トップ二人が酔った勢いで立ち上げられたプロジェクト〝Under・The・Virtual World〟は、各運営陣のただならぬ努力と汗によって開催される〝Virtualサンシャイン〟〝AirLive〟のファンや参加するライバー達が待ち望んだであろうイベントだ。VirtualYoutuberが主役のイベントの中でも大規模の一大イベントが開催されたのだ。
それでは各分野で行われる企画を紹介して行こう。
以上の企画以外にも、この会場でしか入手できない〝Virtualサンシャイン〟と〝AirLive〟のライバーがコラボしている限定グッズやライバーをモチーフにしたコラボ食品なんかも販売されており、物販の行列は三時間以上の待ち時間がそこかしこに見られた。
そんなお祭り騒ぎの中に私はベレー帽を深く被って、茶色のサングラスを身に付けるというコテコテの変装姿で闊歩している所だ。会場内はサウナにいるような熱気が渦巻いており、クーラーでガンガンに冷えた待機部屋と違った世界が広がっていた。
「あっつ、飲み物でも買おうかな」
あまりの湿気による暑さで喉が渇いた私は、会場外にあった自動販売機で飲み物を買おうと財布を持っているかを確認した。
「......?.......!?」
ない、ないぞ。私の財布が!......待機部屋に置いて来てしまったのか?そんな事はない筈だよね?......一旦の所は待機部屋に戻って、財布の有無を確認しないといけないと思った瞬間___
「もしかして!八森百夏じゃね!?」
周囲の人に聞こえるような声が私に耳に入って来た。配信上で一切の八森百夏の中身についての明言を人が多い中で言うのは、砂糖に群がる蟻の状況を引き起こし兼ねないものだった。しかし、騒いでいるのは発言者のみで他の参加者は何事もなかったのように、物販に並んでたりコラボ食品を食べていたりとしていた。
「おい!あのnanaがここにいるぞ!サインをもらわなくていいのか!?」
扇動しようと大きな声をあげるも、喧騒によってかき消されてしまった。予想していた未来と違った状況に焦っている道化の彼を、放って置いて待機部屋にせっせと戻って行った。
財布を取りに待機部屋の前に立つと、中から楽しそうに話す声が聞こえてきた。一瞬入るのを躊躇ってしまった私は興味が私へとむかないように、静かに素早く財布を取ろうと決め込んで部屋の中へと入って行った。
「(私の財布があるのは.......)」
話し声は部屋の中に入っても止まる気配がなくそのまま話し続けている様子に私は、内心ドキドキしつつも平静を装って部屋の奥へと進んで行った。話している集団は〝AirLive〟のライバーさん達なのだろう。対して〝Virtualサンシャイン〟側のライバーである希望まひろ先輩と望の姿は見えないが、バック自体はゲーム分野のライバーの人数分あったので、会場内を歩き回っているか、他の所へと遊びに行っていると予想する。
そして目的の財布が入っているショルダーバッグの前に来た私は、普通に財布を手に取って待機部屋から退室した後、無事に飲み物を買う事が出来た私はそれを片手に、集合時間まで会場内をぶらぶらと歩き回っていた。
午前の部である〝V的解釈?日本昔話〟が何の滞りもなく無事に成功を収めたらしく、喜びの叫び声が廊下の方から私がいる待機部屋まで届いてきていた。その叫び声に若干驚きはしたものの、叫んだ人の気持ちは分からなくもない。だって、私もEP時代に初めて世界を獲った時なんて....柄にもなく叫んでしまったのを覚えているからね。
「それではゲーム分野〝OneTakeChampion〟の参加ライバーさん達はこちらへどうぞ!」
待機部屋にやって来た会場スタッフの案内に従って、その場にいるライバー全員は前日のリハーサル時に指定された席順に着いた。開始までの間は割り振られたDidcord部屋に移動して軽く挨拶を交わした。
「アイ子さん。企画のトップバッターなので、気合を入れて頑張りましょう!」
「うん。頑張ろうね」
