†なんてことだ、この小説のUAとお気に入り登録が止まらない、加速する!†
「これより!チームフラッグ発足初!トレーニングを開始する!」
フクキタルがチームに入り次の日、正式に認められた後の放課後。遂にトレーナーとしての初の業務が始まったと言えよう。しかし、
「じゃ、アタシは闇系の仕事があるのでこれで」
始まったばかりだというのに帰ろうとするゴールドシップ。だが、
シュバ「待て!ゴールドシップ!」
「んおっ!?(ガッシ)なにすんだぁあだだだ!」
「何か法律を破ることや体を壊すようなことをしているのなら力ずくで止めるぞ!」ギギギギ
「イデデデ!ヘッドロックはやめろアタシの髪が崩れんだろォアガガガ!」
そこにはウマ娘を完全にホールドするトレーナーの姿があった。こわい。
「一体我々は何を見せられているんだね」
呆れ返るアグネスタキオン。
「あはは……」
苦笑いするスペシャルウィーク。
「あはは!二人ともおもしろーい!」
笑うハルウララ。
「オオ、これは……!凶、です、ね……」ガックシ
何故か占いをしているマチカネフクキタル。
「フクキタルさん……?」
フクキタルを怪訝に見つめるライスシャワー。
「ギブギブギブ!冗談冗談!降参、降参だってトレーナー!オアアーッ」
卍固めまで極められ痛みに悶えるゴールドシップ。
「な、なにあれ……」「近づかない方がいいわね……」
ドン引きする他のウマ娘たち。
すべてが一人の男によって引き起こされたものである――
――「オホン、気を取り直して始めるとしよう。そらゴールドシップ!何をたるんでいる、気合いを入れろ!」
「誰のせいだと思ってる誰の!」
さっきまで痛みにもんどり打っていたので砂まみれのゴールドシップ。
「無論、君のせいだとも、ゴールドシップよ」
「冗談通じねえのかよ!」
「生憎、今はそういう
「メタはやめろ!反則だろうが!」
「ええい話が進まん!始めるぞ!」
ぶったぎった。自分から始めた話を。理不尽であるとゴールドシップは思う。周りは置いてけぼりである。
「スペシャルウィーク、ライスシャワー、ハルウララ、マチカネフクキタルは、私と実戦形式で併走してもらう、その後坂路の往復。アグネスタキオンには、足に負担の少ない水中でのトレーニングを。これがメニュー表だ。ゴールドシップは……」
「じゃあアタシはタキオンとドジョウ掬いを……」
「ドジョウ掬いはやらせんぞ、だがそれでいい。聞くつもりもないだろうからな」
「うし!そんじゃタキオン!潮干狩り行くぜ!」
「今はそんな時期ではないぞゴールドシップ、あと外部ではなく学園内の設備を使え」
「ちぇっ」「ふむ、了解した……負担は少ないとはいえ、案外強度は高めだな」
「強すぎたかね」「いや、問題ないよトレーナー君」
「お兄様についてく……ついてく……」「うむ、ライスシャワー、全力で追い抜いてこい!」
「えっ、いやちょっと待ってください、トレーナーさんが私たちと併走?どういうことですか?」
「そうですよトレーナーさん!人がウマ娘と併走できるわけないじゃないですか!」
「トレーナーと併走!?面白そー!」
そういえば、とゴールドシップ、タキオン、ライスは思う。
「トレーナー君は人間だったねぇ」
「あーそうだったそうだったわ、でもな、トレーナーはトレーナーだから問題ないぜ!」
「うん、お兄様はすごいんだよ、普通に走ってる私と同じくらいのスピードが出せるんだ」
ドン引きするフクキタルとスペ。ハルウララは感心するのみだ。
「嘘かどうか試してみると良い、スペシャルウィーク、マチカネフクキタル。取り敢えず2000mの中距離が丁度いいだろう」
「ッ!」「う、噓ッ!?」「ヒエエエ!」
「どうした二人とも!まだお互い全力ではないはずだ!」
残り1400を通過、先頭はライスシャワー、二番手わずかにスペシャルウィーク。三番手はマチカネフクキタル。その後ろにつける楠薫トレーナー。
戦術としてライスは先行、トレーナーは差しを選択した。他二人は差しに近い形に自然となった。
「み、皆待ってー……!」
やはりというか、最後尾。ポツンとひとり、ハルウララ。そんな彼女を置いて、前では熾烈な駆け引きが行われる。
(何なの……この人、底が知れない!)(ナ、なんだかすごい圧です……走りにくい……!)
