一芸だけじゃ生き残れない   作:冥々

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ふとした時に過去はやってくる。

 

〝Under・The・Virtual World〟

 

 

【このプロジェクトについて】

 

〝Under・The・VirtualWorld〟は日本語訳すると〝仮想世界の下で〟となります。

我々Vtuber業界は発展途上で成長の伸びしろが他のYoutuberよりもあり、可能性に満ち溢れています。その中でも特に〝ゲーム・歌・バラエティ〟の三つは創意工夫を加えれば、他よりも大きなアドバンテージを獲得できると信じています。その切っ掛けを作ろう又はこの業界を盛り上げようという〝Virtualサンシャイン〟と〝AirLive〟共同プロジェクトの趣旨です。

 

 

先週と同様に枦山さんに引っ張られてショッピングモールへと向かう道中に、私服を買う事になった切っ掛けであるプロジェクトの台本を手渡されたので、一二ページをサラサラと読んでいた。

 

「何かすごいプロジェクトですね。発案者は誰ですか?」

「あぁ、確かウチのトップと〝AirLive〟のトップが会食していた時に思い付いたらしいです」

 

完全に酔った勢いでプロジェクトを立ち上げたんですかね?という発言を呑み込んで、別の事を枦山さんに尋ねた。

 

「私がこのプロジェクトに参加する事はわかりました。では、何をするんですか?」

 

そう枦山さんに振るとピシッと背筋を伸ばして、黙りこくってしまった。あんなにも私が投げた話を返してくれてた枦山さんがこうも黙りこくってしまったのは、恐らく酔った勢いで立ち上げたもんだから、プロジェクトの荒筋と参加ライバー、開催日しか決まってないスッカスカの台本しか出来ていないのだろう。

 

「いや、今言った事は気にしないでください」

「.....それは、こちらとしても助かります」

 

そうこう話している内に目的地であるショッピングモールに辿り着いた私達は、一先ず中に入って直ぐ側にあった服屋へ駈け込んで行った.....というより、枦山さんに引っ張られながら入店した。

 

「あのぅ.....そんなに焦らなくても沢山服屋があるんですから、引っ張らないで下さいよ」

「ぶっちゃけ言うなら私の横でジャージ姿の人と歩きたくないというのもありますが!その容姿でジャージ姿なのが何よりも許せないです!」

「?」

 

枦山さんが私の容姿と服装に憤慨しているけど.......そんなに酷いかなジャージって?普段の髪の毛と肌の手入れは最低限しかやってない。それにジャージは着やすいし脱ぎやすい為、年がら年中着ていたことにより袖の部分が何個か解れていることか。ジャージの上下組み合わせが酷いって意味かな?

 

「.......その顔は理解してませんね?まぁいいでしょう。今日は花沢さんを着せ替え人.....ゴホン!ちゃんとした服装にするのが目的ですから」

「今、着せ替え人形って言いました?」

「言ってませんよ」

「いや、でも....」

「言 っ て ま せ ん」

「.......ハイ、イッテマセン」

 

枦山さんから発せられている圧に屈した私はカタゴトで返していると、大きな声で私達__枦山さんに話し掛けてくる声が聞こえてきた。

 

「あ!夕姉ちゃんだぁー!おひさ!」

「ん?あれ.....ゆ、美月ちゃん。どうしてここに?今日あるんじゃないの?」

 

振り向くとそこには金髪に焼けた褐色肌で露出の多い服装の如何にも自分はギャルです!と言わんばかりの女子高生が私達に近づいて来ていた。

 

「ここで会うなんて奇遇じゃん。因みに隣にいる子は......夕姉ちゃんが担当してる子?」

「あ、そうだよ。彼女は今度行われる〝Under・The・VirtualWorld〟に参加するライバーの一人だよ。八森さん....こちらの美月ちゃんは『AirLive』側で参加するライバーさんですよ」

「あ、よろしく」

「うん!よろしくね!」

 

