Bright Azure ── 輝ける碧【DQ5主フロ】   作:サクライロ

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#4. 炎の指輪

 治癒魔法を施したアンディを残して歩くこと十数分。

 洞窟内の熱気はますます強くなり、熱風が絶えず頰を打ち付ける。ゴォオン、という不気味な音が常にこだまする中、僕達は壁面からも弾け飛んでくる溶岩からお互いを庇うように身を寄せ合いながら進んでいった。

「これは、厳しいですな……」

 奥行きにして十メートル程度、僕達の前に横たわった溶岩の沼を眺め、ピエールがそう独りごちた。

 どこからか流れ着いたらしいその溶岩はまだまだ高熱を宿し、石を投げ込めば一瞬で焼け焦げる。と言っても深さは当然さほどなく、おそらく掌の厚さ程度のものだが、生身で触ればただでは済まないだろう。更には床下から溶岩が噴き出しているらしく、時折場所を変えながら赤い火柱が上がる。

 幾らかは溶岩から顔を出している岩場があるものの、間隔が空きすぎてそこを頼りに渡るには心許ない。

「アンディが言っていたのはこれのこと、だね」

 呟くと、傍に並んだピエールがこちらを見上げ、意味ありげな笑みを滲ませて答える。

「うむ。──先程はまさか、あるじ殿のあのようなお姿を拝見できようとは思わなんだ」

「っ……‼︎ ピエール⁉︎」

 唐突にさっきの話題を蒸し返され、僕は思わず全力で狼狽えた。見れば、ホイミンにガンドフまで、どこかにやついた目で僕をしげしげと眺めているではないか。

「やめてくれって! 本当、そういうのには慣れてないんだから……!」

「またまたぁ〜。『ふろ〜らさんが、ほしいぃっ!』だって〜、ごしゅじんさま、かぁっこよかったぁ〜♪♪」

「だからやめてくれってば! 本当にもう、思い出させないでくれよ‼︎」

 ただでさえ暑いのに、僕だけがますます暑苦しく体温を上げている気がする。ホイミンは楽しそうに盛り上がっているし、ガンドフは生暖かい一つ目で僕を眺めながら何やら頷いてくれているし。

