了」
ガッチャン!
「スタートです。出遅れはありません。さあ先頭争いですがやはりサイレンススズカとツインターボ。この二人が行きます。大逃げを警戒したか?普段より前にいます、3番人気のテイエムオペラオー。その後ろにおおっと!?なんとなんと、ツインターボがサイレンススズカのスリップから抜けて並走しています!負けじと加速するサイレンススズカ。みるみるうちに3番手以下を突き放してこれは凄い!二人旅です。今までにない展開です。これは恐ろしいレースになりそうだ!間もなく1000mですが、何があった!?ツインターボの加速が止まった、サイレンススズカとの差が開きます。サイレンススズカは1000mを何と!?56秒9!56秒9です!ついに57秒の壁を破ったサイレンススズカ!少し離れてツインターボは57秒5です。いまだかつて見たことのないハイペース。サイレンススズカの通過タイムは過去最速です。先頭のサイレンススズカとツインターボとの差は4バ身程離れておりますが、間もなくレースも中盤です。後ろとは大差だ、これはサイレンススズカ楽勝ムード。ツインターボも頑張ってはいますが届きそうにありません。更にツインターボとその後ろも5,6バ身程です。これはもう決まったか?間もなく大欅を越えて最終コーナーですが先頭は依然としてサイレンススズカ、そのままああっと!?サイレンススズカがおかしい!走り方がおかしい!サイレンススズカに故障発生!みるみる後退していく!っとおお!2番手のツインターボがサイレンススズカに肩を貸している!?大逃げ二人が揃って競走中止だぁ!えー、レースはまだ終わっていません。先頭は変わって…………」
ここからの実況は誰も覚えていない。何せこの年の天皇賞(秋)はこの時点で○○○が勝ったレースではなく、
★★★
ツインターボ視点
ガッチャン!
[よっしゃ、いっくぞー!]
いつものように加速するツインターボ。その時だった。
[あれ?これもしかして並べたりする?よぉし!]
今まで雲の上の存在であり、並ぼうとしても並べなかったサイレンススズカに並べたのだ。それだけツインターボは成長したのである。当然並ばれればサイレンススズカも気が付く。でもそこは流石のサイレンススズカ、掛からない。そして並ばれたサイレンススズカが選んだのは
[おお!?スズカが加速した!?よし、ターボも………あれ?]
ここで再びサイレンススズカに並ぼうと加速しようとして、ツインターボは初めての感覚に陥った。それは
[何で?スタミナは?残ってる。脚は?まだ元気。調子は?絶好調。なのに何でこれ以上スピードを上げられないの?]
それはまるで
「待って、待ってよスズカ!」
そう叫んだ瞬間だった。
ボキッ!
激しい足音に混ざってはっきりと聞こえた。明らかに、折れてはいけないものが折れた音
[何!?何の音!?ターボじゃ………ないよね………]
その答えはすぐに分かった
[あれ?スズカの走り方ってああだっけ?何か左足を庇ってるような…………!]
ここであまり頭の良くないツインターボでも察した
サイレンススズカが怪我をした
そして普通ならここで迷う。何せ助けにいけばせっかくのG1レースを無駄にしてしまう。見捨てても誰も攻めることはないだろう。しかしツインターボは考えなかった。
「助けなきゃ!」
ノータイムで助けるという選択をした。ここからは妙に冷静にツインターボは行動できた。
左足を怪我してる=左足を地面につけちゃだめだ
幸いサイレンススズカは無意識かどうかは分からないが後続を邪魔しないように外へ外へと流れていく。左側はがら空きだ。下がってきたサイレンススズカの左側に向かい
ガシッ!
左手でサイレンススズカの左腕を掴んで首の後ろに回す。同時に前傾姿勢を解きながら左足を地面に着けないように右手でふくらはぎを掴んで浮かせながら減速する。ここまでツインターボは無我夢中で無意識で行った。考えながらでは行動が追い付かない。
「スズカ!スズカ!返事してよ!」
返事がない。目を閉じている。気絶しているらしい。減速を続けたツインターボは無事にコースの隅っこに停止する。
「早く!救急車!」
結果としてなにも考えず行ったこのツインターボの行動は偶然にも全て最善の行動であり、サイレンススズカという一人の命を救うこととなった。
★★★
レース後。二人仲良く病院に担ぎ込まれた。驚くことにツインターボは無傷だった。上半身の露出が少なく、モコモコしてクッション性のある勝負服だったお陰だろうか。そしてサイレンススズカは
左足首骨折
原因は簡単に分かった。飛ばしすぎ、体がスピードについてこられなくなったのだ。診察を終えたツインターボは翔とともに医師に呼び出され
「気持ちは分かりますが今回は何事もなかったからいいですけども、今後は二度とこのようなことをしないでください。最悪二人とも大怪我して引退ですよ?」
項垂れるツインターボ。今回は偶然に偶然が重なって事なきを得ただけなのだ。それを見た医師は
「説教はここまでにしましょう。反省もしているようですし、良かった方に目を向けましょう。参考までにこれを見てください」
出されたのはサイレンススズカのレントゲン写真
「これって!」
気がついたのは知識がある翔
「ええ、骨折でギリギリ済んでるんです」
折れた骨にはその周りにヒビが入っていた。すなわち
「後数秒助けが遅かったら、後一歩踏み出していたなら、ただの骨折ではなく、粉砕骨折でした。それだけウマ娘が脚にかける負担は大きいんです。そうなっていれば引退はどうあがいても避けられません。下手したら二度と歩けなくなっていた可能性もあります。ツインターボさん、あなたのお陰で一人のウマ娘が救われたんです。それだけは覚えておいてください。それではお大事に」
それだけ言われて退室する二人。去り際に
「あなたたちも他人事ではありません。どうか、気をつけて下さいね。私としても極力ウマ娘にはここに来てほしくないんです。ここに来るというのはそういうことですから」
同じ大逃げ。決して今回のサイレンススズカの怪我は他人事では無かった。