あの日から一週間後。
〝Under・The・VirtualWorld〟に出演するライバーや関係者達と顔合わせする当日になんと盛大に寝坊をかましてしまった。その事を予想していた枦山さんの車に乗せてもらったお陰様でギリギリ集合時間前に何とか間に合う事に成功した。
しかし、『Virtualサンシャイン』と『AirLive』の人達がいるだろう大会議室に入ろうとした時、ふと、不安_もし須原由紀があの後私の事を思い出していたらどうしよう_が脳裏に過る。そこへ車を停めてやって来た枦山さんに声を掛けられる。
「あれ、どうかしましたか?八森さん。会議室の前に立ち尽くしていますが」
「ただ会議室へ入るのに緊張してしまって」
「確かにそうですね。八森さんはがっつりAirLiveさんと絡むのは初めてですからね。ささ、私も一緒に入るので」
「あ、ちょ」
私の背中を押しながら大会議室1へと入ると、既に室内にいるライバーや関係者が一瞬こちらをチラ見するだけでこれといった反応はされなかった。その事に一安心した私は近くにあった空席の椅子に腰を掛ける。
「(ふぅ、やっと落ち着けた。......にしても、須原さんの姿が見えないな。私と同じく参加するんだよね?)」
入室前の懸念事項である須原由紀の姿が見えなかった。あの目立ち易い黒ギャルの恰好だから、室内全体を軽く見渡せばいるかどうか分かりやすい筈だし、逆に私を見つけたら話し掛けて来そうな彼女の事だから駆け寄ってくる人影はなかった。そこで私はいない理由を二つ考えた。それは遅刻かはたまた体調を崩したかのどっちかだろうと予想した。でも、まぁ結局の所....私としては助かったと言えよう。
パンと手を叩いて室内の人達の視線を自分の方へ集めた枦山さんは、軽く咳を込んで話をし始める。
「はい!それでは〝Under・The・VirtualWorld〟の顔合わせを始めたいと思います。一部の遅れて来る人がいますが。『Virtualサンシャイン』のライバー達は私側の席、〝AirLive〟のライバーさん達は私の目の前にいる磯さん側の席に着席して下さい」
そう指示を飛ばす枦山さんに従って、『Virtualサンシャイン』側と『AirLive』側と分かれて並んだ。こうきっちりと並んで見ると、〝こんなにVtuberっているんだなぁ〟と感心してしまう。そんな事を考えている私を置いて、枦山さんはしっかりと並んでいるかを確認している。
「ちゃんと......並べていますね。では、自己紹介をして行きましょう。先ずは私からですね」
その場にいる全員が並べ切ったのを確認し終えた枦山さんは自己紹介へと移って、自分からし始めた。
「Virtualサンシャイン〟マネージャー統括部長の枦山夕です。今日は顔合わせですが、今後を共にする仲間としてよろしくお願いします.....磯さん、自己紹介を」
先週とは打って変わって真面目に挨拶する枦山さんに、小さく拍手する音が響いた後は.....対面に居る磯さん?が自己紹介をし始めた。
「はい、では私の自己紹介をさせていただきます。AirLiveマネージャー統括部長である磯聡と申します。これからもよろしくお願いします」
「ここからは一人ずつ振っていきますので、参加する分野とお名前を言ってください。では、八森さんお願いします」
え?枦山さん正気ですか?こういうトップバッターとしてやるの得意そうに見えます?EP時代もインタビューされるのが嫌で仕方がなくて、毎回試合が終わったと同時にその場を立ち去っていた私がやるんですか!?......はぁ、ここでぐちぐち文句言ってても進まないし、腹を括るとしますか。
「ゲーム分野で参加する八森百夏といいます。よろしくお願いします」
よし!ちゃんと出来たんじゃない?言ってる途中で舌を嚙まなかったし詰まらなかった.......過去一上手くいった自己紹介出来た!これは誇りに思ってもいいでしょ!そんな私を置いて『Virtualサンシャイン』と『AirLive』の自己紹介は順調に進んでいった。
未だに一番上手に出来た自己紹介が出来た喜びを噛みしめている所、会議室の扉がバーンと開いた。
「あ、すいませーん!遅れてしまいましたぁ~!歌分野で参加する小笠美月です!」
そう言って頭を掻きながら室内にトコトコと入って行く須原に、先程までの高揚感に冷や水を頭の上から掛けられたかのようにテンションが急降下した。
「ったく、遅れてくるのは事前に知らせてあるんだ。そんな勢いよく扉を開けて入ってくるな......借り物なんだから丁重に扱って欲しいんだが?」
「まぁまぁ、カッカしなさんな。血圧上がるぞ?」
「誰のせいでっ!........はぁ、もういい自己紹介も丁度お前で終わったしな」
「お、タイミングバッチシだった訳だ!」
『AirLive』側のマネージャーさんが頭を抱えている姿を見ると、普段から問題児として色々やらかしているんだなぁと思った。
「さっさと空いている席に着け」
「はーい!わかりました」
いい返事をした須原は言われた通りに空いている席___私の目の前の席に着いた。あれ?神様。私の事が嫌いなのかな?だがしかし、まだ須原が私の事を小学校時代の事を覚えているとは限らない。
「この前の子じゃん。前にあった時と大分恰好が変わっていたから直ぐには気付かなかったよ~!」
「(よし!)」
私は思わず内心ガッツポーズをしてしまった。お?神様。私の事が好きなのかな?......恐らく須原の話し方からして、先週会った時以前の事は思い出している様子はない。という事は、今後私が触れなければ、思い出さないと思っていいかな?......若しくは予想外の所から来なければの話だね。
「皆さん、こちらへ視線を向けて下さい」
マイクで拡声された枦山さんの声が会議室全体に響き渡り、自然とこの場にいる全員の視線が集まった。
「今日は参加するライバー達の顔合わせとプロジェクトで行う予定のものを端的に言うだけですね」
そう言っている枦山さんの横からスクリーンが上から下へと降りていくのが見えていき、ぱっとスクリーンに各分野で行われる出来事がまとまって映像として映された。
「ゲーム分野は『Apexlegends』、バラエティ分野は『声劇』、歌分野は『メドレー』をやって頂きます。詳細は後程お伝えしますので、お待ちしてください。.......では、今日はここで解散とします。お疲れ様でした」
此処に来てから一時間半程で終わった。会議室から少しずつ退室していく人の背を見ていた私は、少し今プロジェクトについて考えていた。発足してから三週間くらい経っているのに、あんまり進んでいないのはどういう事なんだろう?何かしらの問題でも発生したのかな。......そんな疑問を考え込んでいると、私の背中を勢いよく叩いてくる須原の姿があった。
「どうしたの?そんなに考え込んじゃってさ!まだ先の事なんだから緊張しなくていいだよ?」
「あ、うん。そうですね」
スゥ......落ち着いて私。彼女は思い出していないんだから、テンパる必要なんてないんだと、何度も自分に言い聞かせていた。そんな私の様子を見ていた須原は既視感を覚えたのか質問を投げる。
「ねぇ、先週以外で会った事ってない?違うんだったらいいんだけど」
やっぱり神様、私の事が大嫌いでしょ。