逃げウマに憧れて   作:ガチタン愛好者

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筆者は骨やら走りの知識は皆無です。なのでこのやり方が正しいのかどうかは知りません。


第十九話~限界~

天皇賞(秋)数日後

「スズカ…………具合はどう?」

 

「ええ、歩けないことを除けば元気よ、ツインターボさん」

 

ツインターボはあの天皇賞(秋)、人々は沈黙の日曜日と呼んだあのレースの数日後、トレーニングを早めに切り上げてサイレンススズカのお見舞いにやって来た。手術やらが一通り終わり、面会が許されたからだ。因みにトレセン学園の付近なので翔は同行していない。

 

「なら良かった!ねぇねぇ、お医者さんから聞いたよ。治るんでしょ!?その脚」

 

「ええ、あなたのお陰でね」

 

ツインターボの咄嗟の判断によって最悪の事態は免れたサイレンススズカ、しかし

 

「じゃあ治ったら勝負しよう!まだターボはスズカに勝ててないもん!今回のはノーカン!」

 

「そうしたいのは山々なんだけど…………」

 

俯くサイレンススズカ、何故なら

 

「治ったとしてもね、以前みたいな大逃げは難しいらしいの、やっぱり一度折れた骨は以前の状態には戻らないのね。それにどうしてもあの骨が折れる感覚が頭から離れないの、精神的にも厳しそう。自分のことは自分が一番分かってるから………」

 

「大丈夫!諦めなければどうにかなる!トレーナーもそう言ってた!実際にターボは敵わなかったスズカにもうちょっとで勝てそうなんだぞ!絶対に戻ってきてね!」

 

「ええ、そうね。やれる限りのことはやるわ。また一緒に走りましょう、ツインターボさん」

 

「うん!それとなんかツインターボさんってヤダ!ライバルでしょ?ターボはスズカって呼んでるんだからスズカもターボのことはターボって呼んでよ!」

 

「うーん、難しいわね、ターボちゃんでいいかしら?」

 

「いいよ!じゃあまた来るね!多分スズカは出られないだろうけど有記念出るから見ててね!勝ってくるから!」

 

「分かったわ。ここから応援してる。少し長い距離だけど頑張ってね」

 

「それじゃあね!」

 

そう言って病院だからか普段よりは大人しい、それでも喧しい足音を立てて病室を出ようとするツインターボ。それに向かって

 

「ちょっと待って、最後に一つだけいい?」

 

「!………何?」

 

妙に深刻そうな声で呼ぶサイレンススズカ。思わず真面目に返事をするツインターボ。

 

「ターボちゃん。貴方は、あの時感じた?何故か体がこれ以上加速しない感覚」

 

「うん、スタミナも、脚も残ってるのに何故か加速できなかった」

 

「私ね、こうなっちゃったから確信したの。多分あれは、ウマ娘の体の限界なの。私はね、ああなったときに思ったのよ。「これを越えた先にはどんな景色が待ってるんだろう」って。でもね、越えた先にあったのは激痛と絶望だったわ。あの一線だけは越えちゃダメなの。貴方にはこうなってほしくない、だから約束して、あの一線だけは越えないって。多分もう私は越えようとしても越えられないから」

 

「分かった。約束する。それじゃあ今度こそじゃあね!それと………」

 

「?」

 

「絶対に諦めないでね!ターボはずっと待ってるから!」

 

「!………そうね!」

 

元気に去るツインターボ。姿が見えなくなってから少しして、元気すぎて看護師に注意される声が聞こえた。それを聞いたサイレンススズカは

 

「諦めないことは勝つことよりも難しい、その通りね。弱気になっちゃダメ、また絶対にターフに立ってやる!」

 

決意を新たにリハビリに励むことを決意した。誰かを追いかける、サイレンススズカにとって初めての体験だった。

 

★★★

 

同時刻、トレーナー室

「すっかり忘れてたな。大逃げってのは危険きわまりない走り方だったっけか」

 

沈黙の日曜日、そう呼ばれることになったあの悪夢の天皇賞を何度も見返す翔。次は我が身だと言い聞かせて、ツインターボと重なってしまい二度と見たくないサイレンススズカの骨が折れる瞬間を何度も見返す。気がついたことはすぐにメモを取り、まとめる。サイレンススズカの怪我を無駄にはするまいという姿勢が伺える。

 

「多分これかな。サイレンススズカは骨折して、ターボにはヒビすら無いんだから」

 

念のためツインターボもレントゲンを撮ったが骨は無傷だった。あの時、同じ大逃げをしていたサイレンススズカとツインターボの違いは

 