さりとて早いわけではない。所詮は人間だから、ウマ娘ではないからという驕りもあったのだろうが、
なんだ?この存在感。後ろに張り付いて離れない。だが向こうは本気というわけでもない。不気味だった。
(ウマ娘のスリップストリーム……なんという加速感だ!心躍る!こうでなくては!)
「これがレースでの駆け引き、その一例だ!」
更にトレーナーは左右に揺さぶりをかけてくる。「下手に応じると脚が残らんぞ!」
アドバイスをされるも、今にも抜かしてきそうな彼へのブロックをしてしまう二人。それだけの気迫があった。
しばらくこの攻防は続き、ライスは二人のおかげで自分のペースを守れたが、スペとフクキタルは脚を使い切ってしまった。
最終コーナー直前、ライスは快調にとばしていく。
スペとフクキタルはコース外に膨らんでしまった。内ラチをトレーナーに突かれる。
この時この突発的な模擬レースを見たウマ娘と人は思った。彼は本当に人間なのか?と。
何せ、ラストスパートの体勢がウマ娘と遜色なかったからである。どんな体幹してんだ。
しかしながら、――そもそも揺さぶりや差しでの仕掛けタイミング、実戦さながらの緊張感を教えることが目的であり――後半に残す体力がなく、即失速。4着。3着と4バ身差。
1着、ライスシャワー。タイムは2分12秒78。リードは3バ身。
スペとフクキタルの2着争奪戦は、スペのアタマ差根性勝ちだった。
そして、トレーナーに2バ身ほど遅れて、ウララ完走。5着。
それから30分ほど皆休み、坂路トレーニングを何故かトレーナーと行った。
「一通り終わったな。次はダンスレッスンと行きたいところだが……」
「ま、マジで?結構ヘトヘトなんだけど」
ゴールドシップは一応ちゃんとやってくれたようだ。
ついでに坂路もやらされたのでタキオンより疲れている。
「しかしだ。そのレッスン室は今日、完全に埋まっているらしい。」
「というわけで、これからカラオケに向かう!ウイニングライブの練習だ!」
「「「「「「う、ウイニングライブ!?」」」」」」
「おお!そういうことならいっちょ見せてやるか!アタシのソーラン節!」
「わーい!」
ゴールドシップとハルウララ以外のチームメンバーは驚き、
「しかしだねぇトレーナー君、今から勝った後のことを考えるのは良いんだが、肝心のダンスを教える人がいないじゃないか」
「そ、そうですよ、ハァ……トレーナーさん!ハァ……何か、ングッ、アテでもあるんですか?」
「ハァ、ハァ……もうダメです、限界です……無理ィ……」
「そうだよ、お兄様、フクキタルさんはヘトヘトになってるし」
スペとタキオンはそう疑問をぶつける。フクキタルは完全にバテている。ライスは息切れもせずトレーナーのそばにいる。
それに対しトレーナーは得意気に語ろうとするも、そこに、
「あー大丈夫だぜ、このトレーナーはほぼ全ての楽曲完コピして、ダンストレースもしてっから。なんならステキな衣装もあるらしいぜ、トレーナーのサイズしかない上一点物だけどな」
唐突なゴールドシップの暴露に全員が驚く。中でも一番驚いたのは楠トレーナーだ。
「おい待てゴールドシップ!何故君がそれを知っている!?」
「この前オマエんとこの実家にお邪魔したんだぜ!」「何故家にあげた父よ!母よ!」
「アンタんとこの息子の彼女ってことになってお邪魔したぜ。やけにスッゲー反対されたけど」
「「「「えっ」」」」「?皆なんで驚いてるのー?」
その発言に楠トレーナーとウララ以外は固まる。いくらなんでもそれはヤバいだろと。
「つまりアレを見たと?」「そ、クローゼットとアルバム」尚、当の二人は気にも介していない。
「なんてことだ……ハッ!?まさかあの時の電話はそういうことだったのか!」
流石の楠トレーナーもこれには頭を抱える。他にも頭を抱えるべき問題はなかったのだろうかとウララ以外の他チームメンバーは内心ツッコむ。
「この前の書類ん時のお返しだアホトレーナー、これでチャラだぜ。あと、実物も預からせてもらったからな!」
そういうと何処からともなくそこそこ厚いアルバムと、楠トレーナーが一番の傑作と評したとトレーナーの父が言っていた