陽の者でもVirtualYotuberになるんだなぁ.......偏見か、それは。でも、目の前にいる彼女の声.....何処かで聞いた事がある気がするんだけどな。

 

「因みに八森さん?はどの分野で参加するの?私は歌で参加するよ」

「私は....ゲームですね」

「そうなんだ!私、ゲームはちょっとね?」

 

何かあったの?と聞きたかったけど、初対面の人にそこまで距離を詰めていくのは私の精神的につらい部分があるので辞めた。

 

「もう一度言うけど、今日はスタジオで生配信するんじゃなかったけ?」

「ああぁ!!忘れてたぁ~~~!じゃあね、また今度ね」

 

そう言って駆け足で服屋から出て行った背中が遠くへと消えていくのを見ていて思い出した。

 

「(思い出した!小学校の時、ポケモンでボコしちゃって仲違いした.......須原、須原由紀さんだ。)」

 

彼女が立ち去った後で思い出すのは、タイミングとしてはちょうどよかった?......かは分からないけど、今後絶対一回は会う機会があると思うからどう接していけばいいだろう。あっちは私が花沢奈々だと気付いている様子はなかったと思う......いや、気付いて欲しくはないな。幾ら小学校の時とはいえ、若干の気まずさは生まれると思うから。

 

「では、花沢さん。私達も今日来た目的を果たしましょう」

「?」

「忘れたんですか。花沢さんの私服を買いに来たんでしょう。ゆきちゃんが来た事で逸れてしまいましたが」

「あぁ、そうでしたね」

「どんな感じの服が好みとかありますか?」

 

十八年人生を歩んできた私なんだが、一回も自分で服を選んで買った事はないだよね。着れればいいや感覚でジャージを買ってたもんだから、どのような服がいいか悪いかは分からないので.....好みあるかどうかを聞かれても困ってしまう。

 

「服装に関してよくわからないから枦山さんにお任せします」

「え!?いいですか!!......なら、私にお任せ下さい。絶対にいい服を見繕ってあげます!」

 

あ、もしかしてまた枦山さんの変なスイッチでも押してしまったのかな。物凄く嫌な予感がしてならない.......だって、傍から見たら性犯罪を起こす手前の不審者並の興奮をしていた枦山さんによる服選びはシンプルなデザインの服からゴシック風のふわふわした服に至るまでの幅広いジャンルの服をあれよあれよという間に、昼過ぎまでに及んだ。

 

 

 

「いやー、偶にはこういうのっていいですね。気持ちが昂ってしまいましたよ」

「それは良かったですね」

 

幾つもの飲食店が立ち並ぶ食事処にて私達は食べ終わった所だった。未だに興奮が冷めやらぬ枦山さんが両手にコーヒーカップを握りしめながら呟いた。そんな彼女に気疲れしている私は、ため息を吐くように返答していた。

 

「枦山さん....私服を買いましたし、そろそろ帰りましょうよ」

「何言ってるんですか!まだそのボサボサの髪を整えてないじゃないですか!」

「いや、それは顔合わせ前日辺りにでも.....」

 

いいじゃないですかと言い切ろうとした時、私の提案_お願いを聞き届けてくれそうにないのを今一度悟ったが......もう少し抵抗してみた。

 

「美容院は予約してないと出来ないって......スゥ、耳にした事があるんですけど......?」

「あ、そんな事ですか。安心してください。ちゃんと予約していますよ」

「へ、へぇ....そうなんですか」

 

抜かりなしと言わんばかりのテンションで話す枦山さんに諦めを通り越して若干引き気味の返事をしてしまう。そんな私を気にも留めず、ガンガン話を続ける枦山さん。

 

「予約した美容院というのがですね。なんと私の友達が実家経営している所なんですよ。あ、勿論腕は保証します。では、行きましょうか」

 

今日一日で枦山さんに対するイメージが大きく塗り替わった一日であり、思い出したくない過去の一端と再会してしまった一日だった。




誤字報告ありがとうございます!

sk005499様  真夏の夜の淫夢様
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