企画開始まで一分前ぐらいになった時、スタッフの人が大きな声で開始のコールが耳に届いたと同時に一気に私達の配信者としてのスイッチが入る。
「もうすぐ声、乗りまーす!」
「はい、皆さん。こんにちは!〝Virtualサンシャイン〟所属の八森百夏でーす!」
「はア~~イ!こんにちは、皆さん。〝AirLive〟所属のヴァーチャルハイブリッドAIのアイ子と申します!」
「昼の部からは私達__ゲーム分野のライバーがお送りする〝OneTakeChampion〟を楽しんで行って下さい!」
この私が言ったアナウンスによって、画面の向こう側にいるファン達がどんな盛り上がりを見せているかは分からないけど、それは普段の配信と同じなので変に気負いせずに企画の進行を進めていった。
「それでは企画説明に入るよ!皆は既に知っていると思うけど、ボクの説明をしっかり聞いてね?と言っても、企画の内容は至ってシンプル!一発でチャンピオンを獲れ!というものだよ」
「私達がこの企画の一番槍としてチャンピオンを獲って行くからね!」
開始前に開始ボタンを押していたので、ゴースティングの心配もなくキャラ選択画面へと切り替わった。
「ボクは今日もトパーズで行きます!」
「じゃあ私はジェネラルタルでやって行こうと思います」
私達の部隊バナー、チャンピオン部隊バナーと順に出た後に目の前にueensMountain〟のマップが広がっていた。私達は顔合わせ配信以降、ずっと裏で時間が合う時にしていた練習で決めたランドマークである〝HydroDam〟へと降り立って行った。
「ハイドロに降りて来ているパーティーは東方面に一つ.....だけだね」
「了解。ボクはピンを刺した所を漁って来るよ」
敵からの奇襲を警戒しつつ集められるだけの物資を漁り回っておく、ハイドしてチャンピオン取るよりも好戦的に動いた方が見ている方も退屈させないし、何よりも配信者として見せ場があった方が華があるからね。その為倒した相手のデスボックスを漁る時間の短縮の意味を込めてのこの漁り方である。
「アイ子さんの回復状況は?」
「ボクは1、6、8、1かな?バッテリーが一個欲しいかなぐらいだよ。八森さんの方はどう?」
「あ、私は3、2、8、1だね。一個を落とせば、バッテリーが2つずつになるね」
アイ子さんの武器構成をキャラから見ると、十分に戦えそうな構成で、私の武器構成は〝Wings〟と〝Fullning〟の構成で、今から東側にいるパーティーへと強襲しに、足音が聞こえないようにゆっくりと近づいて行った。
「じゃあ私が合図したらウルトのジャンパーで仕掛けに行きますよ」
「はい、わかりました」
スコープを覗いて相手のパーティーがまだ漁っているようだったら、今すぐ仕掛けに行こうと考えているけども、既に相手のパーティーが漁り終わっていて、こちらへ攻めに動く様子が見られたら、ウル促を巻いてジェネラルタルのウルトでロックしてからのトパーズのジャンパーで強襲する二パターンを考えている。
「(見た感じはまだ漁っているね)よし、ジャンパーをピンの所に置いて下さい!攻めますよ」
「あ、はいっと置きました」
「じゃあ行くよー!おらー!」
〝Wings〟を構えながら設置したジャンパーを踏んで油断しているパーティーへ強襲を仕掛けに行った。私が予想した通りに敵は突如としてやって来た私達に一瞬怯んで立ち竦んだまま応戦したが、空しくもあっさりと私達によって壊滅された。
「漁夫警戒しておくので、弾やシールド等の補充して下さい」
「ささっと補充しますから、八森さんも補充しちゃってください」
最終安地の円は激戦区の〝ScullCity〟がすっぽりと治まるような感じで、残りの部隊数は5パーティー、生存人数が6人なので、私達以外全員ハイドをしている状態になっている。
「キルログを見ていた感じだと、私達以外全員が一人なので.....絶対に漁夫しに来ます。なので、周囲の警戒を怠らずにお願いします」
「うん。しっかりと警戒するね」