「……バレたとなれば仕方ない、な。観念しよう」
お手上げだな、これは。と珍しく溜息をついたトレーナー。
「ほ、本当なんですか?お兄様……」
ライスがそう聞くと、少々の間をおいて楠トレーナーは話し始めた。
「――ちょっとした黒歴史、いわば人生の恥部だよ。この私、グラハム・エーカー、本気でウマ娘になろうと、そしてウイニングライブのセンターを目指そうとしたことがあったのだよ」
そういうとゴールドシップから半ばひったくるように受け取ったアルバムを開く。そこには幼い頃のトレーナーが居た。何故か女の子の格好をして踊っていたり、走っていたり、普通の格好で自転車に乗っていたり、入学式、卒業式での写真だったり。色々なトレーナーが居た。
「その為に幼き日からトレーニングを重ねたものだ。河川敷を毎日20~30㎞ランニング。筋トレ、神社の階段30往復、小さい頃には、コッソリウマ娘の中に紛れこんで芝、ダートを全力で走ったりな。それからバイトを始め、自費でジムに週二回通ったり、プールを1日総30㎞泳いだり、買った器具で自宅ウェイトトレーニング、時には軍へ入ったこともある。二年で辞めさせられたがな。無論勉学も怠ってなどいない。栄養学、生理学、医学、心理学、バイオメカニズム。ありとあらゆる走ることに必要なものをかき集めたさ。今でもこれらは無駄にはならなかったがな……」
楠トレーナーはそこで少々言い淀む。いや、これは失敬、と置いてから話を続ける。
「歌とダンスに関しては、ライブ映像を繰り返し擦り切れるまで観て聞いて反復練習した。一般的に女装と呼ばれるものも、化粧も近所のウマ娘に頼んで教えてもらったりな。全てはウマ娘へと近づくために。たったそれだけのことにな、だが結果は散々なものだったがね。」
彼は歯嚙みした。何かそれ自体に後悔はなくとも、まるでその為にしてきたことの中に悔恨があるように。
しばらくこの場に沈黙が訪れた。
「ん、まあこんな男の身の上話はもう良いだろう。この後予定があるものが居れば聞くぞ」
『…………』
実際、皆に火急の要件はなく、門限までフリーであった。
「……特にないなら行くぞ!カラオケに!」
「お、おう!行くぞ皆!このゴルシ様に続け~!」ザッ
流石に悪いと思ったのかゴールドシップが率先して重いこの空気を何とかしようとする。
「待てゴールドシップ!そっちには5㎞先にしかカラオケはない!」
てなわけで、トレセン学園近辺のカラオケ店に入ったチームフラッグ一行。
「うまぴょい!うまぴょい!」
パーティールームのお立ち台に、「Make debut!」「Winning the soul」「Special record!」等を歌い、ダンスを踊り、〆の「うまぴょい伝説」を歌う楠トレーナーの姿があった。汗が光っている。ちなみにスーツである。
「――私の愛バが!」「ヒューヒュー!最高だぜトレーナー!」
何故かサイリウムを振り、菅傘を被りながらハイテンポのサンバを踊るゴールドシップ。まるでオタ芸だな。
「どうしよう……トレーナーさんの踊りがゴールドシップさんのせいで入ってこないよ……」
混乱するスペ。周りも同様であった。だがタキオンが冷静に撮っていたので心配はいらない。
「――(うー)fight!」
ぶっ通しで踊りきった。どんな体力をしているのか。
「と、これが歌われることの多い曲、そしてセンターでのうまぴょい伝説の踊りだ。分からないところは聞いてほしい。」
「ちなみに映像はバッチリとれている、あとで各自のスマホにデータを配っておくよ」
「おお、気が利くではないかアグネスタキオン」「まあ、今私に出来ることはこのくらいだからねぇ」
「すごいすごーい!トレーナー!」
「わぁ……完璧ですねトレーナーさん!不本意ですけど!」
「うん、すごいよお兄様!」
「ホワあぁ……すごいですトレーナーさん!」
三者三葉にトレーナーを褒め称える。
「……ふっ、そういってくれるなら、あの生き恥を晒した甲斐が!あったというもの!」
その後、門限一時間前まで延長し、少々ぎこちないばりには動けるようになった……
(……そういや、なんでやけにマルゼンスキーのぬいぐるみとかグッズが、他のより多めに仕舞ってあったんだ?)
