私の耳元に置いてあるスマホから喧ましく鳴り響いているアラーム音で目が覚めた。眠り眼を擦りながら開いて掛けてきた相手を確認すると枦山さんからだった。
「あの花沢さん!!大丈夫ですか!?何か異変とかありませんでしたか!?」
「あ、あの....何があったですか?状況が掴めていないですけど」
その名前を見た瞬間....一気に眠気が吹っ飛んで、すぐに電話に出ると物凄く焦った声で私の事を心配された事に思いっ切り戸惑ってしまった。
とりあえず状況確認をする為に何があったのかと枦山さんに聞き返した。
すると、向こうの電話口で息を吸う音が聞こえた後、深刻なテンションで話し始める。
「すいません、焦っていました。先ず結論から申し上げますと.......八森百夏が元explosionのnanaってバレました」
「え?どういう事ですか。バレる原因とかパッと思い返しても無いと思うんですけど」
配信している時は身バレに繋がりそうな話題や発言を避けて話していた。例えば一月にあったCRカップの時だって家庭の事情で配信を一週間程休みますとTwitterで呟いたから八森百夏=nanaだとバレる筈がない。
そんな困惑している私にバレた原因を先程と打って変わって落ち着いて話し始める。
「どうしてバレたかと言いますと......あ、まずはこの記事を見て下さい。Disgordにリンクを貼りましたので」
「わかりました。......すいません。今パソコンを起動していますので少々待って下さい」
「大丈夫です。兎に角それを見てもらった方が大体の事はわかりますので」
枦山さんに言われるがままDiscordに貼られているリンクを踏んで飛ばれされた記事の見出しは『やはりそうだった!某企業所属のVtuberは元プロゲーマーnanaだった!』と大体的に書かれていた。記事の内容をまとめると、CRカップ時の音声と配信での声紋が九割以上一致する点やnanaと八森百夏のプレイ技術が似ていた等々の証拠やVirtualサンシャインが引き抜いただのソースが不確かでしっちゃかめっちゃかな記事だった。
「まぁ、実のところ八森百夏はnanaなんじゃないかというのは初配信から言われてました」
「え?そんなにわかりやすかったですか?」
「熱狂的なファンなら直ぐにピンとわかったでしょう」
「じゃあなんでその時は身バレとかが起きなかったですか」
「それはnanaが自分の意思で選んだ道だから、ファン達は突くことは出来なかったでしょうね」
確かに言われてみればEP時代に一回だけあったファンミーティングを行った際に、来てくれたファン達のほとんどは私の体調を心配する声を掛けてくれてた気がする。
「そして身バレを起こした犯人というのが、自称正義の執行者系Vtuber
「そんなヤバい人に目をつけられたんですか?」
天ノ裁忌の名前を口にした枦山さんの表情や声に隠し切れない嫌悪感を携帯電話越しに感じ取った。普段はそこまで人のことを嫌わなさそうな枦山さんでさえ、嫌悪感を示すのはよっぽどヤバいVtuberだと思った。
「まぁ、そのVがヤバいだけで、今回の身バレはファンの間では今更感があった為、そこまで騒ぎになるような燃え上がりにはなってないですね」
「という事は、そのことを口に出したり、無視を決め込めば大丈夫って事ですよね?」
「その通りですね。花沢さんが無視し続ければ、勝手に騒動が落ち着きますので」
「わかりました。騒動が治まるまでの間は、それ関係のコメントや発言を気を付けて配信していきます。こんな朝から教えてくれてありがとうございます」
カーテンから零れ出ている日差しから朝の10時くらいだろうと思っていた私は、早朝から今回の騒ぎに付き合ってもらったのでお礼を述べていると、驚いた反応をした後に声のトーンが幾つか下がった枦山さんに突っ込みが入る。
「え?......花沢さん、今は昼の一時ですけど?何言っているんですか?」
「あの、だって.....日がほとんど沈んだ頃に起きる事が多いから、てっきりそうなのかなぁと思ったですけど」
「なるほど、ライバーの.....いや、配信者特有の昼夜逆転から来た発言だったんですね?」
「.......そんな感じですかね?」
そこ等辺の配信者事情は全く把握してない。それにEP時代と対して生活が変わってないから、枦山さんに昼夜逆転してると言われても今の生活習慣が私にとっては普通の事だから、これといった事がいまいちピンときていない。枦山さんは最後に締めの言葉を通話を切った。
