逃げウマに憧れて   作:ガチタン愛好者

21 / 25
第二十話~執念の有マ記念~

「年末の中山で争われる夢のグランプリ・有馬記念!今年もあなたの夢、私の夢が走ります。あなたの夢は一体どのウマ娘でしょうか?私の夢は………サイレンススズカです。再びこの年末の中山で、ツインターボとの大逃げ一騎討ちが見たかった。復帰の可能性はあるとの事ですのでその時を気長に待つとしましょう。さあ、現在の三番人気は2500mの長さ故か?超快速の飛ばし屋ツインターボ。二番人気には漆黒のステイヤー、ライスシャワー。そして堂々の一番人気を勝ち取ったのはシャドーロールの怪物、ナリタブライアン。現在好調の彼女が一番人気です。さあ各ウマ娘ゲートに入って態勢完了」

 

ガッチャン!

 

「スタートです。出遅れはありません。さあまず飛び出したのはやはりツインターボです。今日もターボエンジンは好調に回っております。どんどん加速してハナを取ったかと思うと更に加速していきます。これぞツインターボの大逃げです。そしてその後ろに、うわぁ、えー、サイレンススズカがいないとこうも目立つ恐ろしい存在だと再確認させられます。今日はツインターボを警戒したか既に二番手にナリタブライアンがおります。その後ろをピッタリとマークするライスシャワー。そしてナイスネイチャ、ヒシアマゾンと続いていきます。間もなく先頭のツインターボが1000m通過ですが57秒ジャスト!ジャストです!やはり56秒台は厳しいか?しかし長距離とは思えないほどのハイペース、これは暴走かはたまた作戦なのか。早くも差は、えーバ身では表せません。およそ70m程でしょうか?既にコーナーにツインターボは差し掛かっておりますが後続はまだ直線を走っております。まだ後直線が二つと最終コーナーが待っておりますがスタミナは持つのでしょうか?ツインターボは先頭を優雅に一人旅、後続も大きく遅れて駆け抜けていきます。レースは淀みなく進んでバックストレッチ、ツインターボは良い表情です。まだまだ走れそうだ。しかしこの辺りで後続がスパートを掛けた!速いですが大逃げを捉えるにはここからスパートを掛けないと間に合いません。差を未だに10バ身程維持したままツインターボが最終コーナーに差し掛かります。これはセーフティリードになるのでしょうか?ツインターボだけが最後の直線に入りますが差は7バ身!確実に差は縮まっています!ですが逆噴射と呼ぶには穏やかすぎる減速!ライスシャワーが!ヒシアマゾンが!そしてシャドーロールの怪物が迫る!ツインターボは懸命に粘る!ここからは根性の見せ所!ツインターボが逃げる!ツインターボが逃げる!ゴールまで残り200m!ナリタブライアンとの差は4バ身まで縮まった!逃げ切るかツインターボ!差しきるかナリタブライアン!ゴールが先か!差しきるのが先か!残り100m!差はもうほとんど無い!これは大接戦だ!二人並んだまま今ゴールイン!ギリギリゴールを越えて倒れ込むツインターボ!全てを出し尽くした!三番手には3バ身差でライスシャワー!えー、写真判定が入ります。暫くお待ちください」

 

掲示板には三着以下が表示され一着と二着には[写真]の文字が。そして表示されたのは

 

「決めたー!ハナ差で!ツインターボだぁ!そしてレコード更新!タイムは2分29秒3!コンマ2秒ですがツインターボがレコードを更新しました!」

 

★★★

ツインターボ視点

 

ガッチャン!

 

[ターボぜんかぁぁぁぁぁい!]

 

いつもならばサイレンススズカを追いかける所だが今回スズカは出走できていない。であればやることは一つだけ。ひたすらに先頭を突っ走る。

 

[!来たか、このままキープ。越えてみたいけど我慢!]

 

一線に達し加速が止まる。それでもツインターボの誇る圧倒的なトップスピードは他の追随を許さずに差をどんどん広げていく。

 

[足音はしない。でも後ろを気にする必要はない。いっくぞぉぉ!]

 

先頭を走りながら目の前を走っているであろう栗毛を追いかける。去年の影だ。

 

[スズカならここら辺で一息入れる。でもターボは全力だ!]

 

ひたすら追いかけたことでそこに居なくともスズカの走り方や息を入れるタイミングは朧気ながら覚えている。

 

[まだまだターボは走れるぞ!]

 

去年は無理矢理サイレンススズカについていったことで強烈な逆噴射を決めたツインターボだが、この時点でゴールまで後どれくらいといった思考は消えていた。走れるところまで走ろう。まだ走れる。それだけだ。

 

[流石にキツくなってきたかな。後どれくらいかな?スタミナは持つかな………いや!持たせる!]

 

何だかんだと今年に入って最初で最後の長距離レース。普段中距離を走るツインターボにとって2000mを越えてからの500mが踏ん張りどころ。

 

[見えた!ゴール!]

 

最終コーナーを抜けて見えたのはゴール板。しかし既にこの時点でツインターボのスタミナは尽きかけていた。

 

[キツ………い!でもまだ脚は動く!]

 

段々走り方がヘロヘロになるツインターボ。所謂逆噴射である。しかしトレーニングの賜物かその減速は今までより緩やかだ。逆噴射というよりはエンジンブレーキに近い。

 

[もうちょっと!後少し!後ちょっとだけ、頑張れターボの脚!]

 

もうゴールは目の前。手を伸ばせば届きそうな距離。しかし無情にも

 

「あ………」

 

脚が、止まる。スタミナも、根性も尽きる。

 

「嫌だ」

 

やけにゆっくりと映る景色。視界の端にはシャドーロールが映り込む。

 

[諦めるもんか!ここまで来たんだぞ!]