 ああ、穴があるなら全身丸ごと埋まりたい。今なら丸焼きか煮込みにでもなりそうだけど。冷やかしとはいうが、こんなの全然肝が冷えない。

「ははは。まこと、あるじ殿は初心(うぶ)なお方ですなぁ」

 そして、誰よりも愉快そうに僕を見上げてくる頼れる相方を、僕は赤面した顔を腕で覆い隠し、悔しさを込めて精一杯睨みつけた。

「……どうせ僕は、まだまだ青いよ」

 どれほどの年月を生きてきたのかわからないが、恐らくは僕よりずっと経験豊富であろうスライムに跨ったその騎士は、すっかり不貞腐れた僕の様子にも温かな眼を差し向ける。

「良いのではないですか。あるじ殿は、もう少し貪欲になった方が良い」

「……十分欲張りだと思うけどな。それより、……今更だけど、僕の私情でこんな危険なところに付き合わせて……ごめん」

 僕の言葉に、三者三様に僕を冷やかしていた面々はきょとんと顔を見合わせる。

「きにしなくていいのに〜。ホイミンはたのしいよ!」

「ま、それ以上の収穫がありましたしな。拙者も他の者たちも、あるじ殿のための危険など微塵も厭ってはおらぬ。安心なされ」

 収穫とは何だ、とちらりと引っかかりはあったが、頼もしくも優しい皆の言葉に、ほんのりと胸の内側が温まるのを感じた。

 ──本当に、僕は仲間に恵まれて、幸せ者だ。

「さて、……それで、どうしますかな」

 溶岩の沼に今一度視線を戻し、ピエールが今度こそ難しい声色で唸った。

 僕も暫し、沼を見つめていたが。後ろから僕を見守っているガンドフを振り返り、優しい眼差しに向かって問いかける。

「ガンドフ、まだ冷たい息……いける? 手伝ってほしい」

 ガンドフはもちろん、というように穏やかな瞳で頷く。ほっと息をついて皆を向き直り、一人一人……一匹一匹の眼を覗き込みながら、言葉を紡いだ。

「──ここからは、僕一人で行ってくる」

「あるじ殿!」

 さすがに叱責する声が飛ぶ。苦笑いを嚙み潰し、真っ直ぐに諌めてくれる相方に視線を返した。

「全員でここは越えられないよ。今から他の道を探してもいいけど──この洞窟では消耗が激しすぎる。ガンドフ、僕の服と、膝から下をできるだけ冷やして。それで僕が走って渡る間、こちら側だけでいいからなるべくあの沼を冷却してほしい。……僕が渡りきったら、全員洞窟の外に出て待機していて。僕はリレミトがあるから、大丈夫」

「それだけで何とかなるものですか。せめてホイミンをお連れくだされば。拙者とガンドフはここでお待ちしますゆえ」

「ありがとう。……でも、正直この先絶対に守りきれるって自信がないから」

 僕の返答に、ピエールが言葉を失ったのがわかる。無謀だ。解ってる。でも、本当にこれは勘でしかなかったけれど──この奥に僕を呼ぶものがある。否、この洞窟に入った瞬間から、ずっと何かに喚ばれている。あの向こうから。

 行かなくてはいけないと、本能が言っている。

「……あるじ殿も大概、頑固者でござるな」

 長い長い逡巡の後、苦々しく呟いたピエールに、僕も黙って苦笑を返した。

「では、渡られる前に一度ホイミンをあちらに。溶岩による損傷はなるべく抑えさせましょう。渡り終えられましたら、拙者らは退避します」

「それで十分だよ。わがままばかり言って、本当にごめん」

 どこまでも心強い仲魔達の提案に、僕は感謝以外の念を持てない。

「……礼は、昨日以上の馳走でもご用意頂くとしようかな」

「わ〜! ごちそう! ごちそう!」

 何故か魔物である彼らも人間の作る美味い食事には目がないらしい。どこかで聞いたようなはしゃいだ声に、緊張と熱気からくる汗を顎から滴らせながらも僕は思わず笑う。

「……善処させてもらいます」

 

 

 

 このうだる熱気の中、冷気を維持することは簡単ではないだろうに。

 外套の裾はできるだけ短くくくり直し、念の為、持っていた手拭いを裂き、なけなしの水を含ませてから足に巻きつける。その上から靴を履き直し、ガンドフに冷却を頼んだ。汗で張り付いた服が薄っすら凍りつくほどに冷やされ、その息が沼を冷やし出すや否や、わずかに見える岩場を狙って全力で駆け出した。

 どうしたって足首まで取り憑いてくる強烈な熱。構ってなどいられない。立ち止まったら一気に呑まれる────

「ベホイミ! ベホイミ〜!」

 疾走する僕に並び飛びながら、ホイミンが必死に回復魔法をかけてくれる。膝にも及ぶ熱による痛みが瞬時に軽減され、また焼け付くのを何度も何度も繰り返す。

 ──岩場の上は却って危ない。このまま抜けた方がいい!

 溶岩を避けようと思ったが、初めの一蹴が思った以上にぬるついた。不安定すぎて即座に経路を変える。岩場のほど近い浅い地面だけを蹴ったその直後には踏み抜いた場所から火柱が上がり、僕の髪をちり、と焦がす。あと少し、あとわずか。あと三歩というところで、渾身の力を振り絞り向こう岸へと跳び込んだ。ガンドフの息がさすがに及ばぬこちら側に肩口から激しく転がり込み、投げ出されてほどけた外套が溶岩を掠った部分だけ、濁った音を立てて燃え尽きた。

「ごしゅじんさま‼︎」

 すぐに追いついてきたホイミンが急いで僕の身体に触手を伸ばし、火傷の治癒を開始してくれる。

「あ、りが、とう」

 薄くなった空気を必死に取り込みながら、ホイミンを仰ぎ礼を言った。何度か大きく咳き込んで肺の空気を入れ換える。その間にも、激しい痛みに痺れるばかりだった脚がみるみるうちに癒えていく。火傷が深く侵食する前にホイミンが対処してくれたお陰だった。

