つまり急にスピカが出るのは投稿者がたわけだからだね
「アグネスタキオンよ、栄養状態が悪いように見受けられるが、何か食べているか?」
「どうしたんだい藪から棒に」
投薬実験の最中、トレーナー室で楠トレーナーは急に質問をする。
左の額に何か歯車のような青白い痣が出てきたが、想定していない副作用である。
本来の予定していた大胸筋も光ってはいるが、何故か(恐らく)1677万7216色のフルカラーに光るサイケデリックな様子になっている。が、――おかしな慣れだが――もうこんなことで驚くようなことでは無くなっているタキオンだった。
「いや何、私が奢った後のカフェテリアでの目撃情報が皆無なのと、最近付き合いが更に悪くなったとマンハッタンカフェが愚痴っていてね」
「ほう?カフェが何故モルモット君に私の愚痴を?」
彼女は探るように聞く。何やら嬉しそうな雰囲気を滲ませながら。
しかし楠トレーナーは、
「それに関してはちょっとした事故で、としか言えん。やましいことは無いのだが、どういう経緯で聞いたかは彼女の名誉のために、秘密としておいてくれ」
と、追及を突っぱねた。
「フゥン……」
何か思うところでもあったのか、少し遠くを見るタキオン。
真相はというと、たまたま「オトモダチ」と喋っていたカフェに遭遇し、
その「オトモダチ」にトレーナーが喋りかけたところ、意外と軽い口だったのが原因である。
まあ、擁護するなら、カフェ以外にはほぼ見えないタイプだったので、
別の人に認識してもらえたことでテンションが上がってしまったのかもしれない。
あるいは……カフェ本人が、そのことを誰かと共有したい気持ちを汲み取ってくれたのか。
しかし、この出来事でカフェは更に楠トレーナーと距離を取るようになったのは、別の話。
「まあそれはさておきどうなんだね、研究やら学業で時間が惜しいのは分かるが」
「それについては問題ない、必要な栄養素が含まれた食物をそこのミキサーで粉々にして飲んでいるからねぇ」
さも当然かのように、壊滅的状況をあっけらかんと説明する。砂糖たっぷりの紅茶を優雅に飲みながら。
「……そんなものを食事とは言わん、それに飲み干すだけでは顎の力も弱くなる。つまるところ、いくらウマ娘であってもいざという時力が出せなくなるぞ」
思った以上に酷い状況で、思わず顔をしかめる。まあ予想できたことではあったので、カバンから赤い布包みを取り出す。
「それは君のトレーナーとして看過できんな、ということで弁当を用意した」
「勝手だなぁモルモット君、それに箸を使うのも面倒だし、味は保証できるのかい?」
心底疎ましそうに、ついでにワガママまで言うタキオン。
「味に関しては保証する、箸が面倒なら次回からはスプーンやフォークを入れておくよ、もしくは手でも食べられるよう主食はおにぎりにし、主菜、副菜には串や爪楊枝等を用意しておくとしよう」
そんな大層傲慢な振る舞いに茶々を入れるようなことはせず、淡々と対応する楠トレーナー。
案外、相性は悪くないのである。傍から見れば楠トレーナーが大人の対応をしているように見えるが。
パカッと(マルゼンスキーの描かれた)弁当の蓋を開けると。そこには可愛らしい、ぬいぐるみのダイワスカーレットを模したチキンライスと色とりどりのおかずの入ったキャラ弁だった。
「何故キャラ弁、しかもスカーレット君なんだい?」
「マンハッタンカフェにしようとも思ったんだが、あの黒を表現するのが難しくてな、急遽変えたのだ、どうぞ食べてくれ」
「聞いたのはそこの点ではないのだが……」
そうしてトレーナーは箸でまずにんじんグラッセをとり、タキオンに差し出す。それをタキオンはさも当然のように食べる。
「あー、んっ。ムグムグ」
「どうかね?」
たっぷり数秒咀嚼すると、喉を鳴らして嚥下する。一拍おいてもう一度タキオンは――んあ、と言うように――口を開けた。そこにトレーナーは箸につかんだ食物をまた差し出す。そうしてそれを繰り返しているといつしか弁当の中身を全て平らげていた。
「……至れり尽くせりで逆に気持ちが悪いな」
