始まりがあれば終わりがある。それはこの世の覆せない道理。すなわち
「見事に逃げ切ったツインターボ!有終の美を飾りました!」
あの大逃げで世間を賑わせたツインターボにも終わりが来るということだ。当然のごとく毎年新しいウマ娘がトレセン学園にやって来て、それと同じくらいのウマ娘がレースの場から引退している。相も変わらずドリームトロフィーリーグにて大逃げを披露していたツインターボだが、やはり大逃げというか逃げウマ娘の宿命には逆らえず、現役を退くこととなった。因みにサイレンススズカだが骨折を一度やらかしたこともあり、ツインターボと走った後にすぐに引退している。復帰さえ怪しかったのだから一度でも走れただけでも素晴らしいことだ。一度骨折すると同じ箇所を骨折しやすくなるというのも要因の一つである。
「見てたか!これが!ターボの走りだ!」
ウイニングサークルで高らかに叫ぶツインターボ。観客も割れんばかりの大歓声で、その歓声はレース場外でさえ喧しい程だった。しかしツインターボのファンは以外と早く、再びツインターボを目にすることとなる。
★★★
鈴鹿サーキット
「三重県は来たこと無かったぞ」
「三重県にウマ娘のレース場無いからね。ツインターボ、調子は?」
「絶好調!行ってくるよ!」
「せっかくのポールポジションだ、スタートミスらないようにね。後無線とピットサインを見逃さないように」
「分かった!」
そう言ったツインターボはウマ娘専用の耳が突き出たヘルメットを被り
ヴァァァァァ………………
コースへ出ていった。ツインターボが引退後に進んだ道。それは
「先頭をひた走るのはツインターボ選手!やはりこの選手には逃げが良く似合う!」
スーパーGTのレースだった。そしてツインターボが車のレースへの道へ進んだ理由は…………
★★★
引退レース前日
「いよいよ引退レースか、長いようで短かったな」
「うん!でも…………」
「どした?」
「引退はターボが言い出したことだから今更やめられない。だってスズカと走ってた頃の逃げが出来なくなってるのはターボが良く分かってる。最近は大逃げできてないもん。でも、あの景色を置き去りにして走る感覚が忘れられない。引退したらもう走れない。その後どうしようかなって」
今後の憂いを残したまま引退レースを走らせるわけにはいかない。そこで翔が言い出したのは
「良い案があるんだ。引退レースが終わったらレースを見に行こう。あ、ウマ娘じゃないぞ。我々人間のレースをな」
「?」
そして引退後に向かったのは
ツインリンクもてぎ
そこで行われたスーパーGTというレースだ。ウマ娘とは比べ物にならないハイスピードのレースにツインターボの単純な脳は見事に魅了され
「ターボ、レーサーになる!」
「おう、頑張れよ。あいにく俺はウマ娘のトレーナーだ。流石にそこまでサポートはできん。ただまあデビューできたなら応援に行くぞ」
「絶対だぞ!」
元々ウマ娘は人間よりも身体能力が高いために採用は早かった。見た目は完璧で、高い身体能力。更にレースにおいてはマシンの性能が大半を占めるためにウマ娘であってもレーサーになれたのだ。何せ動体視力に長けていてもマシンの限界以上のタイムは出せない。最もレーサーになろうという物好きなウマ娘はごく僅かで全体の1割にも満たない。ウマ娘は女性であり、趣味嗜好は人間の女性と酷似しているからだ。他には
ギュイィィン!