「私はまだ他の仕事がありますので、切らせていただきます。それでは配信、頑張って下さい!」
通話が切れた電話の画面をぼーっと一分程見つめていた私は、今からあpexをやりたいというよりもゲームをしたい気持ちが湧いていなかった。ふと視界に入ったのが、設置してから一度も電源を付けた事がない42インチの薄型テレビだった。
このテレビは今から一年以上前にEPを脱退してVtuberとしてやって行く為に、当時住んでいたEPの寮からVirtualサンシャインの事務所に近い物件へと引っ越しが終わった時にボスから、私宛に『引っ越し祝いと今までのお礼を込めて送ったよ』と書かれた紙と一緒にテレビが引っ越し先の部屋に送られてきた。
私自身。幼い時からずっとテレビで何かを見るということがあまりなかった為、テレビを貰った所で持ち腐れのは目に見えていたので、ボスに送り返そうと色々手を尽くしていた私に思わぬ壁にぶつかった。
「explosionの住所って、何処だったけ?」
約八年間も所属していたexplosionの住所が全くもって知らなかった。引っ越しする際にあった住所変更手続きとか荷造りの仕方がわからないので、代わりにボスにやってもらったから住所を知ることが出来なかった。その時の私の頭の中にはボスに送り返すのを諦めた私は説明書と睨めっこしながら何とか設置し終えた。
そんなことがあったテレビに私の目に止まった理由は、一年前ぐらいにボスに貰いはしたものの一度も使っていないのは、如何なものかというのが脳裏を過ったからである。
「.......つけてみようかな」
いざ、テレビをつける為に埃が被っているリモコン立てから、取り出して手に持った私は電源を付ける。電源が付いたテレビの画面に最初に映ったのはEP時代に撮った私の宣材写真と共に、『
「テレビのニュースとして取り上げられているけど、そんな悪い感じに言われてないし、やっぱり枦山さんが言ってた通りに無視をするのが良さそうだね」
他の番組でも取り上げられているのかを順にチャンネルを回していたが、あの番組以外は取り上げた所を確認出来なかった。その後は私がチャンネルを回していった中で面白そうな番組が放送されていたので、チャンネルをその番組に合わせて見ていた私はふと現在の時刻を確認した。
「えっと?今は......14時20分か。そろそろ配信の準備でもしようかな」
時間的に配信準備込みでいつも配信する時間帯より一時間程早いが、毎回十二時間以上配信している私のとっては誤差に等しいので、見ていたテレビの電源を切ってパソコンを起動させる為に配信部屋へと足を運ぶ。
配信準備が粗方終わった私は、身バレしたことによってどんな風になっているのか。立てた待機枠のコメント欄をチラッと覗いてみると、Vtuber辞めてEP戻れとコメントする視聴者とそれを注意する視聴者がそれぞれ二割、そのやり取りを無視して今日の配信を楽しみにしている視聴者が六割と分かれていた。思ったよりも騒ぎ立てる視聴者が少ないことに安堵した私は、配信開始tweetを上げて、開始ボタンを押した。
#Virtualサンシャイン#燦々日光#八森百夏
【Epexlegends】上位一桁を目指す
チャンネル登録者数15,7万人
「はい、皆さん。こんにちは、八森です。今日は配信タイトルに書いてある通り、プレデターの上位一桁を目指していきます」
上位チャット 4,973人
コメント:EP戻れ
コメント:↑黙れ
コメント:頑張って!
コメント:高級チーターに当たらないように!
「私も高級チーターには遭遇したくないですね。オートAIMや高速移動とかなら処理できるですけど、ダメージ改造されたチーターはどうしようもない。キャラコンでの弾避けには自信はありますが、全てを避け続けるのは大変なんだよね」
配信中も身バレに関するコメントを打つ視聴者とそれを注意する視聴者が騒いでいるけど、それに一切触れずに別のコメントを拾って返していた。
上位チャット 4,973人
コメント:無理とは言わずに大変と言ってる時点でお察し
天ノ裁忌:nanaなんだろ?いい加減ゲロって
コメント:ダメージ改造チーターは初耳だわ
コメント:遭遇した事がある
あまり身バレに触れずに配信をしている私に、業を煮やしたのか元凶である天ノ裁忌がコメント欄にいるけど、特に私や普通の視聴者は無視していつも通りの配信を続けた。
誤字報告ありがとうございます!
sk005499様