開口一番言う言葉がこれというのも酷い話である。だがトレーナーは機嫌がよく、
「気に入ってくれたのなら何よりだ」
と言うばかりだ。ニッコニコで。
「うん、まあ美味しかったのはそうなんだが……なんというか凄いなトレーナー君は」
「無論だ、トレーナーとしても、自分の肉体の維持のためにも食事には気を遣っている」
その時間が苦痛であることはあってはならん、という持論がある。とトレーナーは語る。
「それが例え極度の効率主義者であってもだ。それと食事は目でも楽しむものだろう?だからキャラ弁にしてみたのさ」
先程の自分の疑問に答えつつ、声色が心底嬉しそうなトレーナーを見て、まあありがたかったよ、ごちそうさま。と感謝を述べる。
「とまあそれはそれとして、次の弁当のリクエストはあるかね、できるだけ反映しておこう」
「フゥン、じゃあ……」
こうなると、ミキサー食には戻れないだろう。ならここは彼のご厚意に預かろうと、打算的に次の弁当の改善案をここぞとばかりに出すタキオン。
視点は変わって、この二人の様子をコッソリ覗いていた4人が居た。
「へー……もしかして、あの二人、そういうカンケー?」
ヒューヒュー、と小声で囃し立てながらそんなことを言うトウカイテイオー。
テイオー含め4人は縦に並んで廊下の窓の隙間から覗きをしている。
上からスペ、テイオー、マック、ライス。
つまり先程までの様子はバッチリ見られていたということである。トレーナー手製の弁当をあーん、している様を、だ。
「ちょっとテイオーさん、もうやめましょう、こういうことは……」
「ここまで見ておいてそれはないでしょマックイーン?」
「ぐ、それを言われると困りますわね……それにしても何故タキオンさんは……フラッグのトレーナーさんに、あ、あーんとやらをさせていたのでしょう……?」
「そりゃもちろんあの二人がさ……」
「あのさっきのお弁当、なまら美味しそう……!」
「タキオンさんとお兄さま、二人ってすごい仲良しさんだったんだね……!」
「チョット何処ニ感心シテンノサー……、コンナノニキヅカナイナンテ、ヤッパリミンナハ子供ダネー!」
「ちょっとうるさいですわよテイオーさん……!お二人にバレてしまいますわ……!」
スピカのコンビがわちゃわちゃとしている中、お弁当に釘付けのスペ、仲睦まじい二人に感心を抱くライスと、何やら全員、向けている眼差しが違うみたいだが……
「そこでさっきから見ている4人、スペシャルウィーク、ライスシャワー、トウカイテイオー、メジロマックイーンよ」
「はわ!?」
「ひゃい!?」
「エェッ!?」
「ひえっ!?」
そう呼ばれ、驚きの声を上げる覗き見ウマ娘たち。どうやら最初からバレていたらしい。
「どちらかに用があるのか、空気を読んだのか知らんが、こちらの用は済んだ、入ってもいいぞ」
そうして4人はバツが悪いようにトレーナー室に入ってくる。それもそう、特に用はなかったのだから。
「いやー特にこれと言って用事は無いんだけどさ、エヘヘ、たまたまこの4人ここに居合わせたってだけでー」
「そうか、私の早とちりだった訳だな。まあ覗きとは感心しないが」
「「「うっ」」」
テイオー以外の3人は痛いところを突かれた、といった感じで顔を背け押し黙る。
しかしテイオーはニヤニヤしながら楠トレーナーたちを見ている。
「ねね、フラッグのトレーナー!それと……アグネスタキオン!二人はー、もしかして付き合ってるのかな!?」
「ちょ、テイオーさん!?」
なんだかんだ年頃の娘、同室のマヤノトップガン共々色恋沙汰には目ざといテイオーはすかさずそう聞いてみた。
そう言われ、楠トレーナーはフムン、と、タキオンはほぉう、と言いながら一瞬顔を見合わせ、テイオーに向き直ると、
「「それはないな」」
「即答っ!?じゃあなんであんなことしてたの?」
あんなことというのは間違いなくさっきのアレだが、下らんと言わんばかりの呆れ顔を二人はしつつ、
「アグネスタキオンの世話をするのは私の役目だからだ」と楠トレーナーは言い、
「私の世話を焼くのはトレーナー君の役目だからだ」とタキオンは言う。
「息ピッタリ!?」