「──ありがとう、ホイミン。……もう、大丈夫」

 靴と、肌にはりついた手拭いを一度取り、両脚を良く摩る。感覚が戻ったことを確認して。僕は懸命に回復魔法をかけ続けてくれるホイミンのぷよぷよした体をそっと撫でた。

 くすぐったそうに少しだけ笑い、「ほんとうに、ひとりでいくの?」とホイミンが改めて問いかける。

「うん。……心配かけてごめんね。皆で、外で待っていて」

 そう簡単には、死んだりしないよ。

 僕の決意を受け取ったと言うように、ホイミンはひとつ、大きく僕の周辺を旋回した。念入りにトヘロスを施して、名残惜しげに僕の元を離れていく。

「──きをつけてねぇ!」

 ふよふよと飛んでいくホイミンと、未だ煮えたぎる沼の向こう岸で僕を見守ってくれている仲魔二人に見えるよう、僕は大きく手を振ってから皆に背を向け小走りに駆け出した。

 

 

 

 

 

 息をするだけで、内臓が焼かれそうだ。

 そう、思うほど洞窟の深部はただ熱かった。もう自分が汗をかいているのか、ここに入り込んでどれだけ時間が経ったかも分からなくなっていた。先ほど濡らした、乾きかけの手拭いに聖水を少量染み込ませ口元に当てる。こうでもしないと熱だけでやられてしまいそうな気がした。

 いよいよ奥深くに到達すると、道は今にも崩れそうな石段に変わる。細く連なったその石段の遥か下方にはぐつぐつと煮えたつ溶岩の海。落ちたらひとたまりもない。

 ここに至るまでにも何度か魔物を退けてきた。まだ魔法は使える、剣も振れるけれど、戦闘のたびに体力が大幅に削られていく感は否めない。

 ──もう少しなんだ。僕を喚ぶ、気配まで。

 この高温の地面で靴はほとんど役に立たず、足の裏はもうずっとじくじくと痛んで感覚がなかった。一応たまにホイミをかけながら進んできたけど、付け焼き刃でしかなかったらしい。立ち込める熱気に揺らめく空気の向こう、祭壇らしきものが見えた瞬間、耳障りな嗤い声と共に人型の焔が二体、目の前に躍り出た。────

「────っ、シルフの刃よ‼︎」

 咄嗟に詠唱し魔法をぶつけた。一体が怯んだ瞬間その懐に潜り込み、剣を深く薙ぎ払う。ぐらついた焔が僕に覆い被さり、反射的に膝と剣の柄で弾き飛ばす。──もう一体。息をつく間も無く身を伏せて焔の拳を躱し、その腕を斬った。叫びながらよろめく焔をすかさず蹴り飛ばし、眼下の溶岩の海へと屠る。

 息が、上がる。この程度の戦いでも消耗が厳しい。怪我はなかったはずだが、額に貼りつく前髪を腕でぐいと拭ったらどこからか腕にべとりと赤いものがついた。──いつの間に。急ぎ、塗り薬にした薬草を取り出し傷口を手探りで探しあてて塗り込んだ。

 少ししたら乾くだろう。ほんの一呼吸の間、疲労を吐き出すように瞼を閉じ、深く息をつく。

 こんな冒険をしたなんて、あのひとが聞いたら卒倒しそうだ。

 何となく、瞼を閉じたら先日の広間での彼女が思い出された。切実さしかない、いっそ悲愴なほどの声で「ご自愛ください」と叫んだ彼女。決して誰にも、こんな危険を冒されることを望んでなどいなかった。……僕と目があって、不安げな表情を覗かせた彼女。彼女がもし、ここにいたら何と言ってくれるだろう。

(……莫迦だな。叱られたい、ような気分になるなんて)

 子供か、と自嘲せずにはいられない。これではまるで、構って欲しいばかりの子供じゃないか。

 心配して、揺らいで欲しい。僕を想ってその心を震わせて欲しい。僕がいない時いつでも思い出せるように、あの澄んだ心に僕の存在を深く刻んで。

 指輪なんて関係なく、僕のことを意識して欲しい。

 そんなもの、どうしたら手に入れられるんだろう?