私達が今陣取っているのが町の真ん中にある高い建築物の南側に籠っている。一緒に同居している敵さんはいないが、外の壁際に一人いるのは知っているので、警戒しつつウル促を巻いてた私はこの後の作戦をアイ子さんに伝える。
「あそこのキーピンに敵がいますが....気にせずに最終収縮開始まで10秒切ったら私の後を追って来てください」
「ここまで来たら八森さんに任せるよ」
最終収縮まで10秒を切ったと同時にジェネラルタルのスキルとウルトの順で収縮の中心へと投げて、安地外から来るホロウやライフヒールのカットした後は中心部まで来た敵を落として、無事にチャンピオンを獲る事が出来た。
「やったぁーー!チャンピオンを獲ったよ!ああぁ.....緊張したぁ~~~~」
「ふぅ、流石に緊張したなぁ」
この次に挑戦する希望まひろ先輩と空色つばささんにバトンタッチした私とアイ子さんは待機部屋へとゆったりとした歩幅で、部屋にある席にもたれかかりながら先程の試合の感想というよりも疲れ自慢を一つずつ言い合った。
「何か今日の試合、今までゲームした中で疲労感が凄く感じるの何だろう?」
「ボクも八森さんに付いていくのも必至で眼精疲労になりそうなくらい酷使したよ」
お互いにそれ以上に何も言わずに待機部屋に設置しているテレビモニターに映る先輩達の雄姿を眺めていると、次瞬きをしたら、私の体を揺らす枦山さんの姿が映っていた。
「.......八森さん起きて下さい。この後は参加ライバー全員で〝Butter-Fly〟を歌うんですよ!」
如何やら私は寝落ちしていた間に〝Under・The・Virtual World〟の企画は全部終わっていた。最後に行われる〝参加したライバーで全員で歌う〟が始まる時間が迫ってきているのに、一向に来ない私を枦山さんが呼びに来た
所、ぐーすかぐーすかと寝ていた私を起こしてくれたおかげで、何とか時間ギリギリに間に合う事が出来た。
「(揃ってないよね?私が最後でした!って、オチはいらないからね)」
そう思いながらスタジオ内を覗いて見ると、既に来ていた何人かのライバーは準備完了していた。まだ来ていない人がいる事に、ホッと胸をなでおろして用意されている全身を包む黒のスーツと関節部にくっ付けるトラッキングマーカーを着替え室へと持って身に付ける。
「(私の3D配信前に披露する事になるとはね。.......確か3Dモデルを取ったのが、格付けチェック後にやったから。完成するのに約二か月掛かったと、単純計算で考えればそうだから.....制作陣の人達の苦労が計り知れないね)」
開始時間まで十分を切った所で焦った様相でスタジオに駆け込んで来るライバー数名がさっさと着替えに行く姿を見て、枦山さんに起こしてもらったおかげでドタバタとしなくて済んだ事に感謝した。何とか全員時間前には着替えて、決められた立ち位置へと移動した。静かなスタッフのキュー出し後に、私達__ライバーの前にある画面にカウントダウンを知らせる映像が流れる。
今回の為に〝Butter-Fly〟を我々__VirtualYoutuberに合わせてリメイクした曲調で歌詞はそのままとなっている歌の前奏と共に午前と昼そして午後の部での名シーンが流れた後、一斉に合わせて〝Butter-Fly〟を歌い出した。
『........ご機嫌な蝶になって♪きらめく風に乗って♪今すぐ♪キミに会いに行こう♪』
『余計な事なんて♪忘れた方がマシさ♪これ以上♪シャレてる時間はない♪』
歌い始めはバテる事なくスムーズにいけるのだが、一番パートを過ぎると少しずつ息が切れ始める。この時の為に体を無理のない範囲で作っていたが、所詮は付け焼き刃程度でしかなかった。最後の声の伸ばしなんかは、死にかけの呻き声を必死に出していた。
曲が完全に終わった瞬間。スタジオまでに届いてきたファン達の感激の声に、口には出してなかったけど全員の心中では驚嘆の声が脳内に響いてた事だろう。そして、ファン達の反応こそが〝Under・The・Virtual World〟の成功を意味していた。
誤字報告ありがとうございます。
sk005499様