「ねぇ、先週以外で会った事ってない? 違うんだったらいいんだけど」
「はい、そうです。先週に会ったきりですね」
ここで私が『会った事がない』と、断言してしまえばこれ以上は追及がしづらい筈だから、もし仮に小学校の卒業アルバムとかにまだ家にあるならば集合写真を除いたら六年生の時に参加した学校行事の際に撮られた写真が一枚しかなく。しかも、注視しなければ絶対にわからないだろう。
「そっか、ごめんね。急に変な事を聞いて」
「いえ、全然大丈夫ですよ。気にしないでください」
「八森さんにそう言ってもらえると助かるよ」
渋々納得した様子の彼女は腕を組んで会議室から退室して行った。その背中が見えなくなるまで確認した私はほっと胸をなでおろしたと同時に安堵の息を吐いた。
「ふぅ、私も家に帰ろうかな」
周りにいるライバーさん達はだいたい帰っていなくなっているから、そろそろ自分も帰りたいなと思った私は枦山さんへ視線を向けると、AirLiveのマネージャーと話をしており、今すぐ送ってもらえそうにはなかった。此処から自宅まではどれくらい時間が掛かるのかはわからない。一応お金とスマホは持って来ているから、公共交通機関を利用すれば帰れるんだけど、わざわざバスや電車を使ってまで帰るのは面倒くさくて仕方がない。
「でもなぁ、話が終わるのを待つのも怠いし、仕様がない面倒くさいけど帰ろうかな」
このまま枦山さんに一言も言わずに帰るのは、多分いいと思うけど。一応言っておこうかな。普段の配信者として色々お世話になっている訳だしね。
「あのぅ、枦山さん。先に帰っても大丈夫ですか?」
言葉に詰まりながらも枦山さんに声を掛けると、勢いよく私の方へ体を向けて返事を返してくれた。
「すいません。話し込んでしまって、家にお送りいたしますので.では、ここら辺で失礼します」
「わかりました。では、次回お会いできるのを楽しみにしております。お疲れ様でした」
「え?」
思い描いていた展開と真逆の方向へと、進んで行ったことに思わず声を零してしまった。私が想像していた展開としては、了承の返事と帰り道に気を付けるようにと注意を受けるぐらいかな?と思っていた。なのに、こうもあっさりと終わるのは誰だってびっくりするのは当然のことだろう。
「どうかしました?」
「あ、いや何でもないです」
「?そうですか。駐車場の方へ行きましょうか」
びっくりして固まっている私を不思議に思った枦山さんから、声を掛けられたことによりハッと現実へと戻った。そのまま駐車場へと歩いている間、ひたすら枦山さんのあの態度が気になって仕方がなかった。だって、スカスカと言ってもいいようなこのプロジェクトについて話し合っている筈なのに、あんなあっさりと話を終わらせるなんて気にはなるだろう。
「あの枦山さん。一つ聞いてもいいですか?」
「はい、なんでしょう」
気になって仕方がない私は車を運転している枦山さんに先程の態度について聞こうと声を掛けた。問いかけた本人は何処か淡白な返事だったが、そこは気にせずに私は聞く。
「妙にあっさりとAirLiveさんの話を終わらせてまで、私を家に送ってくれるのが気になっちゃいまして」
「あぁ、なるほど確かに花沢さんからしたら、自分を優先するなんてのは疑問に感じる事でしょう」
「はい」
枦山さんは軽く咳き込んで私を優先してくれる理由を話し始めた。
「実を言うとですね。昔、私はゲーマーを目指していた時期があったんですよ」
「そうなんですか?」
「はい、一時期プロゲーマーチームに入りたいと頑張っていた時期がありまして、その目指そうとした切っ掛けというのが、花沢さん___nana切っ掛けですね。あの当時のFPS
ゲームが好きな女子のほとんどは目指そうと決めた理由は同じなんじゃないですかね」
そう懐かしく話している枦山さんはバックミラー越しに映る私を一瞬だけチラ見して続ける。
「結局は諦めてしまいましたが、今現在nana__八森百夏を支えられる仕事が出来るなんて夢みたいですよ!」
「それが優先してくれる理由ですか?」
「はい、その通りです。この前のCRカップでnanaとして参加した所を見て感動して涙出てしまいましたし、やっぱりnanaってすげぇなと再度実感しました。そんな彼女をずっとサポートとなりたい、助けになりたいと思いました」
「へ、へぇそうなんですか」
あー、やっばいなぁ。直接私のことを褒められたのって、EP時代でも数える程しかなかったのもあってか、いつになく顔がニヤけてしまう。折角枦山さんが真面目に話しているのに、必死に顔のニヤけを抑えているのは情けなかった。
そんなこんなで車に一時間揺られていると、私が住んでいるマンション近くの景色が見え始めて来た。
「もうすぐで家に着きますので、降りる準備だけしといて下さい」
「あ、はい。わかりました」
車の座席に放り投げていたスマホと財布をポケットに突っ込んで、何時着いても降りられる準備を整える。枦山さんが運転する車をマンションの玄関前に停めて自動ドアを開けて降りた私は、届けてくれたお礼とプロジェクト成功しましょうと意気込みを言った。
「送ってくれてありがとうございます。それと〝Under・The・VirtualWorld〟絶対成功にさせましょう! お疲れ様でした」
「はい、そうですね。必ず成功させましょう。お疲れ様でした」
街並みに消えていく車の後ろが見えなくなるまで見届けたら、マンションの中に入って自室へと歩いていった。そして、自室へと戻った私は配信する為にパソコンを起動している傍らで、冷蔵庫で買いだめしている一本満足バーとinゼリーで空腹を満たした。
「今日からプロジェクト当日までの間は、しっかりとメール等の確認を怠らないようにしよう」
今日やってしまった寝坊の原因はメールを確認した、してないの問題ではないけれど.ちょっとでも関わる人達に迷惑を掛けないように心懸けないと、枦山さんの話を聞いてそう感じざるを得なかった。
そう考えている間にパソコンが起ち上がっていた。今から配信を行う為にサムネやコメント遅延等の配信を始める為の最終的な確認を行い、問題がありそうな点が見つからなかった。そして、最後に配信開始tweetを上げて、開始ボタンを押した。
#Virtualサンシャイン#燦々日光#八森百夏
【Epexlegends】ランクやる
チャンネル登録者数15,6万人
「はーい、皆さん。こんにちは八森です」
上位チャット 3,107人
コメント:今日こそ一桁の大台へ
コメント:がんばえー
コメント:一桁達成は生で見たことがないから楽しみ
コメント:今月に入ってから配信開始が遅いよな
普段は15時に開始して12時間以上配信やっているのに、先週と今日は開始時間は18時に開始したから視聴者の中にちょっとした違和感を感じる層が生まれているのだろう。そのコメントに触れようものなら、言わなくてもいいことまで言ってしまいそうになるので、コメントを拾い過ぎず、無視を決め込んで配信を続ける事にした。
「今日は久しぶりに本気でプレイしようかな」
どんな風になるかは予想出来てないけど、最近よくやっている〝Apexlegends〟が選ばれたからにはしっかりと仕上げたい元プロゲーマーの意地を見せたいからね!
誤字報告ありがとうございます。
sk005499様