「ほい!」
ガチャガチャ………
ヴァァァァァ………
ピットでマシンへの乗り込みも早い。小柄な体格がここでも存分に役立っている。最もその小柄な体格に合わせるためにエンジニア達は大層苦労することとなった。レギュレーションの都合上相方は同じ小柄な選手でなければならず(マシンは共有だからペダル配置で帳尻を合わせなければならずあまり無理ができない)、しかしそれらの苦労を差し引いてもずば抜けた能力と知名度を兼ね備えるツインターボはチームにとって魅力的な選手だった。
★★★
ツインターボ引退から数年後、鈴鹿サーキット
「ターボのデビュー戦。無理して有給取ってきたぞ!」
現在もトレーナーを続けている翔がツインターボのデビュー戦にやって来た。言い出しっぺであり、デビュー戦は見に行くと約束した以上来ないわけにはいかない。まあ本人の趣味もかなり含まれているが
「おお、やりあってるやりあってる。流石だな」
ウマ娘でのレースとは勝手が違うはずだが行けそうで行けない程度にインを開けて、フェイントも織り混ぜて先頭でバトルを展開するツインターボに思わず涙する翔。ここまで成長したのかという嬉し涙だ。
「なんというか………良いもんだな。ウマ娘って、トレーナーって」
恐らくウマ娘に限らず教育に携わる多くの人間が考えるであろう事。全寮制で付き合いが長くなるトレーナーという職業においては更にそれが強くなる。
「うし、チェッカー。勝ったか、どれ」
チームの頑張りもあってデビュー戦で勝利を飾ったツインターボ。表彰台でインタビューを受ける姿は様になっている。
「良い走りだったぞ!ターボ!おめでとう!」
インタビューが終わったのを見計らって叫ぶ。当然ウマ娘の優れた聴覚はそれを聞き取る。
「見てたか!これが新しいターボの走りだ!また見に来てね!トレーナー!」
ざわっと、辺りがざわめく。当然のごとく翔の知名度もそこそこ高い。しかし周りの目は気にならなかった。
「最初はあんなだったのに、成長する姿は良いもんだな。さて!」
ぺちんと頬を叩いて気持ちを切り替える。何せ既に新しいウマ娘のトレーナーとして活動している以上かつての教え子にこれ以上深入りしてはいけない。
「次はどんなドラマが見られるかねぇ!」
人混みを掻き分けてトレセン学園への帰路に着いた。
★★★
ツインターボが新たなレースの道へ進み始めた頃、かつて異次元の逃亡者と呼ばれたウマ娘もまた新しい道へ進もうとしていた。それは
「じゃあ今日のトレーニングは並走ね。ついてきて」
「はい!」
まさかまさかのトレーナーだった。しかし志望理由が中々にサイレンススズカらしいもので
★★★
トレセン学園、面接室
「質問!何故トレーナーになろうと思ったのだ!」
トレセン学園では筆記で大半を落とし、残りはまさかの理事長自らが面接を行う。そしてこの問いにサイレンススズカは
「トレーナーになれば、走れると思って………」
「は?」
「レースで走れなくてもトレーナーとしてなら並走、指導という形で合法的にちゃんと整備されたトレセン学園のターフをいつまでも走れるから…………公共のターフは芝の管理が雑で…………やっぱりURAが管理する芝が最高です」
「……………」
なまじ筆記の点数が高く、現役時代の実積も優秀。ウマ娘の耳や尻尾から感情を読み取るのもお手のもの(だって自分も同じだからね)。恐らくこの上なくトレーナーに向いているであろう人材。走りが感覚派なのが懸念されるが走りを実際に見せる指導ならば問題はあるまい。常にトレーナー不足に悩むトレセン学園としては是非とも採用したい。
「むむむぅ、採用!」
苦渋の決断だった。なおその後担当ウマ娘とともに元気良くトレーニング用の芝を駆けるサイレンススズカの姿が目撃されたのは言うまでもない。引退したとはいえ教え子との並走程度なんということは無いようだ。
★★★
翔視点
そして無事にツインターボを勝たせて有終の美を飾らせた翔はその後もトレーナーとして活躍していた。ツインターボのお陰で大逃げのノウハウも身に付いたため相も変わらず大逃げのウマ娘を育成している。何より嬉しいのは逆スカウトされたことだ。
「あのツインターボさんのトレーナーさんですよね!私もあんな大逃げがしたいんです!」
○○○○○○に憧れたツインターボや翔のように、今度はツインターボに憧れて大逃げを志すウマ娘が現れた。当然のごとくその逆スカウトを
「分かった。まだまだ新米だがよろしく頼む」
快く引き受けた。そして再び新たな物語が動き出す。こうして高齢でトレーナーを引退するまで逃げ一辺倒の指導を続けるのだった。
★★★
トレーナー養成学校
「とまあ一時期は無謀と呼ばれた逃げですが現在では盛り返しており、王道の先行、差し程ではないですが少なからず走っています」
翔のお陰で怪我をしにくい逃げも確立されてきた。何故今まで確立されなかったのか、それはトレーナーも実積が必要な以上ギャンブル性の強い逃げウマ娘を育成しようというトレーナーが極少数だったからだ。それも徐々に変わりつつある。
「では今日の授業はここまで」
授業を終えて自室に戻る教師。部屋にある写真を眺めながら
「ホントにやっちゃったよ。すごい奴だよあんたは。あのトレーナーの逃げの基礎は私が教えました………なんて、偉そうなこと言えないか」
自室にはツインターボと翔が映った写真が飾ってある。ダービーの時のだ。
「さて、次はどんなトレーナーが生まれるのかな」
それは神のみぞ知る
引退後のウマ娘ってどうしてるのかなと考えた末のこれです。実際どうなんでしょうかね?ゴールドシチーなんかは美容院とかモデルで食っていけそうですけども