 

しかし無い袖は振れないという言葉がある。諦めなくても出せるものがなければどうしようもない。ガス欠のエンジンはどうあがいても動かない。

 

[あとちょっと、あと数mだけ!なんとか!]

 

その時だった。

 

トンッ

 

「あれ?」

 

何かが背中を押した、気がした。そして

 

ドサッ

 

倒れた。といってもヘロヘロだった為に怪我はない。崩れ落ちたといった方が良い倒れ方。

 

「ゴールは……やった………」

 

少し目線をずらせば自分より僅か後ろにゴール板。何とかゴールは出来た。後は着順だが。

 

「写真?………何着かなぁ」

 

疲れはてて動けないまま首だけ動かして掲示板を見守る。そして

 

「あれ?あの番号は………ターボ?勝った…………の?」

 

大歓声がそれを証明する。しかし最後の最後まで出しきったツインターボは動けない。そこへ来たのは

 

「無様だな、ほら」

 

肩で息をするナリタブライアン。

 

「ツインターボさん。どうぞ」

 

こちらも息を整えつつあるライスシャワー。二人が手を差し伸べる。

 

「うん、ありがと」

 

二人に両脇を支えられてヨロヨロと立ち上がる。すると目の前に飛び込んだのは

 

ワァァァァ!

 

割れんばかりの大歓声。

 

「気づいてないかな?レコード、だよ?」

 

ライスシャワーに言われてタイムを見れば目標としたタイムを僅かだが更新している。つまりツインターボは去年のサイレンススズカに勝ったのだ。

 

「ごめんね、二人ともありがと」

 

二人の支えが無くなり、まだ震える脚でしっかりと立ったツインターボは高らかに言った

 

「見てたか!ターボの走りを!ターボは去年のスズカに勝ったぞぉ!」

 

勝利宣言だった。因みにこの日のウイニングライブは疲れはてていたこともありキレも何もないライブだったがファンの歓声は経験したことの無いレベルだった。

 

★★★

サイレンススズカ視点

 

「本当なら………私も………」

 

病室のテレビで有記念を観戦するサイレンススズカ。骨折さえなければ自分もあそこに立っていたかと思うと辛い気持ちになる。

 

「ターボちゃんは三番人気。まあ当然ね」

 

ツインターボは中距離を中心に走っており、前回の長距離レースは去年の有記念。成長したとはいえあの凄まじい逆噴射は記憶に残っている。

 

「何だか新鮮ね。誰かのレースを本気で応援するなんて」

 

サイレンススズカは異次元の逃亡者。聞こえは良いがそれは並ぶものがいない孤独でもある。チームではないサイレンススズカは今までずっと孤独であり、それが当たり前だった。故に悲しいと感じたこともない。しかしツインターボと出会ってそれは変わった。大逃げのサイレンススズカに唯一途中まででも食らいついてくるのは彼女くらいだ。そして中距離ではもうすぐで自分を負かすレベルにまで達している。初めて感じるその感覚にワクワクしていた矢先の骨折。ダメージは大きかった。

 

「出遅れは無し。まずはオッケー」

 

大逃げにとって出遅れは死を意味する。まあツインターボの加速があれば少々の出遅れは関係ないだろうが

 

「初っぱなから大逃げ、流石ね、フフッ。思わず笑っちゃうわ」

 

この笑いは決してバカにしているわけではない。その遠慮の無い大逃げに対する呆れだ。最も以前は強すぎる自分がそれをされていたのだが本人は知るよしもない。

 

「加速が止まった。良し、そのまま………」

 

短めとはいえ長丁場の長距離レース。中盤は落ち着いて観戦できる。だがそれもバックストレッチまでだった。

 

「もうナリタブライアンはスパート。まあターボちゃんを捉えるならベストのタイミングね」

 

ツインターボの垂れと相まってどんどん差は縮まっていく。それでも凄まじいマージンが相殺する。

 

「頑張れ………そのまま………そのまま!」

 

崩れ行くフォーム。それでも走り続けるツインターボ。後ろから凄まじい追い上げを見せるナリタブライアン。思わず見ているサイレンススズカのテンションも上がる。その見ている目の前で同じ走るウマ娘として、実力者として感じてしまった。

 

ゴール前ギリギリでスタミナも根性も尽きる

 

そう感じたサイレンススズカは思わず叫んでいた。

 

「そのまま!頑張って!後少しだけ頑張って!」

 

その応援は離れすぎていてツインターボに届いている筈がない。のだが

 

「あら?」

 

()()()()()()()()()()ツインターボはゴールをギリギリ越えて崩れた。掲示板には写真の文字。つまり

 

「届いた………」

 

そして永遠にも感じられる時間の末結果は

 

「勝った………の?やった…………やったぁぁぁぁ!!!!!」

 

まるで自分の事であるかのように喜びを隠せないサイレンススズカ。しかしすぐさま落ち着きを取り戻すと

 

「遂にターボちゃんが長距離優勝、しかも私の記録を越えて。よく頑張ったわね。さてと、じゃあ次は私の番」

 

ツインターボが頑張ったのならば今度は自分が頑張る番。あの最初は逆噴射ばかりで並みの中距離ですら到底無理だと皆が思っていたツインターボがG1の長距離を勝った。であれば皆が無理だと思っている自分が再びG1に復帰して見せる事は不可能ではない。不可能な筈がない。何せ骨折だけだ。脚を切断したわけではない。失っていないのならば諦めない限り不可能など無い。

 

「待っててね、必ずターフに戻るから」

 

再び先頭を、今度は最後まで二人で駆け抜ける想像をしながらサイレンススズカはリハビリに励むのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。