 伝承の指輪を探す方がずっと簡単だと思えるほど。

 もう一度、息を吐いて立ち上がる。祭壇があった。ならばきっと、そこが指輪の在り処だ。その証に、喚ぶ気配がますます近くなっている────

 

「……っ!」

 

 良く避けられたと思う。溶岩の中から何かを投げつけられたのだ。翻って見れば、むくりと山のような溶岩が三峰、溶岩の中から立ち上がる。

 ──番人がいたのか!

 唸るような奇声を発し、その魔人は流動的に襲いかかる。咄嗟に退いて何とか魔法を放つが、あれでは近づいて斬ることはできない。魔法だけで凌げるか? 否、そこまでの力は残っていない。どうしたら。

 斬れるのはどこだ。懸命に思考を巡らせる。溶岩。どろどろ。固められれば、でも。

 魔人の一体がその口を大きく開けた。次の瞬間、火炎が辺り一体に放たれる。さっき投げつけられたと思ったのは焔の玉だったのか、と辛々逃れながら思案する。

 ──まずい。どんどん祭壇から離されてる。

 密かに舌打ちするが、追ってくるのはどうやら一体だけだった。ならば相手できるかもしれない。手元に残った聖水を二、三本懐から抜き取り、握りしめて間合いを取る。息を、殺して。たった一筋の機会を見失わないよう。

 魔人が、頭をぬっと擡げて、その口を大きく開く────

 瞬間、地面を強く蹴り駆け出した。呪文を詠唱しながら火炎が放たれた瞬間大きく地を蹴る。口を開けたままの魔人にバギマの刃が容赦無く襲い掛かり、悶絶するように大きくうねった魔人の頭に瓶ごと聖水をぶつける。狙い通り額に深々突き刺さったそこからみるみる固形化していったのは水分のせいではないだろう。聖水に付与された微かな光魔法の力か。ほとんど同時にバギマの反動を利用して近場の岩に駆け上り、宙高く躍り上がるとのたうち回る魔人の脳天目がけて勢いよく剣を振り下ろした。

 ──固まれ‼︎

 着地場所がなく魔人の頭を踏みしめた靴の裏が蒸発するような音を立てたが、気にする余裕は無い。渾身の力で父の剣をめり込ませた。深く、顔の半分ほどまで沈ませた剣にさらに力を込める。止まるな。このまま斬り裂け、このまま‼︎

 ぶぁ、と手元にかかる圧がいっぺんに消失する。と同時に僕は溶けた魔人の頭から投げ出される格好で落下していた。やったか、とまずい、がほぼ同時に脳裏に飛来する。──いや無理だ!

「ごしゅじんさま‼︎」

 全ての思考が走馬灯の如く一瞬だった。柔らかすぎる身体が僕の身体に目一杯ぶつかって落下場所を変えてくれる。溶岩の魔人が崩れて消えたその後にできた溶岩地帯の、ほんのわずか隣の地面に僕の身体がどさりと音を立てて転がり落ちた。

「────っ、ホイミン⁉︎」

 すぐさま身体を起こし、たった今助けてくれた大切な仲間を呼ぶ。僕にぶつかってくらくらしているらしいホイミンは少し上空でふわふわと漂っていたが、僕の声にはっと我に返り泣き声交じりに飛びついてくる。

「うわ〜ん、ごしゅじんさま! よかったぁ〜‼︎」

「どうしてここに……! 一人で来たのか? 怪我はない⁉︎」

 手に触手を取り合い、泣きつくホイミンと真剣に問い質す僕。側から見たら滑稽な風景かもしれない。それでも僕達にとっては万感の再会でしかなかった。

「えっと、みんなでもどってたんだけど、とちゅうであのおにいさんにあって……あっ、おにいさんがまたやけどしちゃったから、しらせにきたの。ホイミンのまほうだけじゃなおらなくて、ピエールたちがおにいさんつれてさきにもどるって。キメラのつばさつかうねっていってた!」