「多分これだよな、1000m通過タイム。57秒を切ったサイレンススズカは骨折してツインターボは無事だった。他に違いが分からん」

 

レースから分かるのはそれだけだった。

 

「となれば後は………体格かねぇ」

 

小柄な部類のサイレンススズカだが、ツインターボと比べれば体は大きいし体重も重い

 

「当然軽ければ負担は小さい。確かサイレンススズカと比べたら体重も軽かったよな」

 

骨の強度はあまり差はない。それに対して体重は明らかな差が存在する。でかいことで有名なヒシアケボノと比べればツインターボの骨にかかる負担は格段に小さい。

 

「となればターボはサイレンススズカと比べれば、逃げることに関して幾らか有利なのかな。他には出来るだけ脚への負担が少ないペース配分も作ろう。よし、有記念までにやるべきことは決まったな」

 

明日に向けて作成したトレーニングメニューには

 

[1000m通過タイムの固定とペース配分]

 

そう書かれていた。

 

★★★

 

翌日

「じゃあ気持ちを切り替えて有記念に向けたトレーニングをする訳なんだがちょいと内容を変える。こんな感じだ」

 

ツインターボに見せたトレーニング内容は

 

・1000m通過タイムを57秒以上に固定

・ペース配分の見直し。具体的には息を入れずに飛ばして、垂れるがままにする

 

「この二点だ。最初のはな、あのレースを振り返ってターボとサイレンススズカを見比べた結果1000m通過タイム57秒が体の限界なんじゃないかと思ってな。後の方なんだがもう細かいペース配分はやめだ。完走できるスタミナは身に付いたんだしやめよう。ターボらしさってのもあるんだが一番の理由は垂れるがままの方が脚への負担が少ないからだ。急激な加減速は負担が大きい。垂れるがままなら負担を最小限に出来る。だんだん減速するわけだからな。いい?」

 

「うん。最初のはトレーナーが言わなかったらターボが言おうと思ってた!お見舞いの時にね………」

 

サイレンススズカから言われた警告を伝えるツインターボ。それを聞いた翔は

 

「なるほどなぁ。試しに一線を越えないように1000m走ってみてくれ」

 

「分かった!」

 

その後1000mを何回か走らせて分かったのは

 

「仮説は正しかったか」

 

タイムは3回走って

 

57秒1

57秒3

57秒2

 

どれもギリギリ57秒台だ

 

「短距離だとレコードタイムは57秒を下回るけどもそれ以外はここが限界なのかね」

 

例えば芝1000mのレースなどはレコードタイムが55秒ということもある。しかしどんなに頑張ってもツインターボはこれが限界だ。

 

「これが距離適正ってやつなのかな。一つ賢くなったな」

 

この時点でどうあがいてもツインターボは短距離を走れないことが証明された。短距離を走れる体ではないのだ。

 

「じゃあ今日は合計で3000m近く走ったわけだしここまでにしよう。明日は2500m走るぞ」

 

「分かった!」

 

★★★

 

記念数日前

「ねえトレーナー。一つ聞きたいことがあるんだけど」

 

「なんだ?」

 

トレーニングを終えた後に珍しく何かを聞きに来るツインターボ

 

「有記念のレコードって何分?」

 

「どうした急に?」

 

「今回さ、スズカと勝負できないじゃん。せめてレコードを破って怪我する前までのスズカには勝ったんだって言いたいの」

 

「なるほどなぁ」

 

大逃げのツインターボにとって基本的に追いかける相手はいない。今まではサイレンススズカがいたがもういない。となれば追いかけるのは以前の速かったサイレンススズカの影だ。

 

「ええっと………2分29秒5だな」

 

「分かった。それを目標にする。勝ってもそれに負けたんじゃ意味がない!」

 

現在のレコードタイム。これを叩き出したのが現在療養中のサイレンススズカなのだ。これを破れば少なくとも怪我前のサイレンススズカに勝ったという証明になる。

 

「でもタイムを気にして走るなよ?」

 

「勿論。ターボは最初から全力全開。スタミナが尽きたら根性!単に勝ったか負けたかの確認だよ!」

 

「なら良かった。本番まで後僅かだ。くれぐれも体調には気を付けろよ?」

 

「分かった!」

 

勝ち逃げは許さない。必ず再びサイレンススズカと走る。そのためにも有記念を落とす訳にはいかない。加えて今回のレースはサイレンススズカへの応援も兼ねている。今まで長距離をまともに走れていないツインターボが勝つことで不可能は可能に出来ると証明するのだ。今まで以上に勝つことへの思いを込めて年末の中山へ向かうのだった。




なんだかんだ言って現状ツインターボは一度も長距離レース勝ててないんですよね。
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