ふと、ゴールドシップは思ったが、特に気にすることもないだろうと頭の片隅に置いた。
チーム一行がカラオケに入っていったその頃。生徒会室にて。
「――ふむ、新人トレーナーの楠君か。なかなか面白い人物のようだな」
生徒会長、皇帝と呼ばれるシンボリルドルフが、話題のトレーナーに関する書類を机に置いた。そのことについてエアグルーヴ、ナリタブライアンらと話している。
「面白いで片付けられるものではありませんよ!……彼の行動は目に余るものがあります。ですが、これでも優秀なトレーナーだというのが始末に負えません」
「ああ、何せこの中央のトレセン学園に入れるレベルだ。しかも一目見ただけで向いている脚質、はたまた適正距離まで判別できるらしい。私も見抜かれた。その後トモを触っていいかと聞いてきたから蹴ったが」
「ふうん……だが許可を取ろうとするだけいいのではないか」
「奴は危険人物ですよ!グラハム・エーカーという、謎の偽名を自分につけているというのもおかしいですが、着任早々校内で大声で愛とやらを叫んで皆を怯えさせただとか、木の上から双眼鏡でウマ娘たちを見ていたとか、ウマ娘にお金を渡していたとか、その他にも生徒であるスペシャルウィークとライスシャワーを追い回して無理矢理チームに入れる等!」
声を荒げてしまうエアグルーヴ。無理もないと思うブライアン。
この時、ルドルフがグラハム・エーカーという偽名に
「とにかく奴は、トレーナーとして相応しくないと思うのです」
そこでエアグルーヴは話を区切り、言葉を待つ。
「つまり、上や理事長に提言して欲しい、と」
ルドルフは溜息をつく。
「時期尚早、だと思うが。まだ彼はチームを作ったばかりだ、それに辞めさせるまでの不祥事を起こしているとは思えん」
「早いも遅いもありません、他のウマ娘のためにも即刻クビにした方がいいと考えます」
「しかしだな……」「会長……!」「まあ待て落ち着け二人とも」
ブライアンはヒートアップしそうだった二人を止めた。
「流石に生徒会の一存で決められる権限を超えてるぞエアグルーヴ、それに、いくら問題を起こしそうなトレーナーとは言え、たづなさんや理事長が一目置く人物だ。そうあることじゃない。ここは会長の言う通り、もう少し様子を見てからでもいいんじゃないか?」
「……すみません、会長。少々冷静ではありませんでした」
「いや、すまない。私も熱くなってしまっていたようだ、面目ない。しかし、もしエアグルーヴの言う通り彼が不祥事を起こしたのなら、その兆候を見逃した理事長たちや私の責任問題ということにもなるだろう。エアグルーヴの懸念も理解はしているよ」
そこでひとつ区切ると、
「その上で、私は新人の彼を信じてみたいのだ」と言い切った。
エアグルーヴとブライアンは、ルドルフの態度に違和感があると思うが、時間が時間だったため詮索はできなかった。ブライアンは単純に面倒がっただけだが。
「まあ、会長がそういうのなら、私も信じてみましょう……」「同じく」
「ありがとう。仕事はもう終わっている。施錠はしておくから、二人は先に寮に帰りたまえ」
「はい、ではこれで失礼します」「どうも。では、失礼」
ルドルフは一人生徒会室に残され、彼女は楠トレーナーの書類の顔写真を見つめながら独りごちる。
「――まさか、また会える日が来るとはな、
――『君!速いのだな、名はなんというのだ!?』――
――『私はグラハム・エーカー!ウマ娘の走りを目指す者だ!』――
その呟きと微笑みは、誰にも届くことなく、黄昏に照らされた部屋に溶けて消えた。
話の着地点が見当たらないので失踪します
尚、この後エアグルーヴは、会長の意図していなかった「