「「それはそうだ、まったく、勘違いも甚だしいな」」
つまり、トウカイテイオー、君が思っているような関係ではないということだ。と楠トレーナーは断言する。
それを首肯するように頷くタキオン。
「ふ、ふーん、そうなんだ……なんかごめんなさい……」
分かればいいさ、と安堵しつつも半ば怒りを込めて吐き捨てるように言うタキオン。
ここでテイオーは閑話休題と言わんばかりに話題を転換する。
「ところでフラッグのトレーナー、なんで胸光ってるの?」
「彼女の薬の副作用だ」「ヘ、ヘー……」
それ以上は何も言えなかったが、ひたすらにヤバいと言うことは分かった。色んな意味で。
なるほど、これがうちのトレーナーの言っていたフラッグの要注意トレーナー、楠薫か。テイオーは自分のトレーナーの言っていたことを言葉ではなく心で理解した。
「やれやれ、見られて困るものではないが、こう見られていた、と言われると今後困ったことになりそうだ。根も葉もないこと言われるぞトレーナー君」
確かに。ただでさえ他のトレーナーやたづな秘書のマークを色々な意味で食らっている上、教え子に手を出すようなクソ下衆野郎、のレッテルを張られるのは今後のトレーナー生活に支障が出る。
なので、
「フムン、なら名札に『タキオン世話焼き係』とでも明記しておくとしよう」
そんなことを言うトレーナー。どよめくウマ娘たち。こいつの踏み込めるボーダーラインというものは、他の一般的な常識と合致していないのである。
「……いやそれはやめてくれ、流石の私にも恥じらいはあるんだぞ」
少々赤面しつつ反対するタキオン。
「そうか。なら木を隠すなら森の中という、チームフラッグの面々全員に弁当を配ればいい、そうすれば角は立つまい」
つまりチームの栄養管理を個々のウマ娘に委ねるのではなく、全員トレーナーが管理していることにすれば、というものである。これなら、二人は恋人、などといったトンデモなうわさは立たないという訳だ。
「代案があるならそちらを先に言ってくれたまえ……待て、さっきのは本気だったのか?」
「冗談はあまり言わん」
タキオン及びここに立ち会わされたウマ娘たちがその言葉に恐ろしさを感じていると、
「そいつは名案だなトレーナー!」
そんな発言と共に、突然のゴールドシップの登場。
しかも室内からである。潜伏でもしていたのだろうか。
「いつから居た、ゴールドシップ」
トレーナー以外は驚いた。彼女は笑いながら、
「ホホホ、ワテクシは面白そうなことがあるなら例え学園の中、電子レンジの中、深海の中!果ては焼きそばにでもどこにでも遍在するぜ!」
「フッ、はた迷惑な奴だ、たちの悪い神か?」
ゴールドシップの独特な世界観にラグなくついていけるのは、トレセン学園と言えど、この楠トレーナー以外そうは居ないだろう。
「神ならおねんねの最中だぜ、八百万の名を持つこのゴルシちゃんが言うから間違いない!」
そんな自信満々で更なるカオスを生み出すゴールドシップの調子にここの空気が飲まれていく。
「ところでなんで光ってんだ?ゲーミング大胸筋?それともウラニウムか?」
「そんなところだ、可視光線ばかりで放射線はそれほど発生して無いだろうがな。被爆は困る」
おーすげぇ、スーパーミュータント爆誕じゃん、と一瞬にして混沌とした状況を作り出す二人、
テイオーはこの両者の親和性に眩暈を覚えた。すかさず支えるマックイーン。
「テイオーさん、大丈夫ですの?」
「う、うん」
ぐったりと、マックイーンに体重を預け、テイオーは答える。
「まあ、いきなりこの空気に当てられたのです、仕方ないですわ。それにこの空間には慣れておいた方が後々楽ですから、いい経験かもしれませんね」
「な、慣れてるんだねマックイーン……」
「いつもゴールドシップさんに付き合わされて、慣れない方がおかしいですわ」
フンッ、とするマックイーンに可愛さを覚えつつ、尊敬できる点が増えたところで、はて、よそのチームがいつまでもここに居ていいのかと思っていると、楠トレーナーが話を続けてしまったため、テイオーたちは退出のタイミングを失った。