 ほんわか、癒し系のホイミンからとんでもない事実を聞かされ、疲労困憊の身体から血の気がざぁっと勢いよく引いていく。

「ホイミンの魔法で治らないって……あの人、一体どんな無茶を……!」

 動揺を抑えきれず僕が唇をわななかせると、ホイミンはひどく居心地悪そうに──申し訳なさそうに、もぞもぞと触手をくねらせながら続けた。

「……あのね、……ごめんなさい。ホイミンたちが、あのようがんのむこうにごしゅじんさまひとりでいったよって、いっちゃったの。そしたら、おにいさんがはしりだしちゃって……」

 ────ああ。

 そんな風に言われたら。

 というか、そんなことを聞かされたら。

「それ、────僕のせい、じゃないか……」

 自戒の言葉は、知らず口から溢れ行く。

 別に、誰のことも怒ったりしないけど。叱ったり、しないけど。

 僕の勝手で、誰も傷つけたくない。それだけなのに。

 どうしてこうなってしまうんだろう。

 その場に尻餅をついたまま、力なく肩を落とす。そんな僕を追いかけて、ホイミンがおろおろと覗き込んでくれた。

「……ごめんね。心配ばかり、かけてしまって」

 優しい人達、優しい仲魔ばかりだから。僕の周りは。

 たまにこうやって、心配してもらえることが怖くなったりするんだ。

「すごいな。ホイミン、一人で……助けに来てくれたんだ」

 ぷにぷにの肌をくすぐると、ホイミンは照れ臭そうに触手を丸めながら笑った。

「ホイミンだって、ごしゅじんさまのなかまだもん」

 そんな表情に、その言葉に、ひどく泣きたいような気持ちになる。

「──ありがとう。……すごく、助かった」

 ホイミンは僕の言葉に文字通りのとろけるような笑顔を返し、早速とばかりに身体中の損傷を治癒しはじめてくれる。

「りんぐ、あった?」

 今までの疲労感が嘘のように軽くなるのを感じながら、僕はすっかり距離のできた祭壇に視線を投げやる。

「あと二匹斃したら、多分ね」

 

 

 その後はホイミンが補助してくれたので、はじめの一体より楽に片付けることができた。

 脳天から核を狙う作戦は功を奏し、ぎりぎり残っていた水分──聖水が大いに役立ってくれた。僕にヒャドでも使えればもう少し楽だったかもしれないが、風魔法の適性しかないのだから仕方がない。先ほどのように一体ずつおびき出し、今度は周りの足場を確認しながら脳天を冷やし貫く。ホイミンが傷と体力を回復してくれたおかげで手元が狂うことも足を滑らせることもなく、落ち着いて捌いていける。

 三体目の魔人を沈ませたその瞬間、祭壇の中心に眩しいほどの紅い光が宿った。

 光は一瞬で紅蓮の炎へと変わり、轟音と共に天井まで届きそうな火柱を噴き上げる。すわ崩れるか、と身構えたが、やがて火柱がふっと消失したその跡に、小さく輝くものが残されているのが見えた。恐る恐る、焔の吹き上げたその場所を覗くと──赤と呼ぶにはやや暗い、まるで夕闇のような。不思議な色味の指輪が岩の中に嵌っていた。

 僕が触れると、指輪は誘われるように岩の中からぽろりと零れ落ちこの掌に収まる。

 この洞窟で、ずっと僕を喚んでいた不思議な気配も、いつの間にか消えていた。

「……やった、やったぁ! ごしゅじんさま〜!」

 殆ど茫然としている僕の代わりに、ホイミンが指輪を握る掌を覗き込み、周辺をぐるぐると旋回しながら踊り上がる。

 掌の中のリングをよくよく眺めれば、小さな朱い宝石がひとつだけ埋まっている。その石の中、消えない炎が音もなく揺らめいているのが見えた。しかして炎のリングは先ほどの火勢が嘘のように、掌の中で穏やかな温もりを湛えていた。

「……戻ろう。アンディが心配だ」

 喜びを噛みしめる間も無く、そう呟いた僕の肩にふわりと停まりホイミンが頷く。僕の魔法の圏内にホイミンが居ることを確認して、僕はいざ、リレミトを唱え死の火山を一瞬で脱出した。

 その口で、次いでルーラを唱える。

 恋しい人と、好敵手が待つ街を目指して。

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