「話が逸れたな。とにかくだ、アグネスタキオンの食生活、その他諸々の面倒を見るとするなら、不都合が起こることが今回から予想できた。そもそも下心もないが、このカモフラージュの為に『チーム全員の栄養管理をしている』というカバーストーリーで行くとしよう、楽しみにしておくといい、特にスペシャルウィーク」
「え?私ですか?」
いきなり名指しで呼ばれ、疑問に思うスペ。と、
「失礼」「えっ、ええ!?」
そう言うと楠トレーナーはスペの脇に手を入れ、よっ、と身体を持ち上げる。
すぐに降ろされたが、嫌な予感がトレーナー室の全員に走った。
というかそもそも断りを入れれば触っていいと未だに思っているのだろうか、このトレーナー。
「あ、あの……なんでしょう」
今に始まったことでもない上、あまりに唐突で責める気にもなれない、そんなことよりこれからこの男の口から発せられるだろう言葉に怯えるスペはそう言うことしか出来なかった。
「どうやら君の食事制限は上手くいっていないようだしな、目視だが多分
やはりというべきか、いや、それ以上に具体的な数字を出されたことにもショックだったのだろう。ピシッ、という石化でもしたような音がスペから聞こえた。
「取り敢えず量を減らしたが、おおかた夜中に空腹で起きて食べていたり、もしくは反動でいつもより昼食等が更に多くt――」
「へ、へへへ変態ぃいいいい!!!!」
バキィイイッ‼「ぐおおおおッ!!!!?」
フルパワーのラリアットを顎にぶちかまされ、床に沈む楠トレーナー。
が、慣れたもので、テイオーとライス以外は呆れたようにトレーナーを見ていた。
ただ一人、ライスは駆け寄った。そしてテイオーは戦慄した。
「す、スペちゃん!?」「な、ななななんで増えた体重知ってるんですか!?」
テイオーは遅いと分かっていてもスペを制止しようと彼女の身体を掴むが、それを意に介さずスペは質問をぶつける。ヒトガコンナコトニナッタラシャベレルワケナイデショーと内心思っているテイオーだったが、
ムクリ「言っただろう、目視だと。決して体重を図っているところを見たわけではないが、どうやら当たっていたらしいな」
「うぇええ!?」
さも当然の様に起き上がる楠トレーナーに更なる驚きを覚えるテイオー。
「え、え、大丈夫なの!?ととトレーナー!?」
純粋に心配しているテイオー。それもそうだ、普通なら重傷、最悪死ぬほどの重篤事故。いや傷害事件のはずなのだから。
しかしそこは我らが(自称)グラハム・エーカー。なんてことはない。
「ああ、この程度問題ない。この身体、人呼んでグラハム・スペシャル!」
「ワ、ワケワカンナイヨー!」
グラハム・スペシャルとは……?とここにいる全員の思考が一致したりもしたが、彼は本当に無事である。
「まあとにかくだ、食事量をただ減らすというのは良くないな、スペシャルウィーク。痩せるならば、必要な最低限の栄養は補給した上でそれ以上の摂取を減らすべきだ。それに君たちウマ娘の体調管理も私の仕事の内、心配事や分からないことがあるならば相談してほしい」
立ち上がりつつここにいるチームメンバーに言う楠トレーナー。
しかしそれは普段の行いが悪いせいでは?と思ったが、誰も言わなかった。
「うう、分かりました……でも体重を皆の前でばらさないでくださいよ……」
「そうですよフラッグのトレーナーさん、デリカシーにかけています。それに男性がむやみに女性の身体を触ることも良くないことです」
「失敬、断りは入れていたのだが」
「だからそう言うことじゃねえって言ってんだろクソボケトレーナー!」
マックイーンに咎められ、ゴールドシップに関節技を極められる楠トレーナー。
「――お、お弁当、楽しみにしてるね!お兄様!」
「ああ、期待していてくれライsゥウグググ」
「どうやらまだ反省が足りねえみてえだなこのド変態が……」ギギギギ
ギブアップだゴールドシップ!と床を叩くトレーナー。
この目まぐるしい展開から置いていかれているテイオーは、
目の前の光景について、考えるのをやめた……
モロ素人知識なのでまた失踪
登場人物多すぎたってそれ一番言われてるから(自虐)